新規事業提案制度、いわゆる「社内ビジコン」の初年度は、目的設定、募集テーマ、応募者支援、審査、KPIなど、開始前に整理すべき論点が多岐にわたります。

株式会社フィラメントは、これから社内ビジコンを始める企業に向けた実務ガイド「社内ビジコン設計ガイド」を公開しました。2026年6月に開催した「BIZCON AWARDS 2026」の実態調査(参加71社・158名/分析対象40社)と先行企業の取り組みをもとに、初年度設計のポイントを整理しています。

社内ビジコンの初年度で重要なのは、完璧な事業化制度をつくることではありません。目的を1つに定め、応募を集めて提案づくりを支える「入口」を丁寧に設計し、小さくても審査後の次の一歩と振り返りを残すことです。初年度に最もつまずきやすいのは事業化ではなく、応募を集め、質を高め、続ける入口側です。

また、事業化件数やKPIを開始前に固めきる必要はありません。開始前に決めること、仮置きでよいこと、審査前に握ること、終了後に見直すことを分けて考えることが、立ち上げを現実的にします。

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数字で見る社内ビジコンの初年度設計

これから社内ビジコンを始める企業が押さえるべき3つの原則

原則1 目的を1つに定める

社内ビジコンには共通の正解がありません。BIZCON AWARDS 2026の実態調査では、開催実績のある40社のうち主目的の1位は新規事業創出が29社と最多でしたが、人材育成を重視する企業が8社、組織風土醸成を重視する企業が3社あり、期待する役割は一様ではありませんでした。複数の効果を期待しつつも、優先順位は1つに絞ります。

避けたいのは、目的の後出しです。最初は「新規事業を生む」と掲げたのに、成果が出ないと「実は人材育成が目的だった」と言い換えると、関係者の信頼を損ねます。初年度から事業化成果が出にくいのは当然であり、その前提を最初に共有しておきます。

原則2 初年度は「出口」より「入口」でつまずく

社内ビジコンは、設計・目的設定、告知・募集、応募者支援という前半の「入口」と、最終審査、PoC・検証、振り返りという後半の「出口」で構成されます。制度が成熟するほど課題の重心は入口から出口へ移りますが、初年度につまずくのは入口側です。実態調査でも、立ち上げ期(黎明期・10社)はエントリー数の確保・応募者の熱量維持・アイデアの質が中心の課題でした。

原則3 参考にすべき先行事例は、同業ではなく「構造」で探す

実態調査からは、課題は業種だけでなく、社員属性・顧客との距離・収益構造といった事業構造によっても変わる可能性が見えてきました。受託SI企業とエンジニアリング企業は異なる業種でありながら、技術者が中心・顧客接点が限定的・プロジェクト型の収益という共通構造を持ち、課題も似通います。逆に同じIT業界でも、営業主体のSaaS企業と受託SI企業では課題の現れ方が異なります。

社内ビジコンの立ち上げに関する10の疑問

社内ビジコンとは何ですか?

社内ビジコンとは、社員から新規事業のアイデアを募り、審査・伴走支援・検証を通じて、事業化や人材育成、組織風土の変化につなげていく制度です。

社内ビジコンの準備はいつから始めればよいですか?

4月に募集を開始する場合は、前年の秋ごろから準備を始めます。初年度は、準備開始から最終審査、振り返りまでにおよそ1年〜1年半を見込みます。

BIZCON AWARDS 2026のエントリー企業のうち、期間を集計できた18社では、募集開始から最終審査までの中央値は約10か月、募集期間の中央値は2か月でした。ただしエントリー企業には複数回の審査や長期伴走を行う成熟したプログラムも多く含まれるため、初年度は自社の体制に応じて工程を絞ることが重要です。

2年目以降は、振り返りと翌年度の準備を一部並行させることで、4月から翌年3月までの年間サイクルとして運営しやすくなります。制度運営は1年単位、採択案件の検証・事業化は複数年度の取り組みとして分けて考えます。

社内ビジコンを始める前に確認すべきことは何ですか?

