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地域住民との対話の中で絶対に使ってはいけない一言とは?-誠意と敬意が結実した地方の移動改革ー【復興庁イベントレポート】

地域住民との対話の中で絶対に使ってはいけない一言とは?-誠意と敬意が結実した地方の移動改革ー【復興庁イベントレポート】

    【目次】

「おでかけソン」から広がる「移動の自由」可視化の取組み

Reraの活動-復興支援から、継続的な住民支援へ

支援者の守備範囲には「のりしろ」が必要

「四者連携」で移動に取り組む会津若松市

地域住民を巻き込むためにー行政が言ってはいけないこと・もつべき目線

しんどさの「見える化」により危機感を「自分ごと」に

 

2019年2月17日(日)、復興庁主催イベント「平成30年度「新しい東北」交流会 東北の今を知ろう」が仙台市内で開催されました。

 

本記事では、14時10分から15時10分にかけて開催した「おでかけソンから広がる地域の楽しい移動」パネルディスカッションの様子をレポートします。

 

パネラー紹介

 ○村島 弘子 氏(特定非営利活動法人 移動支援Rera 代表)

 ○福田 匡彦氏(青い森ウェブ工房 代表)
 ○吉田 樹 氏(福島大学経済経営学類 准教授)
 ○鈴木 康弘氏(会津若松市企画政策部地域づくり課 副主幹)


モデレーター

角勝(Filament, Inc. CEO)

 

「おでかけソン」から広がる「移動の自由」可視化の取組み


ただ生きるための移動ではなく「楽しむ」移動を、行政・NPO・民間事業者のいずれかが一者で頑張るのではなく、連携して進めていくにはどうすればいいのか、ということをテーマにしたこのパネルディスカッション。

まずは角より、前述の「おでかけソン」について報告を行いました。

 

参考記事:復興庁、東北と関西を結び「移動」について考える「おでかけソン」を開催(自動車新聞社 LIGARE)

 

会場には「おでかけソン」参加者の方も来場されており、その際の感想もいただきながら、和やかにパネルディスカッションが始まりました。

 

(おでかけソン参加者のひとり、大阪大学の古崎教授)


続いて、おでかけソン後の取り組みとして、「石巻ミステリーツアー」と「移動の自由を実現するインフラ研究会」の2つを紹介。

石巻ミステリーツアーは、パネリストの青い森ウェブ工房代表、福田さんとReraで作成した、石巻市内のバスの情報を探しやすくするWebサービス「石巻交通検索」を実際に使って石巻市内をめぐり、気づいた点を改善していこうという取り組み。2018年12月の開催時にはフィラメントも参加し、サポートを実施中。次回は3月9日(土)に開催です。

「移動の自由を実現するインフラ研究会」は、人・場所・交通手段といったデータもふくめて「インフラ」として捉え、「どうすれば移動をより豊かなものにできるか」ということを組織の枠組みを超えて研究を進めています。Reraが提供するニーズや現場の情報をもとに、NTTドコモ、損保ジャパン、IDOM(旧:ガリバーインターナショナル)、ジョルダン、「駅すぱあと」のヴァル研究所といった、交通や移動に関わる企業が名を連ね、これまでに2回研究会を開催しています。

 

Reraの活動-復興支援から、継続的な住民支援へ

 

続いて、村島さんから、Reraの取り組みについて会場の皆様に改めてご紹介いただきました。

村島さんは、東日本大震災の発生直後に、復興支援の移動ボランティアとして石巻入り。
最初は、車が流され移動手段がなくなった人たちの一時的な支援のつもりではじめました。
ところが、いつまでたっても移動に困っている人は一向にいなくなりません。むしろ増えていったと言います。


「Reraがなくなったら、生活を維持できません、という人がたくさんいるんです
と村島さんは語ります。

この状況を踏まえ、一時的な復興支援活動から住民主体の支援活動という形に方向転換し、現在も活動を続けています。毎日平均で70人、1年間で2万人、累計でのべ15万人の移動を支えてきた、日本でも稀有な団体です。

 

支援者の守備範囲には「のりしろ」が必要


吉田先生からは、公共交通が成り立たなくなった複数の地域のリアルな事例を、スライドを交えてご紹介いただきました。

 

以前は「駅、団地、学校、病院、ショッピングセンター」を繋げば、うまく回っていた公共交通。

しかし、高齢化や過疎化により、移動のニーズは多様化、小口化し、既存のやり方では対応しきれない状態に。

それを解決する鍵になるのが、「のりしろ」だと吉田先生は語ります。

 

 

行政、交通事業者、非営利団体、家族や地域といった、担い手同士の間に生じる隙間。ここに移動困難の問題が発生します。そして、震災や人口減少といったきっかけで、各プレイヤーの守備範囲は小さくなってしまいます。

 

 

吉田先生はこう問いかけます。

「この隙間をどうやってカバーするか、それは「お互いがもう少し目線を広げることはできませんか?」ということです。お互いがお互いに重ね合う領域、これが「のりしろ」です。こののりしろをどうすればつくっていけるのか、これがディスカッションのひとつのポイントになるのではないでしょうか?」

