トップ > 対談 > Tably及川卓也さんと角勝が語る、大企業の組織が抱える課題

対談

Tably及川卓也さんと角勝が語る、大企業の組織が抱える課題

エンジニアなどITに携わる方で、及川卓也さんの名前を知らない方は、まずいらっしゃらないのではないでしょうか? MicrosoftでWindows開発、GoogleでChrome開発の指揮を取られるなど、私達の使っている製品は、何かしら及川さんの恩恵を受けています。そんな及川さんと、フィラメントCEO角勝の対談が実現! 前編では出会いの場となった「世界防災ハッカソン Race for Resilience」を起点に、地方のIT問題、そして大企業の組織の話にまで広がっていきます。(文:宮内俊樹)

プロフィール

及川卓也(おいかわ・たくや)

及川卓也(おいかわ・たくや)

 Tably株式会社 代表取締役 Technology Enabler

 大学を卒業後、外資系コンピューターメーカーに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、その後、別の外資系企業にてOSの開発に携わる。その後、3社目となる外資系企業にてプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーとして勤務後、スタートアップを経て、独立。2019年1月、テクノロジーにより企業や社会の変革を支援するTably株式会社を設立。

 2011年の東日本大震災後に、災害復興支援や防災・減災にITを活用する活動を開始。一般社団法人情報支援レスキュー隊(IT DART)の代表理事。

 

角勝(すみ・まさる)

角勝(すみ・まさる)

1995年~2015年、大阪市役所にて勤務し「大阪イノベーションハブ」の立上げと企画運営を担当。2015年、大阪市を退職し、フィラメントを設立。多くの企業で新規事業開発プログラムの構築・実行支援や独自設計したワークショップとコミュニティマネジメント手法を用いた人材開発・組織開発を手掛ける。

2016年には企業アライアンス型オープンイノベーション拠点The DECKの立上げにも参画し、他のコワーキング・コラボレーションスペースのコンセプトメイキングや活性化にもアドバイザリーを提供。

【目次】

及川さんと角の出会い

ウェブのテクノロジーがユーザーにもたらしたもの

事業会社が内製化を進めた方がいい理由

大切なのは「自分が起業した」として考えること

 

及川さんと角の出会い

 

--お二人が初めて会ったのはいつでしたっけ?

 

角:初めてお会いしたのは、「世界防災ハッカソン Race for Resilience」(石巻で実施されたハッカソン・イベント)のときだから、2014年の2月でしたね。

 

及川:復興支援のハッカソンを世界銀行が主催で実施して、その石巻会場の審査員だったんですよね。「震災後10年で1,000人のIT技術者を輩出する」事業をやっているイトナブの事務所に前日行ったら、「及川さんが来た、やばいぞ!」とか、やたらテンション高い人がいらっしゃいまして。

 

角:それが僕ですね(笑)。

 

及川:そのあとに復興バーという、復興のシンボルになっている石巻のバーで深夜まで飲んで。すごい思い出深いのが、そのハッカソンの2日目の朝にめちゃくちゃ雪が降って会場にたどり着けない人が続出した。

 

角:あのとき及川さんが石巻に来たのを見て、超一流の人がものをつくってる姿を見せるっていうのは、すごい価値あるなって思ったんですよ。僕は生まれが島根なんで、地方に住む者にとっては少しうらやましい感じがした。

 

及川:地方のITエンジニアの仕事って、いまだに地場産業の人事システムとか、地方自治体のシステムとか、昔の電算機、計算機の延長だったりします。ものづくりが楽しいっていうよりも、あくまで仕事だっていう傾向がある。だから都市圏にいる人間がものづくりって面白いんだってことを見せるだけで、その産業に対する見方が変わると思うんです。あの頃の石巻で確実にそれが始まっていたし、イトナブがその中心だった。

 

角:楽しんで仕事してる人を見ると、やっぱりその楽しさって伝わりますよね。昔は自分の時間を切り売りして、嫌いな仕事をやるからお金をもらえるんだみたいな発想だったと思うんだけど、でも本当はそうじゃない。社会に貢献するのを楽しみながら、自分も成長しながら、豊かな人生をつくっていく、そういう発想って最近出てきた考え方みたいな気がする。

 

及川:昔の電算機、例えば給与システムみたいなものって、もう使わざるを得ないものだったんですね。でもいまはそういうエンタープライズのシステムであったとしても、ユーザー体験が求められるようになってきている。単純にものつくるだけでなく使いやすくする、楽しんで使っていただく、快適さを提供するってことを考える必要がでてきた。実は昔からそういうことを考えていた人はいるんだけれども、今はよりそれが重要になってきている。

 

角:UXやサービスデザインの話ですね。確かにそれって昔はあまり聞かなかったですね。

 

 

及川:昔は電算化されるだけで、電卓やそろばんよりも楽になることが多かったんですけど、今はその基準がもう1段上がっているんですよね。例えば自分が普段使っているスマートフォンのアプリケーションはこんなに楽なのに、なんで会社のシステムはこんなに使いにくいのって思うわけですよ。