多くの失敗は制度の細部ではなく、「どんな状態から始めるのか」「関係者が何を期待しているのか」を整理しないまま走り出すことで起きます。設計に入る前に、次の3点を確認します。

  • 自社の現在地を見る(経営層の関与・予算・工数・人事評価・事業部接続・顧客接点・社内文化を「いまある/これから整える」に仕分ける)
  • 初年度に決めることと、3〜5年で整えることを分ける
  • 経営層・事業部・人事・上長・応募者の期待値をそろえる

実態調査では、事務局は2〜3名体制の企業が多く、担当者の経験年数も5年未満が中心でした。少人数で始める場合ほど、経営層・人事・事業部との役割分担を最初に整理しておくことが重要になります。

初年度に決めることと、後回しにしてよいことは何ですか?

開始前に決めるのは、目的、対象範囲、募集テーマ、事務局体制、一次審査までの大まかな流れです。最終的な事業化件数やPoC件数、事業部移管の具体条件、翌年度以降のKPIは、開始時点では仮置きで構いません。

初年度は応募数も提案の質も社内の反応も読みにくいため、事業化件数やKPIを開始前に固めきろうとすると、後から評価がずれやすくなります。重要なのは、開始前に決めること・仮置きでよいこと・審査前に握ること・終了後に見直すことを分けることです。

応募が集まらない場合はどうすればよいですか?

新規事業に関心のある社員が少ない企業では、全社員に広く募集をかけるだけでは応募が集まりにくくなります。自由応募だけに頼らない設計が必要です。

初年度は、部署推薦、上長推薦、テーマを絞った募集、説明会後の個別声がけを組み合わせ、まずは挑戦の母集団をつくります。

「新規事業をやりたい人」を探すだけでなく、「顧客や現場の違和感を持っている人」を見つけ、提案に変える支援を用意します。

応募者支援はどこまでやればよいですか?

最小構成は、募集前の説明会、提案づくり中盤のメンタリング(1〜2回)、最終審査前のピッチ準備支援の3点です。これだけでも提案の質と完走率は大きく変わります。

応募者の多くは新規事業の経験が浅く、提案の形にするまでに支援を要します。一方で支援を手厚くしすぎると少人数の事務局が回らず、介入しすぎると提案が均質化します。要所に絞り、自走を助ける位置づけにとどめます。

審査基準はどう決めればよいですか?

評価軸は3〜5項目に絞り、応募要項の段階で公開します。あわせて重要なのが審査員の目線合わせです。

役員は既存事業の稟議のように、リスクや粗を指摘する視点が強く出やすくなります。社内ビジコンの審査は完成された事業計画を決裁する場ではなく、挑戦を次に進める可能性を見極める場です。「粗探しではなく可能性を見る」というコメント方針を事前に共有しておきます。 先行企業では、一次審査までに審査基準を公表したり、事前にアイデアを確認したりする工夫が見られます。評価のものさしを早めに示すことは、応募者の不安を下げ、提案の質を高めるうえで有効です。

審査後の受け皿は、開始前に決めておく必要がありますか?

受け皿を確定する必要はありません。ただし「どのような検証へ進みうるか」「何件まで継続検討できるか」「誰が引き取るか」は、最終審査前までに役員・事業部・事務局で握っておきます。

最終審査は、コンテストの出口であると同時に、実ビジネスに向けたスタートラインでもあります。支援できる件数には上限があり、通しすぎると支援が薄まります。

初年度の成果はどう測ればよいですか?

初年度は、事業成果だけで測りません。応募率・完走率・継続応募率・満足度・次年度参加意向といったプロセス指標を、次年度のKPIを設計するための基準値(ベースライン)として記録します。

参考にすべき先行事例は、どう選べばよいですか?

同業他社ではなく、自社と似た「構造」を持つ企業を参考にします。社員属性・顧客との距離・収益構造が近い企業は、直面する課題も似通う傾向があります。

本ガイドでは、技術者中心、営業・販売中心、ブランド・マーケティング中心、製造現場中心、受託・プロジェクト型、グループ横断運営、人材育成重視の7タイプ別に、起きやすい課題と設計の着眼点を整理しています。


図1 社内ビジコンの基本の流れ

社内ビジコンは、設計・目的設定、告知・募集、応募者支援という前半の「入口」と、最終審査、PoC・検証、振り返りという後半の「出口」で構成されます。初年度は前半を丁寧に設計し、後半は小さくても「次の一歩」と「振り返り」を必ず用意します。