 

そして、この「のりしろ」を行政の立場から実践しているのが、会津若松市職員で、企画政策部地域づくり課の鈴木さんです。

 

「四者連携」で移動に取り組む会津若松市

 

鈴木さんがご紹介する「のりしろ」の取り組み、それが金川町・田園町の住民コミュニティバスです。

 

 

こちらは行政主導で実証実験を開始したものの、残念ながら一度は頓挫してしまいました。

しかし、住民の皆さんから「通院と買い物ができない、もう一度実証実験をしてほしい。僕たちも頑張るから」との声が上がり、次々に参加。再び実証実験を開始したという経緯があります。

 

 

図のように、地域の方が主体となって運営組織を作り上げ、そこに地元のバス会社、行政、地元のスーパーも加わり、四者連携の取り組みに発展。

 

更に、ただ「バスに乗りましょう」というだけではなく、ろうそくづくりや蔵元の人を招いての日本酒講習会といったイベントを開催。楽しみながら、利用率を上げています。

この取組は、なんと国土交通大臣表彰を受賞したそうです。

 

地域住民を巻き込むためにー行政が言ってはいけないこと・もつべき目線

 

さて、鈴木さんはどうやって、地域住民、交通事業者といった多様なステークホルダーの移動に関する意識を、各々の「自分ごと」に変化させていったのでしょうか?

 

角の問いかけに対し、鈴木さんご自身が、地域住民の方とのやりとりで気をつけていることを教えてくださいました。

 

 

鈴木さん「地域住民の中には、行政や交通業者との対話に慣れていない方も多く、「出てくる用語がよくわからない」といったことも度々発生します。ここで「先ほど説明したとおり」「もう一度ご説明しますと」と言ってしまうと、相手は壁を感じてしまいます。ですので、私は絶対にそういう言葉を使わず、地域住民の方からの問いに対しては、根気強く、何度も説明するように心がけています」

 

また、問題を「他人事」だととらえがちな地域の方々に対しては、地域の方から実際にヒアリングした言葉を借り、「あなたの隣近所にいるあの人も、実はこういうことで困っているんですよ」と具体的なお話をすることで、「自分ごと」として考えてくれるようになったと鈴木さんは語ります。

 

この積み重ねで、鈴木さんは地域の理解を少しずつ広げいきました。

 

更に、交通事業者の方に対しては、「あなたたちは実際に現場で利用者と触れ合い、地域の実情に精通した方々です」という尊敬の念を込めて接し、積極的に提案を採用する。また、役所内で重要な方には、私はこの地域について知らないことも多い。あなたが大事なキーパーソンなんです」と素直に伝え、次々と地域のキープレイヤーを増やしていきます。

 

鈴木さんはキーパーソンの具体例として、ある区長さん(自治会長)のお話を紹介してくださいました。

 

その地区は、会津若松でも高齢化率の高いベッドタウン。鈴木さんは、区長さんに2時間かけて、移動の問題や想いを伝えました。その結果、「わかった。自分たちのこととして、ちゃんと考えよう」と、地域主導で移動に関するアンケートを作成。

アンケート項目には、年齢、目的地はどこか、そしてお出かけのパターンなどがあり、改修後の集計も行政まかせではなく町内会で行いました。そして、今後、「公共交通はどうあるべきか」を、アンケートを元に、行政と一緒に考える話が進んでいるそうです。まさに吉田先生の提唱する、両者がのりしろを広げた取組みです。

 

しんどさの「見える化」により危機感を「自分ごと」に

 

吉田先生は、「この取り組みを他の地域に横展開できるか?」との角の問いに対し、

「最初の地域の成功事例を、2地域目、3地域目と広げていくというのは、地域のプレーヤーも、エリアの条件も異なるため、ものすごく難しい。しかし、そのハードルは「見える化」によって下がる可能性があります。11月の「お出かけソン」は、まさにこの「可視化」に挑戦したもの。移動に関するさまざまなデータがもっと見えやすくなれば、対話に結び付けるまでのハードルが下がるのではと期待しています。」

と回答くださいました。

 

最後に、角は「移動というテーマは、日本がこれから直面する課題の中でも、一番大きな、かつ地域に根ざしたものの一つ。この問題を解決するヒントは、危機感を持つこと。つまり、今の時点は移動困難でなくても、将来自分に差し迫る、あるいは身近な人に迫る危機としてとらえること。さらに、その課題を克服するためのキーパーソンとなりうる方々と、根気よく対話を重ねてそれを「他人事」からその方の「自分事」に変えること。その大切さをこのパネルディスカッションで感じた」と述べ、このディスカッションを締めくくりました。

 

 

話の尽きることがない、あっと言う間の60分間でした。

鈴木さんからのお話の端々から、行政の立場だからこそ、常に相手を敬い配慮する気持ちを忘れず、粘り強く取り組む姿勢が伝わってきます。このことは、移動の問題に取り組む方はもちろん、例えばさまざまなステークホルダーと一緒に、新規事業に取り組むビジネスパーソンや自治体職員の方にも参考になるのではないでしょうか。

(文:牧 美帆)

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