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ヤフーが「日本のリーダーを創る」カンファレンスを始めた理由

ヤフーが「日本のリーダーを創る」カンファレンスを始めた理由

2018年2月14日、Yahoo!アカデミアカンファレンス2018が開催。そのレポートと、伊藤羊一さん×角の対談記事を面白法人カヤック 広報の渡辺裕子さんにご執筆いただきました。渡辺さんはYahoo! アカデミアで使われているケースライティングを多数手がけるほか、2017年4月には「linotice」『「100年続く会社をつくる人を育てたい」Yahoo!アカデミア責任者・伊藤羊一が考える、新たなリーダー育成の方法論』の記事を掲載するなど、Yahoo! アカデミアの挑戦を目の当たりにしています。そんな彼女が見たYahoo!アカデミアカンファレンスとは、どのようなものだったのでしょうか。

 
Yahoo!アカデミア学長に就任する直前の伊藤羊一さんの取材をさせてもらったのは、ちょうど一年前のことだった。

 

ヤフーの企業内大学であるYahoo!アカデミア。その設立の経緯や展望を一通り伺った後に、印象的な一言があった。「Yahoo!アカデミアをヤフーのみならず、インターネット業界全体の『学ぶ場』としたい」という。

 

「インターネット業界にいる人たちが『えっ、おまえ、まだYahoo!アカデミアに行っていないの?』『それ、やばいんじゃない?』とかいいながら(笑)、インターネット時代のリーダーに必要なスキルやマインドをみんながアカデミアで鍛えて、社内外の人たちが協働しながら、新しい価値を生み出していくことができると思うんですよね」

 

そのYahoo!アカデミアが、今春、新たにカンファレンスを立ち上げた。

 

ヤフー社員のみならず、外部に開かれたカンファレンスとして、様々な領域の第一線で活躍している人たちが集うというので、行ってきた(参加者はこちらから)。以下、「Yahoo!アカデミアカンファレンス2018」当日の様子をレポートする。

 

■Yahoo!アカデミアは「公共財」を目指す

 

ヤフー本社内の広々とした会議室に入ると、椅子が大きな円状に100席ほど並んでいる。ステージもなければ、座席指定もない。空いていた席に座ると、右隣にはOne JAPAN代表の濱松誠さん、左隣には東邦レオ代表取締役社長の吉川稔社長。

 

開会の時刻になり、伊藤学長が開会の挨拶を始める。「2018年2月14日、Yahoo!アカデミアは、外に踏み出します」というスライドが映し出された。

 

「これまで3年間、ヤフー社内で、リーダー育成を行なってきました。でも、インターネット時代に経営のセオリーは変わりつつある。Yahoo!アカデミアは、公共財を目指します」

 

ヤフーの社内研修ではなく、インターネット業会の勉強会でもない。ここに集まったメンバーたちで「明日の日本を創るリーダーシップ」をつくることが、この会の目的だという。

 

開会挨拶に続いて、インクルージョン・ジャパン(以下、ICJ) 代表取締役の服部結花さんが進行に立った。

 

(服部結花さんと伊藤羊一さん)

 

今回の会議は、Open Space Technology(以下:OST)手法を使って行われるという。参加者が課題を提案して、仲間を募り、議論を通じて、課題解決に向けたプロジェクトにつなげていくというものだ。ICJは、このカンファレンスの心臓ともいえるOSTの手法を、練習ラウンドをしながら、Yahoo!アカデミアのメンバーたちと準備してきた。

 

司会がアジェンダを募ると、真っ先に手を挙げたのは、ICCパートナーズ 代表取締役の小林雅さん。「熱い場、コミュニティをどうつくるか」をテーマにしようと呼びかける。

 

(小林雅さん)

 

前横須賀市長の吉田雄人さんは「親が身元引受けをしない、少年院を出た若者のために私たちは何ができるか」、Needs-One Co.,Ltd.共同創業者の牧浦土雅さんは「政治と他の距離を縮めるには」。ほぼ日取締役CFOの篠田真貴子さんは「会社と株主の関係を多様にするにはどうしたらよいか」をテーマに提案する。

 

たちまち28のテーマが集まったが、今回は、10のワークショップを2ラウンドやるということで、20のテーマに絞り込まれる。

 

 

参加者は関心のあるテーマのテーブルに行き、議論が始まる。1ラウンドは40分。今回の統一テーマである「明日の日本を創るリーダーシップ」を実現するために、それぞれのアジェンダで、自分たちに何ができるか議論する。