 

角:思いますね。

 

及川:ユーザーの目が肥えている。システムやアプリケーションに対しての基準値が上がってきている。大変なんだけれども、一方で作る側のやりがいは確実に出てきているんです。以前は本当にシステムが動けばいいという基準だったのが、今は使って楽しい、その人のワークスタイルをこれだけ変化させたというのが基準。喜んで使ってもらえているかどうかがビビッドに分かる。アクセスログとかで。使ってもらっている、それによってその人のライフスタイルとかワークスタイルが劇的に良くなったとかって知るのがまたやる気につながる。

 

ウェブのテクノロジーがユーザーにもたらしたもの

 

角:及川さんはいつぐらいからそういう開発って意識されたんですか?

 

及川:Windowsっていわゆるパッケージソフトですけど、許諾頂いたユーザーから障害情報や利用状況などをいただくってことはやっていました。しかし、それは限定的でした。一番の課題は直接ヒアリングできるユーザーが限られていることでした。ヒアリング対象者はパッケージを売っているパートナーとかSIerとか、または情報システム部のシステム管理者なんです。でも本当のユーザーはその先の人なんですね。

 

角:それが見えない。

 

及川:そこのインサイトを得るのはすごい大変。システム管理者が希望するものと、エンドユーザーが本当に使いやすいと思っているものは、トレードオフや矛盾が生じたりする可能性があるんです。でもGoogleに移ってウェブをやり始めたら、エンドユーザーがどこを触っているかすぐに分かるわけです。なのでユーザー体験はウェブのテクノロジーを活用したときにより意識するようになったってことですね。

 

角:直接見えるようなったっていうのが、ウェブのテクノロジー。

 

 

及川:GoogleのChromeは普通に考えると従来型のアプリケーションなんだけれども、いくつかウェブ的なやり方を取り入れてました。1つはバージョンを意識させないで、勝手にどんどんバージョンアップしていくこと。これは当初は賛否両論ありました。でも、GmailやGoogleマップとか使っている人はバージョンなんか意識しないじゃないですか。作り手としてはビルド番号みたいな形でバージョン相当のものはある。だけれども、ユーザーにはそれを意識させない。進化のスピードが速いので、リニアに進化しているように見える。自動更新はこの仕組みを取り入れたものです。もう1つはユーザーの利用状況をオプトイン(事前にユーザーの承諾を得ること)の形で取れるようにしていることです。さらには、ウェブで言う実験のようなものを行う仕組みなども用意してました。

 

角:日本の大手のSIerとかって、あんまりそういうことができていないって印象がありますけど。

 

及川:実態は知らないので断定はしませんが、そういった感想を持たれるのはなんとなく分かります。まずSIerは事業そのもののオーナーではなく、受託なんですね。なのでやっぱり発注をする事業オーナー側がそういう進化をデザインしていかなきゃいけないんです。いまだに古い会社だと、開発と運用は別フェーズになっていて、開発を外注委託して納品してもらったなら、それでまずは終了となる。でも本当はそこからがスタートなわけです。これがDevOps(開発担当者と運用担当者が強力して開発を行う手法)といわれるものです。SIerが受託したものに関してDevOpsをやるっていうわけじゃなく、そこに発注する事業オーナー側にそういう発想が必要です。

 

角:なるほど、DevOpsですか。

 

及川:もう1つはSIerの受託型って、納品して初めてお金がチャリンと入る仕組みになっていて、実際にユーザーに使われてその成果に応じてお金をもらうって仕組みにはなってない。でもシステムやサービスは使われてなんぼの世界なので、本当は納品してお金をもらうんじゃなくて、ユーザーのアクティブ度に応じてお金をもらうような形にしなきゃいけない。大手のSIerが自社で主体的に事業をやられているケースもあるとは思いますけど、それがなかなかサブスクリプションやSaaSをメイン事業にしているネット系企業に追いついていないのは、そういう文化が根付いてないってところがあるんじゃないかなと思います。

 

事業会社が内製化を進めた方がいい理由

 

角:めちゃくちゃよく分かりました。でもITの勉強会にメーカーや大手SIerの人が参加するケースもすごい増えてきたと思うんですよね。そういった変化を、及川さんは感じたりしますか。

 

及川:それは感じます。若いエンジニアが問題意識を持ったり、新しい価値観に意義を感じて自ら勉強している。いくらでも書籍はあるし、勉強会はあるし。問題は組織の方なんです。組織が彼らを生かせるようになっているかどうかっていうところで、企業競争力が全然変わる。特に受託系の会社だと、「人月ビジネス」だから、新しいことをやられたら会社にとってむしろ迷惑だったりするんです。なぜかっていうと、工数が減る可能性があるから、売上が減る。

 

角:そういうビジネス構造的な部分も変わらないとですね。及川さん自身の課題感も、組織を動かすとか、個人と組織のギャップ埋める、みたいなところになってきているんですか?

