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テクノロジー思考で読み解く現代社会【蛯原氏✕角 対談・前編】

『テクノロジー思考』――技術の価値を理解するための「現代の教養」
シンガポールからイノベーション投資を通じて世界を見渡す、蛯原健さんの初著書。スタートアップ、データ資本主義、GDPR、中国・インドの台頭、米中テクノロジー冷戦といった今日的なトピックを歴史になぞらえて紐解きつつ、すべての人にテクノロジーに対する理解の重要性を説いた一冊。


今回は、2019年8月に『テクノロジー思考』を出版された蛯原健さんと対談!
同世代の角が、蛯原さんの思考のフレームに迫ります!

プロフィール

蛯原 健(えびはら・たけし)

蛯原 健(えびはら・たけし)

リブライトパートナーズ 代表パートナー
アジア地域に特化した独立系ベンチャーキャピタルファームをシンガポール本社、インド・バンガロールおよび東京の3拠点体制で運営。本年8月8日に新著「テクノロジー思考」をダイヤモンド社より上梓。1994年横浜国立大学経済卒、ジャフコに入社。2008年独立系ベンチャーキャピタル、リブライトパートナーズを創業。2011年シンガポールに事業拠点を移し、アジア投資を開始。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。
経産省『飛躍 Next Enterprise 2018』派遣企業選抜審査 有識者委員会委員 特許庁「知財アクセラレーションプログラム 2018、2019」有識者委員会委員 シンガポール国立大付属リークワンユー公共政策大学院 非常勤講師 NewsPicksアカデミア プロフェッサー 東京都アクセラレーションプログラム(ASAC) 公式メンター他多数。

角 勝(すみ・まさる)

角 勝(すみ・まさる)

1995年~2015年、大阪市役所に勤務し、「大阪イノベーションハブ」の立上げと企画運営を担当。2015年、大阪市を退職し、フィラメントを設立した。多くの企業で新規事業開発プログラムの構築・実行支援や独自設計したワークショップとコミュニティマネジメント手法を用いた人材開発・組織開発を手掛ける。2016年には企業アライアンス型オープンイノベーション拠点「The DECK」の立上げにも参画し、他のコワーキング・コラボレーションスペースのコンセプトメイキングや活性化にもアドバイザリーを提供している。

 

歴史の本として読める『テクノロジー思考』の本質

複数のファクトからコンテクストを見つける

文体に感じられる美意識のありか

 

 

今日は『テクノロジー思考』を読んで、話したいことがたくさんあって。

 

蛯原いっぱい付箋が貼ってあって、熟読していただけてうれしいですね。

 

歴史の本として読める『テクノロジー思考』の本質

全部いいんだけど、本質を表してるのが一番最後の章ですね。「未来はつくるもの。そして未来をつくるための道具がテクノロジーなんだ」ってことだと僕は理解したんですよ。テクノロジーをつくる努力を先人たちががんばってきたから僕たちは快適に生活ができているし、過去の先人たちがつくってきた努力のことを「歴史」と呼ぶんだみたいな。

 

蛯原キザですよね(笑)。

 

それを読んで、ジーンときたんです。僕は、大学の時にローマ史を専攻してて。なんで歴史をやっていたかというと、小学校の時ぐらいからずっと「人間ってなんのために生きてるんだ?」とか「生きるってなんだっけ?」みたいなことを考えていたからなんです。だから『テクノロジー思考』を読んで、これは歴史の本だなって途中から思った。エモさがある。

 

蛯原そうですね。多分文体で、すごく共感される方はいらっしゃいますね。

 

そもそも『テクノロジー思考』を書こうと思ったきっかけってあるんですか?

 

蛯原一番大事なのは言語化をして残しておきたかったってことかな。最近、京大の瀧本哲史※さんが亡くなりましたけど。それに対してひふみ投信の藤野英人さんが言ってたのは、魂は没されたけれども、著作があるので彼の教えは永遠に生きる、と。それは無意識のうちにずっと思ってたんでしょうね、きっとね。

※瀧本 哲史・・・マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、投資家として独立。2007年から京大産官学連携センター准教授などを務めた。「僕は君たちに武器を配りたい」(講談社)、「ミライの授業」(同)などの著書で知られる。

 

蛯原さんって今おいくつなんですか?

 

蛯原47です。

 

あ! 同い年だ、僕と。

 

蛯原マジっすか。出会ってしまいましたね(笑)。

 

複数のファクトからコンテクストを見つける

本の内容でいうと、現代の説明が非常に構造的にされていて、その流れの中で国際関係や地政学的な話が説明されていきます。さらに、現代の説明をしながら過去の説明と、過去の説明から未来の流れを予測している。このすごさは分かる人にしか分からないだろうなと思いました。

 

蛯原複数のファクトからコンテクストを見つける人と、そうでない人っているんですよね。これは、別に頭がいいとか悪いとかじゃなくて、そういう癖があるってことだと思うんです。編集者とも「抽象と具体」っていう議論をしたんですけど、抽象と具体を行き来してコンテクストを探すような思考方法を私はいつも意識してるんです。

 

インドの章の中で、アーバナイゼーションであったり地政学的であったり、普段組み合わさらないファクトと歴史が組み合わさっているのがすごくて。意図的にこのコンテクストを入れて来てるな、ハードピカレスクロマンかよっていう。

 

蛯原それもまた、そこに萌えてくれる方は萌えてくれるし、まったく萌えない人は萌えない。

でも、例えばインドのテクノロジー論みたいことを書いても、はっきり言って面白くないんです。それはファクトとしては使うんですけど、そこから得られる学びとか、それを構成する地政学的ファクターとか、そこに通底している歴史とか、哲学とか宗教とかを縦と横に織り交ぜようというのは最初から意識して書いたんですよね。だからインドの章で突然「ピア効果」の話が出てきたりする。