社内ビジコンの基本の流れを示した図。入口は設計・目的設定、告知・募集、応募者支援の3工程、出口は最終審査、PoC・検証、振り返りの3工程。

出典:株式会社フィラメント『社内ビジコン設計ガイド』(2026年)


図2 初年度のモデルスケジュールと期間の目安

初年度は、準備に4〜6か月、プログラム実施に6〜8か月、振り返り・次年度準備に1〜2か月を見込み、全体でおよそ1年〜1年半となります。

社内ビジコン初年度のモデルスケジュールを示した図。準備4〜6か月、プログラム実施6〜8か月、振り返り・次年度準備1〜2か月で、全体はおよそ1年〜1年半。

出典:BIZCON AWARDS 2026エントリー企業提出資料(集計対象18社)をもとに株式会社フィラメント集計(2026年)


図3 制度の成熟と課題の重心の移行

黎明期(1〜2回・10社)は入口の課題が中心、定着期(3〜4回・12社)で入口と出口が並び、成熟期(5回以上・18社)では事業化・事業規模の拡大・事業部との連携という出口の課題へ重心が移ります。

制度の成熟度別に課題の重心の移行を示した図。黎明期10社は入口課題、定着期12社は入口と出口が並ぶ、成熟期18社は出口課題が中心。

出典:株式会社フィラメント『BIZCON AWARDS 2026 開催報告』(2026年)


表1 実態調査(n=40)に見られた分かれ方

観点実態調査(n=40)に見られた分かれ方
主目的(1位)新規事業創出 29社 / 人材育成 8社 / 組織風土醸成 3社
対象範囲グループ会社を含む 17社 / 自社単体 13社 / ホールディングス全体 7社
求める提案テーマ既存事業の延長 12社 / 飛び地型 9社 / 特に制限しない 8社

※「求める提案テーマ」は、回答の多かった上位3区分を抜粋。※飛び地型:既存事業や既存顧客から距離のある、新たな領域の提案。/出典:株式会社フィラメント『BIZCON AWARDS 2026 開催報告』(2026年)


表2 開始前に決めること/仮置きでよいこと/握ること/見直すこと

区分決める・握る内容考え方
開始前に決める目的、対象範囲、募集テーマ、事務局体制、一次審査までの大まかな流れ期待をそろえる。曖昧だと応募者・審査員・経営層がずれる
開始時点では仮置き最終的な事業化件数、PoC件数、事業部移管の具体条件、翌年度以降のKPI固定しすぎない。応募数・提案の質が読みにくい
一次審査前に握る書類審査の通過件数、二次・最終審査に残す件数、伴走支援できる上限支援の上限を決める。通しすぎると薄まる
最終審査前に握る継続検討する件数の上限、次フェーズで検証する内容、担当部署・役員の関与全部は進めない。支援できる件数に絞る
終了後に見直す応募数、完走率、提案の質、審査後の進捗、関係者の反応評価でなく基準値。次年度設計に使うため記録する

出典:株式会社フィラメント『社内ビジコン設計ガイド』(2026年)


表3 構造タイプ別に起きやすい課題と設計の着眼点

自社の構造タイプ起きやすい課題と設計の着眼点
技術者中心提案の担い手が一部に偏りやすく、エントリー確保が課題。技術起点のアイデアを顧客価値へ翻訳する支援が要る。
営業・販売中心顧客接点は強いが、収益モデルや検証でつまずきやすい。事業性検証の伴走が効く。
ブランド・マーケティング中心既存ブランドや商品の延長に発想が寄りやすい。生活者理解やブランド資産を、新しい価値提案へ翻訳する支援が要る。
製造現場中心改善提案に寄りやすく、事業として飛躍するアイデアの質が課題になる。発想を広げる場が要る。
受託・プロジェクト型顧客課題を自ら探す経験が少なく、顧客起点の発想と検証の場が要る。
グループ横断で運営事業部・グループ間の連携が固有の課題。窓口役と接続設計が要る。
人材育成を重視事業化より応募の量と挑戦の質が要。完走と学びを支える設計が中心になる。

