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対談

「官僚的に生きてきた」伊藤氏が覚醒したタイミングとヤフーに転じた理由

Yahoo!アカデミア学長であり、グロービス経営大学院客員教授でもある伊藤羊一氏。初の著作「キングダム 最強のチームと自分をつくる」も発売直後に増刷が決定するなど好調です。そんな伊藤氏と、フィラメントCEO角との対談が実現。前編では、自身の仕事観をくつがえすターニングポイントとなった「ある出来事」について語ります。

プロフィール

伊藤羊一(いとう・よういち)

伊藤羊一(いとう・よういち)

日本興業銀行から2003年プラス株式会社に転じ、流通カンパニーにて物流、マーケティング、事業再編・再生に従事。2012年執行役員ヴァイスプレジデントとして、事業全般を統括。 2015年4月ヤフー株式会社に転じ、企業内大学Yahoo!アカデミア学長として、次世代リーダー育成を行う。またグロービス経営大学院で教壇に立つほか、株式会社ウェイウェイ代表として、リーダーシップ開発、様々なインキュベーションプログラムで事業開発サポートも行う。 著作「キングダム 最高のチームと自分を作る(かんき出版)」

角勝(すみ・まさる)

角勝(すみ・まさる)

大学で歴史を学んだ後、大阪市に入職。在職中にイノベーション創出を支援する施設「大阪イノベーションハブ」の設立・運営に携わったのちに2015年3月大阪市を退職。各地でオープンイノベーションの支援、ハッカソンの企画運営を行っている。

 

■■■アンパンマン症候群■■■

 

角:本日はよろしくお願いします。さっきチラッと見たんですが、(伊藤)羊一さんの名刺、黒色なんですね。

 

伊藤:これは、スターバックスのブラックエプロンみたいなもの。

 

 

角:黒帯ですか?

 

伊藤:そうそう、10人くらいしかいないの。

 

参考)「たった1%の狭き門。黒帯制度とは?」

 

角:羊一さん、いつも全国を飛び回っていますよね。

 

伊藤:そうなんですよ。でもね、どんどんアウトプットが増えてくると、枯渇しちゃわないだろうかって感じがして。

なんかね、自分がアンパンマンみたいな気分になってくる。

 

角:飛び回って、顔をちぎっては与え、ちぎっては与え……

 

伊藤:そうなんですよ。完全に、アンパンマン症候群。

 

角:いきなり面白いキーワードがでてきた!

 

伊藤:やっぱり、インプットがあって、アウトプットしないとね。人に一方的に話すばかりではなくて。今日みたいな対談だと、話している中で発見することも出てくるんですけどね。

 

角:雑談でもいいので合間に入れていかないと、枯渇しますよね。

 

伊藤:こうやって1対1で話すと、自分の気持ちや考えも整理できるし、貴重な自分のインプットの機会になる。

 

今日は「Re:frame」というテーマを聞いて、リフレームの対象を挙げるなら「自分自身の生き方」みたいなところだよなーってのが、頭から離れない。会社とか、日本とか、外に向けてリフレームって言う方が分かりやすいと思うんだけど、僕自身はやっぱり、自分と向き合うということをやってきて、変えてきたし。他の人にも「俺にもできるんだからみんなそうやって自分を解き放った方がいいよね」って伝えることを、今は生業にしてるところがあるしね。

 

角:その話、聞きたいです!

 

■■■自分で決めるという覚悟■■■

 

伊藤:こう言うと格好つけるみたいだけど、昔から「お客さんに喜んでもらってなんぼ」というところがすごくあって。

 

お客さんのことを考えるというのはいいことなんだけど、それだけじゃダメで。目的のために(あえてお客さんの想像を裏切るような飛躍をもって)最短距離を取る必要な時ってあると思うんですよ。でも僕は官僚的、やるべきことを淡々とやるって意味なんだけど、お客さんのことを考えるということを官僚的にちゃんとやるっていうのが働くということだ、っていう風にずっと思ってたんですよね。

 

角:それっていつぐらいの時ですか?

 

 

伊藤:44歳くらいまでですね。

 

角:結構最近ですね。ヤフーに入るまでとか?