 

ピア効果が出てきて、なるほど!っていう感覚もありました。

 

蛯原コンテクストを見つける努力をするのが私の癖になっているっていうのと、あと職業柄ファクトを拾い集めているっていうことの両方ですね。私の場合インドで投資活動をしているので「どこでやってるんですか?」って聞かれるんですよね。まず首都圏のデリー近郊があって、ヘッドクォーターがあるのはムンバイで、でも私がやっているのはバンガロール。そこがインドのシリコンバレーって言われてますけど。でも実はそれだけじゃなくて10個ぐらい行く都市あるんです。だから「分散してます」ってお答えするんですけど、そういうのが経験的に分かっていて。

 

だから『テクノロジー思考』でも、中国のシリコンバレーは深センって言われるけど、そうじゃなくて大事なのは北京だよってことを書いた。経験的に大体2つぐらい事象を知っていると「おや?」と思って、もう1個ぐらい見つけてみようと思って。

 

それで、杭州を見つけた。

 

蛯原そうなんです。すると、やっぱりこの仮説は成り立っている。僕のロジックのつくり方はそういう感じですね。

 

コンテクストの読み取り方が尋常じゃないんですね。多分仮説をつくって、それがちゃんとコンテクストになっている。それって投資の仕事にもめちゃくちゃ活きてるのかなと思ったんですけど。

 

蛯原やっぱり金融って古今東西リベラルアーツ好きが多いですからね。

 

金融でまともにヨーロッパで仕事しようと思うと、やっぱりリベラルアーツないと本当に相手にされないみたいな。ギリシャ、ローマの古典とキリスト教の文化と。

 

蛯原だからドラッカーが言う「経営学とは人間学である」みたいなこと。金融こそ人間学なので、リベラルアーツなんですよね。

 

なるほど。人の行動を理解してないとできない。

 

蛯原そうです、心理学的なものも含めて、歴史とかトレンドとか地政学と。PEファンドとかをやってるわけじゃないですけど、ベンチャーキャピタルって金融の一種なので。

 

文体に感じられる美意識のありか

アメリカのデータ資本主義中国のデータ資本主義から、逆に欧州のGDPRによる揺り戻しみたいな。そこからかつてのセブン・シスターズの歴史につながって…。まるで『愛と幻想のファシズム』みたいな(笑)。ここもやばいですよね。

 

蛯原萌えるのは、このへんの世代の人たちかどうかですよ。村上春樹とか村上龍とか読んで、そこで青春を過ごした人たち。

 

あと、例えばイノベーションについて書かれた部分。「テクノロジーとは目的があってはじめてテクノロジーになる」っていうのは白眉ですね。ひとつの技術だけでは目的を持たないけど、それが社会課題や同じ目的に対していくつも組み合わさっていくことで、テクノロジーとなっていく。イノベーションを仕事にしている僕が、いつも思ってはいるけど言語化できていないことでした。

 

蛯原そう思ったので、角さんに献本を送っておいてくださいってダイヤモンド出版にお願いしました(笑)。イノベーションって言われたら、やっぱり角さんを外すわけにはいかないから。

 

うれしいことを言うなあ(笑)。『テクノロジー思考』は、書くのにどれぐらい時間かかったんですか?

 

蛯原意外とそうでもないですよ。数か月とかじゃないですかね。一部は前に書いたブログとかをリライトしていたりするので。

 

普段から言語化をずっとされてるから、原稿を書くのにも慣れてらっしゃるんですね。

 

蛯原あと僕は結構、“音”も気にするんですよ。書く内容をブワーッて口で読みながら書くんですよね。語感が悪い文章って嫌いなんです。

 

文体にすごいリズム感があります。

 

蛯原文法的には正しいけど美しくない文章っていっぱいありますが、それは嫌なんです。ICCで、某大手出版社の編集の人に「蛯原さん、あれって誰が書いたんですか?」って言われたから「いや、一言一句、僕が書きましたよ」って言ったら目を丸くされたんですけど。みなさん、ライターを使うことが多いので。

 

分かります。多分、美意識がすごいあるなって感じしました。リズム感とか言葉のチョイス。魂を削ってないとこれは書けない気がする。

 

蛯原あまりにも分かりづらいから日本語を直されたりとか構成の人に直されたりするんですけど、頑張って押し戻したりしたことありますよ。最悪、意味が分からなくてもいいからこの文章は残してくれとか。

 

分かる分かる。中国の章で「中国はその国体を論ずるまでもなく、市民活動の結果としてオーガニックに国家が発展していく部分と同居して」とか、こんな表現あまりしないよなって思います。それと読み手に誤解がないように、でもイメージができるようにっていう、すごい丁寧な書き方です。

 

蛯原めちゃくちゃうれしいです。ひとつには、僕はニュース記事なんかの論理的な間違いをよく発見するタイプなんですよ。だから自分でも誤解されないように、「ちなみにそうでない部分もありますけど…」ってエクスキューズをしっかり書かずにはいられない。間違ってるって言われたら嫌なので(笑)

 

でもここまで丁寧に書いてたら、クソリプみたいなのついても「大丈夫。そういう言い方してないから」っていう感じですよね。

 

蛯原とはいえ文章的に美しくもしたい。よく言うのはサルトルとカミュって同じようなことを実は言ってて。でもサルトルの本は超絶つまんないけど、カミュはノーベル文学賞取ったぐらいの作家だから、冒頭から「きょう、ママンが死んだ」っていうこの文章、ギュッと心つかまれるじゃないですか。あの言語化の仕方が好きなんですよね。

 

後編はコチラ

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