 

■「ほぼ日」CFO篠田真貴子さんとベンチャーキャピタリストや経営者たちが語ったこと

 

「会社と株主の関係を多様にするにはどうしたらよいか」のテーブルに行ってみた。iSGSインベストメントワークス代表パートナー五嶋一人さん、アイスタイル取締役CFO菅原敬さん、Kaizen Platform代表取締役須藤憲司さん、Arbor Venturesパートナー高岡美緒さん、ジェイ・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー田中博文さん、マクアケ代表取締役社長 中山亮太郎さん、ヤフー執行役員社長室長の志立正嗣さんほか、20名近い参加者が円陣に座る。

 

「会社と株主の関係って、いろいろありますよね」テーマを提案した人が議長となるルールのため、ほぼ日篠田真貴子さんの進行で、ディスカッションが始まった。

 

 

「株主にとって、売上や利益が大事なのは当然。でも、どの会社の株主になるのか、別の要素で決める人もいるかもしれない。その可能性を考えるために、そもそも株主が何を会社に求めるのか、考えてみたいと思います」

 

売上やROEといったといった経済的要因。商品やサービスへのロイヤリティ、企業理念への共感、経営者の魅力といった非経済的要因が、次から次へと挙がる。

 

「ほぼ日は『柔らかなIPO』といって上場しましたけど、上場申請前に東京証券取引所に相談に行ったんですよね」アイスタイル菅原さんが篠田さんにいう。

 

(篠田真貴子さん)

 

「そうそう。上場推進部に会いました。そうしたら、東証の目指す市場の魅力は、多様性だと言われたんですよ。市場の多様性こそ、上海やシンガポールの市場に負けない、アジアのタイムゾーンでトップであり続ける鍵なんです。だからほぼ日みたいな会社も、上場していいんだと」

 

多様な会社の株式が市場で流通する。株主は、それぞれの視点で株式を購入する。その「多様さ」とはなんだろう。

 

「カゴメは株主向けイベントに力を入れていて、専用トマト農園の見学会を開いているんですよね。株主にとって、そのトマトは特別なんです。それを手に入れるということは、商品への愛情かもしれないし、カゴメの企業哲学への共感かもしれない。株主になることを通じて、何かにコミットしていると思うんです」

 

「子供が入社した会社を応援したくて、親がその会社の株を買うことはありますよね。でも現在の証券市場では、ROEやROIばかりがフォーカスされて、そういう買い方をしていいということさえ誰も教えてくれない」

 

「上場株式は投資家保護の観点から、 金融商品取引法で厳格に販売方法が 決められているのだけれど、株式の売り場が画一的ですよね。そもそも証券会社のサイトのUIが良くない(笑)。各社の株価推移やROEばかりで、会社を応援するために株を買うという視点が入っていない」Kaizen Platform須藤憲司さんの言葉を皮切りに、株式を購入するチャネルのあり方に議論が移る。

 

「そうなんですよ。スーパーの店頭で買えたっていいし、大好きなゲームで遊んだ後、画面に「この会社の株を買う」というボタンがあったら、そこから株を買う人もいるかもしれない。そういう動線が今は存在しないんです」

 

「アメリカでちょっと面白いベンチャーがあって、株を買う権利をギフトカードにしてプレゼントできるんですよ」

 

「そうした仕組みをブロックチェーン技術を使ってつくれないですかね」

 

企業の多様性。固有の魅力を支持してくれるファンを獲得すること。企業の価値観や哲学と、短期的な業績評価は、どう両立し得るのか。

 

「僕はベンチャーキャピタルやっていますけど、BSやPLだけを見て投資するなんて絶対にしません。経営者に惚れ込んで投資する。未上場株式投資なら当然のことが、上場市場ではなぜかそうならない」iSGSインベストメントワークス五嶋さんがいう。「上場するから制約が生まれるというわけではないんですよ。クラウドファンディングだろうが、ICOだろうが、「こういう成長を目指します」というのは、出資者に必ず約束します。それは、どんな資金調達でも同じ」

 

「でも四半期ごとの数字だけ評価されるのもどうなんでしょうね。Amazonだって、ある時期までずっと赤字で配当もしていなかったのだし、数年後にこうなりますというビジョンがあれば、目先の業績にこだわりすぎる必要はないんじゃないでしょうか」

 

