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対談

ワクワクするモノづくりで、後継者を増やす。TSUBAME HACK!の挑戦

全国屈指の金属加工技術を持つ新潟県燕市。ものづくりのまちとして発展を遂げてきたものの、近年は後継者不足の悩みを抱えています。この状況を打破するため、2016年にスタートした試みがアイデアソン・ハッカソンイベント「TSUBAME HACK!(ツバメハック)」。燕市の企業をはじめ、県内外のエンジニアや学生を巻き込み、昨年は待望の新商品開発を実現しました。3年目となる今年は何を目指していくのでしょうか?燕市のバレル研磨専門企業・徳吉工業代表の徳吉淳氏、東京とフランスを拠点に商品開発を行う美谷広海氏、燕市役所職員の山崎聡子氏、フィラメントの角勝による座談会をお届けします。

 

後継者不足の危機から生まれた「TSUBAME HACK!」

 

角  今年3年目を迎える「TSUBAMEHACK!」(以下、ツバメハック)ですが、これまでにどんな活動をしてきたか教えてください。

 

山崎 第1回目の『アイデアソン・ハッカソンってなあに?』を皮切りに、金属加工企業や家電メーカーとコラボしながら、チームで新商品のアイデアを練り、試作品を作るワークショップを行ってきました。東京六本木のDIY工房「TechShop Tokyo」開催時に出た案をきっかけに、新商品も誕生しています。職業も年齢もバラバラの参加者が集まることで化学反応が起き、画期的なアイデアが生まれるんです。ワクワクする空気感は独特ですね。

 

角  ツバメハックはどういう経緯で始められましたか?

 

山崎 燕市にはものづくり企業が集積していて、腕利きの職人も数多くいますが、後継者不足に悩まされているのが現状です。後継者がいなければやがて、ものづくりのまちは衰退していきます。そこで、新しい取り組みをして人を呼び込もうと考えたのが始まりでしたね。

 

(山崎聡子氏)

 

角  後継者不足は課題ですよね。よそ者の私から見れば、燕市はまち全体が“何でも作れるものづくりのプラットフォーム”です。生産工程が複雑な製品でも、様々な技術をもった企業が集まって分業化しているので地域内で完結する。いわゆるオープンイノベーションですよね。これって実はすごいことだと思うんです!

 

山崎 そうなのですが、地元の人にとっては当たり前なんですよね。

 

角  その当たり前は“豊かなエコシステム”だと気付いてもらうのも、ツバメハックの狙いの一つですよね。まずは燕市のものづくりに興味がある人達が集まってコミュニティを作り、新しいアイデアが産まれたら数ヶ月間かけて深く追求していく。そして一つの製品になるまで、みんなで意見を出し合い完成を目指す。プロセスを楽しむイベントであり、ムーブメントでもある気がします。

 

山崎 これまでにない新しい取り組みですよね。かつての燕市のものづくりのイメージは「3K」(キツい、汚い、給料安い)でした。代々続く家業を、子供に継がせたくないというお父さんも多くいるようで残念なことです。そんな中、徳吉工業の徳吉さんはすでに後継者がいるんですよね?

 

徳吉 はい、後継ぎの息子がいます。ですが、まわりの会社の多くは後継者がいないようで……。

 

角  徳吉さんは、常に新しいことにチャレンジしているように見えます。これまでと同じ仕事で精度を上げ続けるのは大変ですが、誰も手を付けていなことに取り組むのは、学びが多くワクワクするもの。徳吉さん自身が楽しそうに仕事をしている姿が伝わっているんじゃないでしょうか?

 

徳吉 アイデアソン・ハッカソンに参加したことで、さらに開眼して弾けたのかもしれません(笑)

 

(徳吉淳氏)

 

角  後継者不足という閉塞感が、ものづくり企業のイメージを下げているのかも。ツバメハックでワクワクを感じられれば、興味を持つ人が増えそうな気がしますね。

 

ハッカソン発の箸&スタンド「sutto」誕生秘話

 

角  2017年の東京開催で運命的に出会ったのが、世界を股にかけて活躍するクリエイター美谷広海さんでした。美谷さんがツバメハックに参加したのはなぜでしょうか?

 

 

美谷 燕三条地域にもともと興味があったからです。私は以前ものづくり企業にいましたし、現在は海外向けの商品開発を手がけています。燕市は研磨技術がすごいと聞いていましたが、他にもおもしろい企業だらけで……正直、想像以上でした!

