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YEN HIROSHIMAから見えてきた地方銀行の役割

YEN HIROSHIMAから見えてきた地方銀行の役割

こんにちは。広島県と広島銀行共催、第1回 ひろしま金融アイデアソンYEN HIROSHIMA 2017の企画から進行まで担当させていただいたハブチンです。

 

広島県とは、前職の頃からハッカソンを通じてイノベーション人材のコミュニティ形成のお手伝いをさせていただいておりました。広島県が今年3月にオープンしたイノベーション人材が集まる場所である『イノベーション・ハブ・ひろしまCamps(キャンプス)』において、YEN HIROSHIMAという広島銀行の新たな地域・異業種連携イノベーションハブのブランド立ち上げのお手伝いをさせていただき、個人的に感慨深いものがありました。

 

募集の結果、22チームにご応募いただき、厳正なる審査のもとに15チームの方にご参加いただき、アイデアソンを開催しました。当日の様子はNHKや広島ホームテレビのニュースで取り上げられ、その後も日本経済新聞Togetter、さらには参加者のブログ運営者のブログで詳しく紹介されています。

 

当日の様子をぜひ上記のリンクにおいてご覧いただくとして、本エントリーでは、イベントでは伝えきれなかった主催者側の開催意図や背景をご紹介いたします。

 

金融機関が新しいビジネスモデルを模索する背景

みなさま、昨年度から金融機関がアイデアソン・ハッカソンを企画されているのはご存知でしょうか。三井住友銀行やみずほ銀行などのメガバンクをはじめ、地方銀行も六行共同開催をするなど2016年度だけで7回もアイデアソン・ハッカソンが開催されています。(当社調べ)

 

なぜ急に開催回数が増えたのか、その背景には2016年1月に日本銀行が採用を決定したマイナス金利政策の影響が大きく関与しています。

 

銀行は貸し出しに回さないお金を日銀に預けますが、預かったお金に日銀が『ペナルティー』を科すというのがマイナス金利政策のポイントです。日銀に預けず、市中に貸し出すように銀行を誘導すれば、世の中にお金が回るようになり、経済が盛り上がるというのが日銀のシナリオです。すでにゼロに近い預金金利はこれ以上、引き下げようがないので、貸出金利と預金金利の差である銀行のもうけが大きく縮小しています。

(「NIKKEI STYLE 地銀の再編なぜ加速? 地方疲弊とマイナス金利で打撃」から引用

 

また金融庁も銀行の業務範囲規制を緩和して、「フィンテック」に関連するITベンチャーに出資ができるように、銀行法など関連法令の改正に着手することを発表しています。

 

要するに、国としては銀行に新しいビジネスモデルも模索するように迫っています。地方銀行の収益構造(平均)は、貸出業務などによる利益が85%、ATMなど手数料による利益13%と、2つの収益構造でほぼ成り立ってきたので、地方銀行にとっては大きな試練になります。

 

この流れを受けて、広島銀行は2016年8月に新事業開発推進室を新設し、新しいビジネスモデルの検討を開始します。自行内だけでなく、他社のリソースを組み合わせながらビジネスモデルを開発するために、パートナーとのチャネル開拓やアイデア創出を目的とした、アイデアソンを企画することにしました。

 

地方銀行の役割に立ち戻ったときに見えてきた「YEN」

 

上述する背景から、企画当初は「フィンテック」をテーマにすることを着想しました。しかし、広島銀行はクラウド会計サービスを提供するフリー株式会社との連携などをすでに進めています。AIやブロックチェーンなど、テクノロジーの概念から発想するアイデアは行内でも出ているので、同じアプローチでアイデアソンをやっても意味が薄いのではないかと考えました。

 

フィンテックありきではなく、地方銀行の価値をリフレーミングする。何のために銀行が存在しているかというと、お金を循環させて地域経済の活性化につなげるためではないでしょうか。しかし、ただ融資をしても企業が成長することにはつながりません。そこには、融資先の人や企業の存在や事業タイミングの「縁」が必要です。

 

そうした方向性でアイデアを煮詰めて、通貨の「円」と循環する「円」に加え、人/企業のつながりの「縁」を組み合わせた「YEN」というキーワードが生まれ、それに広島を組み合わせた「YEN HIROSHIMA」というコミュニティブランドができました。キープレイヤーと広島銀行がつながって新しい事業を生むことを期待して。

 

テーマについても銀行サービスありきではなく、キープレイヤーが感じる「地域に住む方々が抱える課題」を軸に、アイデアを出すこととなりました。アイデアソンの進行も「形式だけ整っていて中身のないアイデア」にならないように、サービスを実現するためのステークホルダーを全て具体化し、それぞれの位置付けや役割・メリットを明確化することに注力するような、レクチャーや審査基準を心がけかげました。(これらが明確になり、全てのステークホルダーにとってWin-Winとなるようなサービスでないと、創出したサービスが続かないし、そもそもサービス自体が立ち上がらない!)

今回は「限られた時間の中で最大限の効果的な成果を求めたい」との主催者の意向を踏まえ、一般的なアイデアソンやハッカソンには珍しい「チーム参加」および「事前のアイデア検討・提出」を参加条件としました。(一般的には「個人参加」のうえで、「イベント当日にチームビルド」を行い、「ゼロからのアイデア導出」をするケースが多い。)

ただし、前提として、そういった取組を実施するに際して想定されたデメリットについては、以下のような手当てを実施することで回避を試みました。

結果として、参加定員を超える多数の申込をいただいたうえ、事前の一次審査で「アイデアベース」である程度の絞込みが可能となり、当日は行員との化学反応もうまい具合に進み、事前アイデアのブラッシュアップに注力できるなど、目論見は大成功に終わったものと考えています。

優勝は、自動販売機をATM化するアイデア

 

優勝に選ばれたのは、自動販売機をATM化するアイデアです。過疎地域ではATMがない(あるいは少ない)ため現金をおろせない(おろしにくい)課題があります。特に広島県の場合、瀬戸内海に142の島があり、そうした島嶼部の多くでは現金を引き出すことが難しいそうです。

 

一方で、自動販売機は一般社団法人日本自動販売機工業会の調査によると2016年末で 494万1400台もあります。日本で最も多いと言われるセブン銀行のATM設置台数が2万3029台ですから、おおよそ200倍あるわけです。その自動販売機をATM化することで、過疎地域でも現金を引き出せるインフラを構築するというものでした。

 

他にも支店の空きスペースを利用して子育てスペースを設けるアイデアなど、テクノロジーをベースとした発想に縛られない、ユーザー視点で実現可能性のあるアイデアが生まれました。

 

アイデアよりも「YEN」のほうが大切

 

今回、参加者のみなさまに出していただいたアイデアは、広島に限らず多くの地方が抱える課題を解決するサービスでした。言いかえるならば、他の地方銀行でも取り組めるアイデアです。

 

大切なことは、アイデアを実行できるオーナーシップを持ったプレイヤーがいるかどうか。今回、受賞されたチームが評価されたところもオーナーシップを持っていたからです。もしかすると自動販売機ATMの第1号は広島県に設定されるかもしれません。アイデアは真似できても、人のYENは真似できません。そういう意味では、今回の「YEN HIROSHIMA」はプレイヤーをつなぐ最初のキックオフイベントでした。「YEN HIROSHIMA」コミュニティがどう成長していくか今後に期待です。

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