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対談

スマホ契約書から始まる親子の対話〜ヤフー伊藤羊一さんの場合〜

Filamentブログ史上最大となる45,000PVを記録した「元ヤフー執行役員・村上臣がお子さんに渡した「誓約書兼スマートフォン貸与契約書」がガチだった」。この記事を読んで、「うちもやりたい」という声をSNSなどで多くいただきました。

ぜひ、実際に渡した人の話を聞いてみたい……そう考えていたところ、新著「1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術」も好調な伊藤羊一さんが、娘さんに渡したという情報をキャッチ。2018年2月19日-22日に開催された「ICCサミット FUKUOKA 2018」の合間にお話をうかがいました。

プロフィール

伊藤羊一(いとう・よういち)

伊藤羊一(いとう・よういち)

日本興業銀行から2003年プラス株式会社に転じ、流通カンパニーにて物流、マーケティング、事業再編・再生に従事。2012年執行役員ヴァイスプレジデントとして、事業全般を統括。 2015年4月ヤフー株式会社に転じ、企業内大学Yahoo!アカデミア学長として、次世代リーダー育成を行う。またグロービス経営大学院で教壇に立つほか、株式会社ウェイウェイ代表として、リーダーシップ開発、様々なインキュベーションプログラムで事業開発サポートも行う。 著作「キングダム 最高のチームと自分を作る(かんき出版)」「1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術

角勝(すみ・まさる)

角勝(すみ・まさる)

大学で歴史を学んだ後、大阪市に入職。在職中にイノベーション創出を支援する施設「大阪イノベーションハブ」の設立・運営に携わったのちに2015年3月大阪市を退職。各地でオープンイノベーションの支援、ハッカソンの企画運営を行っている。

契約書にサイン、そして……涙

角:お時間ありがとうございます。羊一さんのところも、お子さんと「スマホ契約書」を交わしたって聞いて。

伊藤:うちの娘が(村上)臣さんの息子さんと同じ小学校6年生なんだけど、もうずっと何年も「スマホがほしい」と言われてて。

俺も、「あ、おっけおっけ。中学に入ったらね」みたいな感じで返してた。

で、いよいよ中学に入るので、「スマホね!」と念を押されて。

角:臣さんのところは、タブレットは渡していたって話だったけど、羊一さんのところも?

伊藤:ええ。タブレットは幼稚園の頃からずっと使ってて。 それでね、結構ね、いいかげんな使い方をさせていたんですよね。

普通、タブレットは1日何時間とか、観ていいのはこれとこれだけとか、制限するじゃないですか。親は。

でもうちはひたすら見せまくり。あんまり制限もかけず、夜も11時過ぎて帰ったらまだみてた、みたいなことも結構あって。

「俺、利用方法について、あんまり娘にレクチャーできてねえよなー」と思ってたんですよ。

そしたら、契約書が目に入って。「おおっ」と思って。今更、時間を決めたりするのはちょっと無理かなと思ったんだけどね。でもせっかくだからちょっとやってみようかなと。

角:タブレットは、今までどういう使い方をしているんですか?

伊藤:YouTubeを見ているだけなんですよね。もう、ひたすらYouTubeを見ているんですよ。

角:うちも同じですよ。ひたすらYouTube。

伊藤:でしょ、それで俺らもガキの頃って、外で遊んできて帰って来たらずっとTVを見てたじゃない(笑)

角:はいはい(笑)

伊藤:それと全然変わらないから、別にYouTubeを観ていても、いいんじゃないという感じだった。でもスマートフォンだとそうはいかないかなと思って、それでね、どうしようかなと思ったんだけど、これ(契約書)がいいかと思って。娘にレクチャーできる最初で最後のチャンスだし、読んでみたらいいことが書いてあったから。「よし、これでいくか」と。

角:スマートフォンを買うから、ちゃんと契約しようと娘さんに言ったんですね?

伊藤:そうそう。あんまり、「ものをあげるからこれをやれ」というのもどうかなと思うんだけど、ひとつのけじめだなと思って。それで渡してみた。

 

娘と一緒に一文一文読んでいって。途中、わからない言葉もあるから、解説しながら読んでいったんですよね。

 

角:うんうん。

伊藤:でね、一緒に読んでいるとね……なんか思い出すと泣けちゃうんですけど。

角:泣いてる! 羊一さん、今泣いてる!

伊藤:子どもが、泣き出すんですよね。

角:おお……。

伊藤:え、俺、まずいこと言っちゃったかなと思って。時間の制限がかかったのが嫌だったのかなと思って。

でも聞いてみたら、「いや、違う」って首を振って、そしてそのまま、聞いているわけですよ。俺の言っていることを。

角:泣いている理由は聞いてみたんですか?

伊藤:いや、聞いてないですね。なんせこっちも泣いていて余裕がなかった。それに、多分本人も言葉に出来ないんじゃないかな。ただ、嫌ではない、ということは伝わった。

俺が思うに、

・スマホの入る喜び

・約束を守らないといけないというプレッシャー

・大人扱いしてくれたことへの感謝

そういうのがあったのかな、みたいな。

角:小学校から中学校になって、少し怖いけど背伸びをしたくなる、そのタイミングと重なったんですね。

伊藤:そうなんですよ。で、泣いてる娘をみて、こっちも泣く。そして泣きながら解説する。おかしいだろ、この空間、みたいな(笑)

角:いやいや、愛を感じますよ!