 

角  実際にイベントに参加することで職人さんと出会い、燕市の可能性に気付いたのですね。その時に出たアイデアから生まれた新製品が、縦置きスタイルの箸&スタンド「sutto(スット)」ですよね。見事クラウドファンディングで目標支援金額達成とのこと。おめでとうございます!

 

美谷 ありがとうございます。suttoは、箸の先端と持ち手はチタン製、中央部はステンレス製で、スタンドに箸を縦置きすると平面で一体化する美しさが特徴です。これまでにないスタイルの箸とスタンドには、燕市の高い金属加工技術が活かされています。プレミアム版では、今井技巧さんの「リンギング」と呼ばれる金属同士が引き寄せられる技術を使い、スタンド同士が吸い付くユニークな仕様になっているのもポイントです。

 

 

角  革新的なsuttoのアイデアはどうやって生まれたのですか?

 

美谷 チームワークショップの新製品アイデア出しで、フォークとスプーンがカトラリー置きと一体化するという案が出たのですが、これを箸でやってみたらどうかと提案したんです。海外マーケットを意識すると、おもしろい製品になりそうだという予感がしました。

 

角  燕市の企業が何社も関わって製作しているそうですね。協力企業を探すのは大変でしたか?

 

美谷 はじめは苦戦しましたが、相性の良い一社を見つけたら、あとは順調に協力先が見つかりました。

 

角  製作したうえでの反省点はありますか?

 

美谷 ものづくり技術と精度にとことんこだわったので、価格が高くなってしまったことでしょうか。今後の課題ですね。

 

角  試作品を見てもらう中で、反響はいかがでしたか?

 

徳吉 それは私が担当したのですが、若い男性に好評でしたね。このスタンド、実は重さが1kgあって重量感と存在感が抜群なんですよ。さらに光り物なので、ジッポライターを自分で磨きたくなるような人にはたまらないようです。

 

美谷 女性はピカピカすぎるスタンドだと指紋汚れが付きそうなど、実用性を考えます。だからマット加工の方が良いと。さらになぜスタンドの角が四角なのか、持ちにくいぞとかね。

 

徳吉 一方、男性はカッコ良さを求める。だからリンギング技術を使った、スタンドが吸い付く仕組みがおもしろいと好評でしたね。

 

角  男性がターゲットの箸って、新しい発想ですよね。

 

美谷 私自身、モノにこだわりが強いからかもしれません。燕市のお隣の三条市に箸メーカーがあるのですが、高価な箸ほどピンポイントでつまむことができ、精度の緻密さを感じます。suttoも「嗜好品の箸&スタンド」を求めるこだわりの強い男性がターゲット層なのかもしれません。

 

角  それってオーバースペックじゃないですか?

 

美谷 オーバースペックで困ることはないですよ。造りが素晴らしいモノを使う気持ち良さを知ってしまったら、もう元には戻れません(笑)

 

(美谷広海氏)

 

車と一緒ですよ。高級車のパワフルでスムーズな乗り心地に魅力を感じるのもそうですね。

 

燕市の企業社長と東京のクリエイター、二人の信頼をつなぐのはSNS

 

角  徳吉さんにとって、異なる視点を持つ美谷さんと出会ったことで刺激はありましたか?

 

徳吉 もちろんです。美谷さんはフランス出身で様々な企業経験があり、さらに海外マーケットを開拓している方なので、私の知らない世界を知っています。学ぶことばかりです。

 

美谷 徳吉さんとはFacebookでつながっているので、お互いに興味があるイベントをチェックし合ったりしていますよね。距離が離れていても、日常生活をシェアしているので身近に感じます。

 

徳吉 この前、美谷さんから「めずらしい海外産カトラリーを見つけたから、おみやげに買っていきましょうか?」とメッセージがありました。新しい燕製品のアイデアに活かせるかもと思ってくれたそうです。いつも情報内容が濃くて、美谷さんってやっぱり謎の人だなぁと(笑)

 

美谷 いやいや。そういえば中国深セン市のメーカーフェアへ、一緒に行ったこともありましたね。

 

角  だいぶ仲が良いのですね。違った背景をもつ二人が、共同して製品開発するうえで大変だったことはありましたか?

 

美谷・徳吉 うーん……。特にないですね。

 

 

角  え! 意外ですね。私が主催するハッカソンでは、意見が対立してチームの雰囲気が悪くなることは度々あるのですが……。お二人ともこだわりがある方なので、ぶつかり合うことってありませんでした?

