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対談

ブロックチェーン時代の“人の信頼”とは――レノボ・ジャパン留目社長

AI、VR、フィンテック、ビッグデータ、再生医療――。さまざまなイノベーションが湧き出る源泉は何でしょうか。会社を変革し、組織を変える。そんなRe:Frame(リフレーム、異なる観点で見る、作り変える)を伴うイノベーションを生み出す人々を追いかける連載『Chief Re:Frame Officer』。前回に引き続き、レノボ・ジャパンの留目真伸(とどめ・まさのぶ)社長に話を聞きました。聞き手はフィラメントの角勝(すみ・まさる)CEOです。

プロフィール

留目真伸(とどめ・まさのぶ)氏

留目真伸(とどめ・まさのぶ)氏

大学卒業後、総合商社にて発電プラントのプロジェクト開発等に携わった後、戦略コンサルティングへ転職。数々の経営変革プロジェクトを担った。その後、デル、ファーストリテイリングを経て、2006年にレノボ・ジャパンへ。常務執行役員として戦略、オペレーション、製品事業、営業の統括責任者を歴任した。2015年4月、レノボ・ジャパン代表取締役社長および、NECパーソナルコンピュータ代表取締役執行役員社長に就任、9月からはレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ代表取締役社長も兼任し、現在に至っている。

角勝(すみ・まさる)

角勝(すみ・まさる)

大学で歴史を学んだ後、大阪市に入職。在職中にイノベーション創出を支援する施設「大阪イノベーションハブ」の設立・運営に携わったのちに2015年3月大阪市を退職。各地でオープンイノベーションの支援、ハッカソンの企画運営を行っている。

終身雇用の中で「道」を見誤っている

 レノボ・ジャパンではリモートワークを推進していて、留目さん自らが社内外でそういう働き方を推奨する発言をされています。他の多くの日本企業だと、どうしても設備産業的な考え方に捕らわれて、人も設備のようにとらえてしまい、外に出て行くと戻ってこないから管理するとなってしまう。そうだとするとなかなかIoT的な働き方も進んでいかないのではないでしょうか。

僕もいろんな会社と付き合いがあるなかで、ちょっとずつ変わって来ていて、オープンにしなくちゃ行けないという会社も出てきましたが、社内のごく一部の人達だったりします。

留目 日本企業は確かにそういうところが強いんですけど、やっぱり日本人の意識が変わっていかないといけないと思うんです。レノボ・ジャパン、そしてNECパーソナルコンピュータとしてもテレワークに力を入れていますが、それは自分たち自身がIoTをやらないといけない会社だから、そういう形に一番速くにシフトしないといけない。危機感を持ってやっています。

ただし、すごくチャレンジではあります。テレワーク・デーみたいことをやると、その日は97%くらいテレワークしてくれるんだけど、放っておくとどんどんテレワークの利用率が下がってきちゃう。それこそ、会社に来ていると上司が安心するし、部下も仕事をしているところを見せられて安心というところがある。

角 仕事の本質以外の部分でのコミットが求められてしまうのは、終身雇用の歴史の中でそういう文化になっちゃったところがある。ひとつのことに、ずっとコミットし続ける事自体が美徳にもなる。ひとつの「道」ですよね。

留目 「道」の意味を見誤っていると思うんです。ひとつのことの本質を追求すること自体は悪くない。ただ、「道」とそれに至るための「型」の関係が変わっていることに気がつかないとダメなんだと思う。

 

例えば、空手にしろ、柔道にしろ、型が大事だしそれを学んでいくのはすごく大事だと思う。でも、われわれのやっていることはもはや空手を超えて総合格闘技になっていたり、それすらも超えて、社会貢献をするようなスポーツに変わっていたりするわけです。

パーソナルコンピューティングなら、パーソナルコンピューティング道があっても良いんよ。でも、それはパソコンという「型」とは違うものなんです。パーソナルコンピューティングが目指す理想を追求していくという姿勢は正しいし、本来それは誰かがやらなきゃいけなかったと思うんです。でも、それを本当に追求していたら、なにもパソコンだけやっていればいいということにはなりません。それではパーソナルコンピューティングを極められません。

テクノロジーの進化に合わせて、あるいは社会の変化に合わせて、どういうパーソナルコンピューティングがあるべきなのかということを考え続ける。パソコン業界全体がその道を追求していれば、この業界が衰退していくということはなかったと思うんです。