アイスタイルCFO菅原敬さんがこう返す。「機関投資家は短期的な経済的リターンだけを追求すると思われがちですが、そうでもないんですよ。ロングオンリーと呼ばれるタイプの運用会社は、7〜10年保有するのが普通ですから、四半期ごとの決算が多少落ち込んでも笑っています。見ているのは、会社と経営者のビジョンです」

 

「そうそう。そもそも発行体の努力が足りないケースも多い。事業を通じて、この世界で何がしたいのかという世界観。オウンドメディアをつくってもいいし、ソーシャルメディアを活用してもいいから、とにかく伝えることが必要ですよね。それが本来のIRだし、その努力ができていない発行体が圧倒的に多いんじゃないでしょうか」

 

五嶋さんの言葉を、篠田さんがこう続ける。

 

「会社は自然物ではなく仕組みなので、存在するには、そこにいていいんだよ、という社会の承認が必要なんです。その承認を得るプロセスこそが、株主との関係性であり、コミュニケーションだと思うんです。一番面白いコンテンツは、事業ですから」

 

■日本の「虎の穴」となる場をつくる

 

40分があっという間に終わる。2ラウンド、合計80分のワークショップの後、20のテーマの内、どれが一番重要だと思ったか、リアルタイムで記録された議事録をスマホで確認しながら、参加者たちが投票する。

 

この日、1位はk-works代表取締役渡辺克己さんを議長に、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス取締役 島田由香さん、ヤッホーブルーイング代表取締役社長井手直行さんらのチームによる「教育のために大人がどう関わるべきか?」。2位はタレンティオ代表取締役兼CEO佐野一機さんを議長とする「人と企業の新しい関係」、3位は同点で、ジャーナリスト堀潤さんを議長とする「対話が苦手な空気をどう変える?」と、篠田真貴子さんを議長とする「会社と株主の関係を多様にするにはどうしたらよいか?」だった。

 

(1位に選ばれた「教育のために大人がどう関わるべきか?」)

 

閉会の時間が近づき、参加者が様々な感想をシェアする。ABBALab代表取締役 小笠原治さんが「面白かったですね」といえば、楽天大学学長の仲山 進也さんは「今度は二泊三日でやってください」といって、会場の笑いを誘った。

 

長丁場のカンファレンスの後は、懇親会。GRA代表取締役CEOの岩佐大輝さんや、世界各国でレストランを経営するシェフの松嶋啓介さんらにお会いする。4月からヤフーのCEOに就任する川邊健太郎さん、常務となる小澤隆生さんもいる。熱気がすごい。

 

1年前の記事で、Yahoo!アカデミアは、選抜されたヤフー社員たちが集まる「虎の穴」だと書いた。

 

「Yahoo!アカデミアカンファレンス」は、日本という国の「虎の穴」に向けて、一歩を踏み出したのだと思った。今日。

 

この日、誰かが言っていたけれど、日本全体を見れば、沈みゆく船だ。高齢化は進み、人口は減少の一途を辿り、規制緩和は進まない。人工知能やビッグデータ活用の領域でも、他国に水を空けられつつある。

 

一方で、軽やかに領域を超えながら、世界市場で挑戦を続ける人たちがいる。飄々として、今日の議論にあったように「リーダーとして楽しみ続けるためには」なんていうテーマに取組んでいる。そして、徹底的にやり抜く人たちがいる。

 

 

「リーダーシップとは、自分自身をリードすることから始まる」

 

「Lead the self, Lead the People. Lead the Society」––Yahoo!アカデミア内でよく使われているというこの言葉は、もともとISL代表の野田智義さんのおっしゃった言葉が起源だという。

 

リーダーに生まれつくのではない。リーダーを目指して、あるいは世界に何かの爪痕を残すことを目指して、高みを目指す人たち。その姿を見て、人々は後に続こうとする。自分も世界を変えたいと願う。誰か一人でも歩き始めて、その人の流れが生まれて、リーダーが生まれる。そんな人たちが増えたなら、沈みゆく船も、再び動き始めるかもしれない。

 


 

文:渡辺 裕子 面白法人カヤック 広報

2009年からグロービスでリーダーズ・カンファレンス「G1サミット」立上げに参画。事務局長としてプログラム企画・運営・社団法人運営を担当。2017年夏より面白法人カヤックにて広報・事業開発を担当。メディア化する企業や地域の発信をテーマに、記事を書いたりカンファレンスを手伝ったり。執筆記事にYahoo!採用オウンドメディア「linotice」ほか。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。

 


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