 

徳吉 製品化まで、問題なくスーッといきましたね。

 

美谷 ただ一点、ワークショップで一緒のチームだった方と疎遠になってしまったのは残念でしたね。SNSを利用していない方とは、コミュニケーションをとる手段があまりなかったんです。

 

角  SNSは離れた相手とコミュニケーションをとるうえで、鍵となるツールなのですね。プロジェクト以外の日常をお互いにシェアし合うことで距離感が縮まり、スムーズな製作につながったのかもしれませんね。

 

地域イベントに都内からの参加者を呼び込む方法とは?

 

角  今後、ツバメハックに希望することはありますか?

 

徳吉 開催期間はもっと長くても良いかもしれません。1日開催だとワークショップは2~3時間で終わってしまうので、少々物足りなさを感じてしまいます。

 

角  実は参加常連者からは長期開催にしてほしいと要望があるのですが、そうすると初参加の方にはハードルが高くなってしまうのが悩みどころなんです。

 

美谷 開催場所にもよりますよね。地方開催で都内から参加するには、交通費や宿泊費が自腹なので負担が大きいです。

 

角  神子島(かごしま)製作所さんとのワークショップの溶接体験など付加価値がある場合、2日間以上はガッツリ時間をかけたいところですがね。

 

美谷 それは確かに。燕市の企業と接触してより深く追求したくなったら、イベント後日に個別で企業訪問するのもありですか?

 

 

山崎 もちろんです。燕市の企業と参加者のつながりを作るのもツバメハックの目的の一つなので、ぜひプライベートでも燕市へ足を運んでみてほしいです。

 

角  燕市外からの参加者も増やしていきたいところですよね。

 

山崎 はい、ツバメハック1年目はコミュニティ作り、2年目は製品作りを目指してきたので、3年目の今年は燕市に興味があるクリエイターさんを呼び込んでいきたいと考えています。美谷さんのような発信力のある方に来てもらうのが理想です。

 

美谷 それであれば、ぜひ東京から会場までの無料バスを!

 

山崎 都内からの参加希望人数が多ければ、バスを貸し切ってしまうのもありかもしれませんね。

 

美谷 あとは「燕三条 工場の祭典」と融合させて相乗効果を狙ってみてはどうでしょうか? 工場見学をした後にアイデアソン・ハッカソンを行えば、燕市の企業とより深い交流を図れておもしろそうです。

 

角  または事前に都内で、燕市の企業や技術分野の勉強会をして商品アイデアを出してみて、そこで興味が高まった方は燕三条 工場の祭典へ行ってみてくださいね、という流れも良いかもしれません。

 

美谷 ハードルは低くしておいて、本気で取り組みたい方にコミットしてもらうのは良いですね。まずは都内開催イベントで気軽に参加してもらうことが大切ですね。

 

“本当のものづくりのまち”だから商品アイデアを実現できる

 

角  最後に、読者へぜひ伝えておきたい燕市の魅力を教えてください。

 

山崎 燕市はまち全体が一つの巨大工場というイメージです。職人のエキスパートが集まり、分業だからこそ多岐に渡る技術をもっています。製品開発をしたければ大抵なんでもできる底力があり、情報ネットワークが濃いので会社紹介もしてもらえます。ですが、最大の弱点は発信力の低さ。さらに職人は製品作りの専門家なので、アイデアやデザインスキルが足りていません。ぜひ何か作りたい商品アイデアがある方は、燕市に来て実現してほしいです!

 

 

徳吉 あまり目立たない小規模企業の中には、卓越した技術をもつ“すごい会社”が実はたくさんあります。実際に足を運んで、発掘する楽しさを感じてみてほしいです。

 

角  お二人がおっしゃる通り、燕市は実力のある企業数が膨大です。集積が多いから、ものづくりのまちとしての雰囲気が充満しています。美谷さんが心地良くsuttoを製作できたのは、その証明なのでは?

 

美谷 確かにそうですね。職人さんの目標に対して真摯な姿勢も、精度の高いものづくりをするのに合っていました。

 

角  本気で良いものを作ってみたい人には天国みたいなまちですよね。日本の各地域で「うちはものづくりのまちです!」と豪語しているけど、燕市こそ“本当のものづくりのまち”だと私は思います。実現したい商品アイデアをもっている方は、ぜひ燕市を訪れてみるべきですね。

 

(編集:羽渕 彰博)

 


 

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