 

及川:それは実は結果論なんです。最初から、それを解決したいって思ったわけじゃなくて、仕事を始めてみたら、そこに課題が見えてきた。個人でいろんな会社のお手伝いをし始めたときは、若いスタートアップを対象にしていました。彼らの課題は、組織をもう少し大きくしたいとか、そのときの成長痛、海外展開、プロダクトの次のプランをどうするかってところにあります。

 

最初は大企業をお手伝いすることはありませんでした。ですが、大企業の方々と話してみると、問題意識をしっかり持って変革やトランスフォーメーションしようと思っている会社もいくつかあって、話を聞くうちに組織の問題が見えてきたんです。

 私はSIerさんとはそんなにお付き合いはしていませんが、事業会社の方がどう変わるべきかってのは見えてきました。端的に言うと、事業会社はもうできるだけ内製化したほうがいいんです。ただ内製化できるものと、できないものがあるっていうときに、じゃあSIerの方々とどう組んでいくべきかがいろいろ見えてきて、解決策やアイデアを提案し始めています。

 

角:僕は今のお話を聞いてて、開発と運用が別っていう問題点って、結構いろんなものに当てはまるなって思えて。大阪市役所で公務員をやっていた時代に大阪イノベーションハブって場所を作ったんですが、、大体行政がつくるハコってあまりうまくいかない印象あるじゃないですか。結局ハコを作った後に運用ができないので、外部委託するわけです。でも委託をした途端にやるべきことが全部定義されてしまって、運用サイドがそれしかしないようになってしまうので、そんなん流行るわけないじゃないですか、と思うんです。

 

なので、僕はできるだけ常駐して、イベントの企画もするし、どういう場所をつくりたいかみたいな思いをFacebookで発信していました。それっていまのDevOpsの話と近くて、やっぱり場所を作った人間がずっと運用していたら、愛着もどんどん濃くなって、もっとよくしたいって素直に思えるようになる。

 

大切なのは「自分が起業した」として考えること

 

及川:だから私がアドバイスするときって結構ワンパターンで。「自分が起業したとして考えてください」っていう風に言うんです。起業して自己資金やエンジェルから投資してもらった資金で、仲間も1人増え、2人増えっていう風になったとします。そのときにお金はあるからあとはよろしく、って丸投げしたりしないじゃないですか。

 

角:投げないですね。

 

及川:自分で起業したら、もうなけなしのお金なわけです。銀行の残高が次の日から減っていくわけです。となれば、それがどういうふうに回っていくかを見たくなるはず。仲間と一緒にやるなら本当に信頼できる人しか入れないし、外部のパートナーにお願いしたとしても、毎日そのオフィスに行って、自分の意思が通じているかどうか、今どこまで進捗したか見るくらいまではするわけです。

 

だけど大企業で分業化ってした途端に、自分のことじゃなくなっている。簡単に言うと、「主体性、オーナーシップ」の欠落が問題の本質なんです。あなたがこの事業のオーナーだと考えたら、こだわるでしょう、と。そのこだわりっていうのは、全部自分の会社で内製化するっていう結論でもいいし、外部の方に入ってもらうでもいいと思う。でも、その上での「こだわり」ってのが絶対必要なんです。外部に出すとしたら「ベンダー選定」も、これまでつきあいがある会社ではなくて、悩んで悩んでリスクをとって新しいところに出すかもしれないわけですよ。そこってやっぱり主体性。本当に成功させたいと思うかどうかってことです。

 

角:イノベーション支援をやってて一番の問題なのは、やっぱりオーナーシップ問題。もう1個あるとすると、アイデアを出した人はオーナーシップがあっても、それをどうしても別の事業部に渡さなくちゃいけないってなったときに、渡された人がオーナーシップを持てないっていう、これ「ハンドオーバー問題」って呼んでいます。

 

及川:例えばアジャイル開発のスクラムっていう手法がロジック的に優れているなと思うのは、ラグビーのスクラムと一緒で、そこに関わっている人が全員でゴールを目指しましょうってことですね。もしラグビーがここから先はこの人、ここから先はこの人って、ボールだけパスしてゴールに向かうっていう形式だったら、あんな一体感はないわけですよ。ラグビーの面白さっていうのは、全員でゴールを目指していくところなわけで。あれがやっぱり強いチーム力を生むんです。

 

だから事業やプロジェクトをスタートするときっていうのは、ゴールを明確にする。そしてそれが達成されたかどうか何をもって測るかっていう計測指標を持つというのが、一番重要です。いわゆるOKR(Objectives and Key Results)的なやり方ですね。ゴールをきちっと持っておけば、もし分業になったとしてもそのKeyResultsのために、自分は何をやんなきゃいけないかっていうのが明確になってくると思うんですよ。

 

(とりあえずフィラメントTシャツを着てみたかったと言う及川さん)

 

後編: Tably及川卓也さんに聞く 話題の目標管理「OKR」の導入に成功する企業、失敗する企業

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新着の対談をお届け