スマホ契約書で学ぶ「権限」と「責任」

伊藤:やっぱりね、臣さんの記事にもあったけど、対話をするきっかけには間違いなくなったなと。

一言で言うなら、「責任と権限」。子どもって、基本「権限」はあっても「責任」はないですよね。

でもね、これからは自分も責任を伴うんだって、契約書を見て初めて認識したんだと思うんです。

角:うんうん。責任、そしてリスクの部分が結構強調されている部分だったんですよね。臣さんの契約書は。

スマートフォンがあると日々の生活がすごく便利になりますよね。一度その便利さを知ってしまうと、それを持たずに生活するのは、大人でも難しい。

でも、便利さと引き換えに負う責任やリスクは大きい。そういうのって、普段は大人があえて見せないようにしている。

でもその見せられなかったものが、契約書を通してまざまざと明らかにされていくというのって、怖さを覚えるだろうなと。

でもスマートフォンを持つ最初の段階で怖さを教えるというのは、大切なことなんだと思う。

伊藤:普通の契約書は「リスクがあるからやっちゃだめ」ってなるよね。だけどあの契約書はちょっと違うでしょ。「リスクあるよ、何かあったら相談してね」ってスタンス。あれがいいなと。「あれはやっちゃだめ」「これは見ちゃだめ」ってとりあげない。

リスクはあるけど、僕は起きることは起きるべくして起こると思うんで、あんまりこっちから制限するということはしたくないなと思っていて。

あの契約書、確かSNSのところで、「実際に面と向かって言えないことはSNSでも言うな」というのがありましたよね。きちんとコミュニケーションの道具として、SNSを、LINEを使うことさえキープできていれば、いいんじゃないかと思っています。

もしかしたら、リスクを回避させないことで、色々嫌な思いとかをすることがあるかもしれない。でも、それは別にスマホに限ったことではないし、経験しないとわからない部分もあると思うんで。自由にして、こちらがケアしよう、というスタンスでいるので、なるべく自由にしようとしています。

角:おっしゃるとおりですね。

スマホを持って、意識に変化が

伊藤:それでね、サインした後、スマホを買いに行ったわけですよ。

 

買いにいって「いえーい」ってはしゃいで、そして家に帰ってスマホをいじる。今度はLINEとかやりだすわけ。でも、基本、やっていることはYouTubeを観ることなんですよね(笑)

角:画面が小さくだっただけやん、みたいな(笑)

伊藤:で、その購入した日の夜、21時になって、俺に渡すわけです。

最初なんのことか思い出せなくて、「なんだっけ?」って聞いたら、「ほら、さっき決めたじゃん」って。そのままタブレットでYouTubeの続きは観るけど、スマホは返してきた。

角:おお。

伊藤:守ろうとする意識を持ってくれてるんだなと思いました。

角:面白いですね。僕も小学生の娘がいるから実際に渡した事例って参考になります。

そして自分の娘が中学に行くとき、そのときスマホを渡す情景が、頭に浮かんで……。

伊藤:絶対泣くよ!

角:絶対泣く! そういう父と娘・息子の語らいの場ができるきっかけになるのが、すごく良いですよね。

伊藤:間違いなく会話のきっかけになる。そして、それを通じて、権限と責任を意識する。

角:大人の階段ですよね。

伊藤:そうそう。そんなことをね、娘も多分初めて認識したと思う。

「自分がやることには責任を伴うんだ」ということを。

角:あの契約書、「甲」と「乙」という書き方になっているじゃないですか。あれもね、普通だったらもう大人になって、大学卒業して就職して初めて見るぐらいなものですよね。

それを小学校とか中学校になろうとしている小学生のときに、みて、それを交わすのって、ドキドキすると思うんですよね。やはり大人としてサインをすること、そしてその行為に対しての責任というのは強く意識するでしょうね。

伊藤:ね。で、あの契約書って、甲が通常の電話料金を出しますと。修理とかは乙が出しますと。ってなってるじゃないですか。

スマホの、ソフトバンクショップに行って、iPhoneを買ったんですけど、壊れたときの補償をつけてくれって言われて(笑)ちゃんと意識しているなと。

角:なるほど、アップルケアをね。面白い!

契約とは相手を縛るものではない

角:羊一さんは、あの契約書に特にアレンジは加えなかったんですか?

伊藤:僕はアレンジはしなかったですね。だってね、完成度が高いんですよ。

角:確かに。でも臣さんのところは男の子で、羊一さんのところは女の子ですね。SNSで何かしら被害にあうリスクは、一般的に男性に比べても、女性の方が高いんじゃないかと思うんですが。

伊藤:契約書に書いてある以上の説明はしていないですね。わりとうちの娘はね、結構慎重なんですよ。なので多分大丈夫だろうと。

角:お子さんの性格にも合わせて、これでいいんだろうというのを親が判断するんですね。

伊藤:うん、だから契約書をアレンジして使うというのはそのとおりで、もっとケアが必要な子の場合は、もっと事前に話をしておくのは必要なのかもしれない。

角:なるほど。このスマホの契約書は、これから春先になるたびに、リバイバルしそうな気がします。

伊藤:ええ、スマホを切り口に、契約とは相手を縛るものではない。「責任」と「権限」なんだ。まだ11歳、12歳だから、と子供扱いせずに、そこを明確にする親子の対話が大事だと思いました。

今はまだLINEとYouTubeだけですが、これから中学になったら、もっといろいろなことがやりたくなると思います、でも先回りしてだめって言ってもしょうがないんで、オープンに話し合える環境を作っていきたいですね。


(編集後記)

「親」と「子」がそれぞれ決まった役割を演じ、親が子どもをガチガチにマネジメントするのではなく、「信頼」に基づいて、子ども自身に自由な権限、そしてそれに応じた責任を持たせる。助言は与えるが強制はしない……村上臣さん、伊藤羊一さんのお二人からお話をうかがって、「ティール(進化)型の親子関係」そんなキーワードが浮かびました。情報を制限されない進化型の家庭で育った子どもたちは、将来どんな仕事を選び、どんな組織を作るのでしょうか。今から楽しみでなりません。

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