角 型にとらわれるんじゃなくて、その目指す理想の部分を常にアップデートし続けるということですね。

留目 そうだと思うんです。だから、誰かに教えてもらった型なんて、そんなものは道じゃないんですよ。宮本武蔵が求めていた境地はそうではない。誰も気がつかなかった、誰も教えてくれなかったことを、自分で「ああこういうことだったんだ」と気づく。そこまでやってこそ道だと思うんです。 パーソナルコンピューティングおいては、パソコンはある一時点での型でしかなく、今の文脈で、どうやったらコンピューティングを人が空気のように活用できるようになるのか、人とどうやって一緒になっていけるのか、そこまで突き詰めてこそ道だと思うんですね。

ゲームチェンジと宮本武蔵

 課題とかニーズに合わせて、最適なものをクリエイトしていくべきですよね。道を突き詰めていくと、そういうゲームチェンジもどんどん容認しないといけない。

留目 宮本武蔵が二刀流になっていったのもそうです。

 自分の悟りの境地がどのくらい進んだかによって、たぶんやることも変わって来る。

留目 宮本武蔵も、剣の道から、また兵法や書画等違うところに行ったわけじゃないですか。道を追求していくとそういうことになるんだと思うんです。ひとつのことを続けていくと言っても、会社に来て同じことを毎日一生懸命やっているフリをして、社会に求められている課題解決や起こっている変化のことまでは考えず、とりあえずお給料が振り込まれればいいみたいな働き方は、別に道でも何でもないと思うんですよ。

 そうですね。今の人たちを全否定するわけじゃないけど、もっと効率的な働き方ができるようになっているんだから、アップデートされるべきでしょう。

留目 テクノロジーが発達していくと、本当にあるべき姿に戻っていくんだと思うんです。そもそも会社ってなんだったかって考えると、もともとプロジェクトだったんですよ。東インド会社がインドへ航海するのに、リスク分散して資金を集めるために株式を発行して株式会社になったわけじゃないですか。

今はインターネットの世の中、IoTの世の中、あるいはブロックチェーンの世の中になって、もっと効率的なやり方で信用を得て、フレキシブルにリソースを集められるわけです。なので、会社という概念である必要すらないわけですよね。

 当社、フィラメントもそういう感じで働いています。プロジェクトごとに違う人をアサインして進めて、プロジェクトがない期間はメンバーもうちの会社以外のことをやってもいい、という感じです。それで気持ち良く仕事ができているし、たぶんその方が働き方に余裕が生まれる。社員の中には子供が生まれたばかりで、家で奥さんと一緒に子供を見ながら、イベントがあったらファシリテータとして活躍しているものもいます。

そこで得られるゲインは金銭的なものもあるけど、体験とか達成感とかお客さんと一緒の楽しさとか、そういう満足感が一杯ある。そういうことをいろんな会社と一緒にやってるんですね。

留目 それが新しい社会の形じゃないかな。大企業はなくならないと思うんですね。ある程度、固定化した方が良いインフラもあるので。それこそ装置産業も必要なんだろうし。でも、人の働き方そのものは、もっとフレキシブルになるべきだし、今は人がやっているほとんどの社内事務はAIでできるようになります。

そうなったときに、人間は外に出て、社会の中の解決されていない課題にむき合って、各企業が提供している様々なインフラを連携させてソリューションを作り挙げていくということをやらないといけないと思うんですね。

ブロックチェーン時代は、その人が残したデータで信頼を集める

 IoTでいろんなところと連携しながら進めるとなったときに、やっぱり大切なのは会社と会社のインターフェイスとしてのヒト。お互いの信頼関係が構築できるかどうかがキーになるんですよ。でも、囲われちゃっている社員の人達が、そもそも外に出て行くのがダメだと言われるじゃないですか。

留目 それはもう、出ないとダメですよね。世の中の変化としてそうなっている。そもそも企業側からもしても、そういうふうに社員が自ら価値を作り出してくれないと事業として成長しないと思うんですね。

われわれとしても危機感を持っているんです。テクノロジーがどんどん進化して製品も色んなものが作れるんですけど、それらをどのように課題解決のソリューションに仕立てるか、がより一層重要になってきている。本来はテクノロジーって無駄に開発しているわけじゃなくて、こういう課題に役立つんじゃないかと考えられているんだけど、実際に解決すべきものとして想定されていたその課題に対して、ひとつひとつソリューションとしてデザインされ、プロジェクトが起こっていかないと、どうにもならないんですね。

それはレノボが単独でできるわけじゃないので、オープンにしないといけない。これこそが、第四次産業革命の変化だと思っている。そしてその変化は同時に、働く人々の生き方も変えていくわけです。自分が興味を持った領域を追求し、プロジェクトを起こしたり選別して参加したりして、本当に意味のある課題解決を通じて社会と価値交換を行って生きていく、社会人としての自由が実現する。全ての社会人にとってそれは幸せなことだと思うんですね。