 

伊藤:いや、今50歳で、44歳って東日本大震災の時(2011年)なんですよね。人生を簡単に振り返ると、20代は全然ダメで、それから周りから助けてもらって、ようやっと仕事をちゃんとやり始めたのが20代後半。30代は結果が出るから、ああ面白いって一生懸命仕事やってた。企業に雇われて一生懸命成果を出すことが正しい働き方なんだって。会社のことをちゃんとこなすとか、そういうことしか考えてなかった。震災の局面まで。

 

角:公務員も同じで、優秀な役人って与えられた役割をどうこなしていくかってところにフォーカスするし、そのためのモチベーションマネージメントをちゃんとできるのが良い役人なんですよね。

 

伊藤:完全にそうで、そういう仕事は割とできたほうだと思うし、それがいけないってことじゃないんだけど、でもそうすると会社と自分を並べた時に、明らかに会社の方が「自分より大事」みたいに考えちゃうんですよね。自分を消して「自分<会社」になって、組織の思うことをやるのが自分だ、っていう風に勘違いするんです。会社の言うことを実現するのが仕事で、会社員というのはそういうものだって。そこに対して「自分の人生を生きろ」って言われても、何言われてるのかさえ分からない。僕は、そういう状態だったんですよ。

 

なんでそれが震災の時に変わったのかっていうと、その時は、文具・オフィス家具メーカーのプラス株式会社の中間流通事業の部門にいて。そこでは、文房具だけじゃなくて、電池とか軍手、ゴム長靴、台車、消毒液、飲料、食品など、オフィスで必要なものをなんでも扱ってたんですよね。そして会社だけでなく、学校や役所でも使うものも扱っていて、土嚢(どのう)まであるんですよ。

 

角:災害に関係するものがひと通りあったと。

 

伊藤:そう。そういうものを商材にしていたので、震災が起きて、とにもかくにも一刻も早く商流と物流を戻さないとっていうのが当然あって、ものすごく速く復活させたんですよ。証明できないけど、聞いた話を総合するとたぶん流通会社の中で一番速かった。

 

その復旧のリーダーに、気がついたらなってたんですよ。俺やるからっていつの間にか指示出してた。そうするとリーダーとしての意志決定ということをやらざるを得ない状況になって。要はリソースが限られている中で、選択を迫られることの連続。Aを取るかBを取るか。Aを取りたい、でもAを取るということはBを捨てることになる。そんな選択を毎日、何十回もやり続けたんです。

 

非常事態の中でそれをひたすら決め続けたんですが、それって何に基づいて意志決定してるのかっていうと、「自分の価値観」だったんですよね。もちろん、会社の価値観やビジョンはあるわけだけど、あり得ない状況の中で、あっちを取るのかこっちを取るのかっていうような選択は誰にも明確に決めようがないんだ、それを決めるのは、まず「自分の価値観」なんだということを初めて知ったんです。

 

ああ「自分の人生を生きる人」って、こういう選択をして生きているんだ、人生って「決める」ことなんだなってことを、初めて知った。

 

結局、会社の価値観に基づいて与えられたことをやるっていうのが仕事のすべてではなくて、リーダーというのは自分で決めていくんだ、そのベースは自分の価値観なんだって気づいて。それが自分にとっての契機だった。それまでは、AとBがあったらプロコン(pros and cons:メリットとデメリット)を表にして「私としてはAが良いかと思うんですがいかがでしょうか」って。自分の意見まで添えて上申して決めていただく、っていうのを滞りなくやるっていうのが優秀な仕事の仕方だと思っていた。

 

角:官僚ですね。

 

伊藤:でしょ。官僚として、わりといけてたわけですよ。でも「全然違うわ、これ」みたいな。

 

角:能吏と、ちゃんと決定する人っていうのは違うって話ですね。

 

伊藤:非常事態の中で決定をする立場で、プロコンをちゃんと整理して考えるなんてことしていられない。基本的に100%確かなことはあり得ない状況で、それでも決めるんだっていう覚悟。

 

ああこれ、決めてるのは「自分」だなって実感した。「自分<会社」が「自分>会社」に逆転したんだよね。

 

そこから仕事の見方が変わった。それまではただの能吏だったけど、そこから自分の人生を生きられるようになったんです。

 

角:すごく共感します。自分も役所生活最後の3年間は、自分の価値観と組織に求められていることが、たまたま一致したんです。自分を出せる仕事が世の中にあって、それに従事する喜びを知った。何かを決める時に、なんか「そんなに考えなくても感覚的に分かる」みたいな。それは天職ってことなんだろうなって思って。それで退職して今の仕事をしてるんですよね。

 

伊藤:それに気づいちゃったんですよね。僕自身も、もちろん震災は突然のことなんだけども、何もないところからいきなり気づいて目覚めたんじゃなくて、いろいろやっていた中で、これでいいんだろうかって気持ちがどこかに薄々あったんだと思うんです。事故とか天変地異とかトラブルって、何かに気づくきっかけになることが多いんですよ。四の五の言わずにとにかくいろいろやらなきゃいけないっていう中で、自分のミッションをどうやって実現するかっていうスタンスに、ハッと気づいて。

 

角:非常事態ですごいストレスがかかると思うんですよ。でもやらなくちゃいけないっていう使命感の中で、みんな目覚めていくんですね。

後編へ続く

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