それを知って、そのことに気づいて考え方を変えていかないと、高齢化が進んで寿命が延びていくなかで、100歳まで生きるのに本当にそれで食っていけるのか、ということだと思うんですね。社員みんなに理解してもらいたいし、新しいパラダイムにあった働き方、ものの考え方を理解してもらいたいんです。

 でも、会社全体が一丸になって進んで行くのは難しいですよね。

留目 実際にはそこまではできていないんですよね。でも、すぐに変わっていきます。テクノロジーの進化は速いですからね。だから、今は他人事だと思っていたことがすぐに自分事になっちゃう。

例えば、これまではレノボの留目ですとか、大企業の誰それです、と言っていたじゃないですか。でも、ブロックチェーンの時代になると、その人に関わるデータが分散して記録されていくことによって信用が構築されていくわけですよ。誰かが誹謗中傷しようと過去に残した自分のデータによって信用が構築されている以上は、大きな問題にはならない。 一人ひとりの個人が残していくデータ、どんな風に考えてどのように行動したのかという履歴そのものが、その人の信用を作っていく。それこそ、角さんとは何回かしかお会いしたことがないけれど、どんななことを考えている人なのか、どういう人なのかはもうわかっていました。だから、信頼してこうして対談ができるわけじゃないですか。

これは本来、自然なことだと思うんです。これまでは、その信頼を伝える手段がなかったから、「どこそこの」という所属を示す会社とか共同体が個人にとって必要だった。でも、これからのブロックチェーン的な社会においては、初対面の人でもデータから信用できる人なのか、信用できない人なのか、どういうことができる人なのか判断されますし、それを通じて距離や時間等の制約にとらわれない新たな共同体がすぐにできるわけですよね。

 確かにそれは僕も実感しています。僕は公務員じゃない方がパフォーマンス出せるからと思って、辞めたんですけど実際にそれはかなっていると思っている。それは留目さんがおっしゃったみたいな働き方が実際にできているからだと思っています。

それに僕が一緒に働く人達は、同じような感覚を持った人達なので、大企業の中でも同じような感覚を持った人がいる。この後、歴史の針が進むと、そういうのが普通になっていくんだと思いますね。

留目 そうなんですよね。そうなってくると、企業も考え方が変わってくると思うんです。それこそ会社自体がプロジェクトなので、事業の目的があって、その目的を遂行するのに最適なベストなチームと作っていけば良いわけじゃないですか。そうすると、ベストな人を探してきたら、だいたいその人ってすでに他の仕事をしている可能性が高いんですね。

 仕事ができる人ほどそうですよね。

これから問われる「経営者の質」とは

留目 今までだと「その仕事を辞めてうちに100%コミットしてください。給料はもっと払いますよ」となりますが、でも、そんなことをする必要が本当にあるのでしょうか。それよりも「その仕事をやりながら、うちでもやってくださいよ」というので良いわけじゃないですか。

副業兼業の話しもありますけど、そういうのも当たり前になってくるかもしれない。他にどれだけ仕事をしていようがパフォーマンスさえ出してくれればそれでいい。投資家の立場から言えば、自分の投資した会社の社員が、複数の会社で働こうが関係ないじゃないですか。

副業禁止というのは、管理側の理屈でしかないんです。だったら、もっとオープンで、コラボレーションがしやすい環境を社員にも与えてあげた方がいいし、そうしないとむしろ経営者の質が疑われる。投資家からしたら、そんな古い一昔前の工場労働的な管理しかできないヤツに経営を任せたくないと思うはず。

 資本側のロジックで、企業も変わっていく可能性があるんですね。じゃあ、日本の他の会社がそういうふうに変わっていくために、今は何が足りないでしょうか。

留目 もうすでに制度としても取り入れている会社も出始めているし、実際に角さんのように新しい働き方にチャレンジしている人が出てきているじゃないですか。そういう人達がリーダーシップをとって、新しい課題解決に取り組んでいたりだとか、発信をされていたり、識者として国の委員会に呼ばれたりしています。すでに変わって来ていると思うんですよね。気づかないうちにかなりのスピードで変化が既に起こっているし、それこそ10年くらいしたらだいぶ違う世の中になっていると思います。

個人が好きなことを追求してフレキシブルな形で課題解決に参加していくことで、社会と価値交換を行って、自由に生きていく。社会としても、それを通じてこれまでの業界構造や企業の仕組みで解決されなかった課題が解決され、洗練されていく。企業は常にその使命に基づき事業の在り方を再定義しながら、社会に価値を提供していくためのインフラとして進化していく。そんな素敵な世の中を早く手繰り寄せていきたいですね。

レノボ・ジャパンの留目真伸がRe:Frameしたいもの

インタビューの最後に留目さんが「Re:Frame」したいものを挙げてもらった。

 

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