※本表は、BIZCON AWARDS 2026実態調査および先行事例をもとに、株式会社フィラメントが整理した考察です。

表4 役員から聞かれやすいこと/初年度の答え方

役員から聞かれやすいこと初年度の答え方
何件、事業化できるのか初年度は事業化件数を固定目標にせず、応募率・完走率・提案の質・参加者の学びを基準値として記録します。事業成果は二周目以降に育てます。
失敗したらどうするのか失敗を出さないことよりも、検証して学びを残すことを重視します。審査は決裁の場ではなく、次に検証する可能性を見極める場として設計します。
他社はどうしているのか同業だけでなく、社員属性・顧客接点・事業構造が近い企業を参考にします。似た構造の企業から、つまずきやすい点と優先順位を学びます。

出典:株式会社フィラメント『社内ビジコン設計ガイド』(2026年)

初年度設計の簡易チェックリスト

初年度の設計に入る前に、最低限おさえたい項目です。制度の骨格を「決める」、走らせる前に運営面を「確認する」の2段階で進めます。

まず決めること(制度の骨格)

  • 主目的(新規事業創出/人材育成/風土醸成など)を1つに定めているか
  • 対象範囲(自社単体/グループ/ホールディングス全体/特定事業部)を決めているか
  • 求める提案テーマと、その起点(自社の強み/顧客課題)を示しているか
  • 事務局を担う部署と、経営層の関与・人事面の調整の担い手を決めているか
  • 初年度に実装する範囲と、2年目以降に育てる範囲を分けているか

運営前に確認すること(走らせる前の備え)

  • 経営層・事業部・人事・上長・応募者ごとの期待値をそろえているか
  • 募集前の説明会など、応募の動機づけの場を用意しているか
  • 提案づくりを支えるメンタリングや磨き込みの場があるか
  • 評価軸を3〜5項目に絞り、応募要項で公開しているか
  • 各審査段階で残す件数・最終審査後に継続検討する件数を、審査前に握っているか
  • 初年度の成果を事業化件数だけで測らず、プロセス指標を基準値として記録する設計か
  • 自社と似た「構造」を持つ企業の設計を参照できているか

資料概要

項目掲載内容
資料名社内ビジコン設計ガイド
発行株式会社フィラメント
制作ビジコンAWARDS事務局(株式会社フィラメント)
公開日2026年7月(第1版)
形式PDF/全12ページ
対象読者これから社内ビジコンを立ち上げる企業の事務局担当者、既存制度を見直したい担当者
根拠データBIZCON AWARDS 2026 参加企業アンケート(回答66名・45社/分析対象40社)および先行企業の取り組み
スケジュールの根拠BIZCON AWARDS 2026エントリー企業提出資料(集計対象18社)をもとに株式会社フィラメント集計
出典レポート株式会社フィラメント『BIZCON AWARDS 2026 開催報告』(2026年)

本ガイドを読む際の注意事項

本ガイドが引用する実態調査は、BIZCON AWARDS 2026の来場者を対象とした任意回答による調査です。回答者は全員が当事者ですが、そのなかでも社内ビジコンへの関心が比較的高い層に偏っている可能性があります。

本ガイドの「黎明期」「定着期」「成熟期」は、実施回数による分析上の区分(1〜2回/3〜4回/5回以上)であり、各社の制度成熟度を判定するものではありません。各区分は少数サンプルを含むため、統計的な一般化ではなく参加企業に見られた傾向として参照してください。

モデルスケジュールの期間はフィラメントの推奨値であり、標準規格ではありません。また、集計対象のエントリー企業には複数回の審査や長期伴走を行う成熟したプログラムも多く含まれるため、初年度の目安としてはそのまま当てはまらない場合があります。

初年度に押さえるべきは、目的・入口・次の一歩の3点

社内ビジコンに、共通の正解はありません。他社の成功例をそのまま移植するのではなく、自社の目的・社員属性・事業構造に合わせて設計することが、これから始める企業の出発点になります。

初年度に最も大切なのは、完璧な制度をいきなり作ることではありません。目的を1つに定め、入口(応募を集め、支え、続ける)を丁寧に設計し、小さくても審査後の次の一歩を用意する。この3点を押さえれば、初年度は十分に意味のある一歩になります。

また社内ビジコンは、応募の有無が個人の意欲に、提案の質が個人の経験に左右されやすい側面があります。事務局の役割は、その意欲・能力・偶然性を組織的な支援で補い、挑戦する人を支える仕組みをつくることにあります。

なお、本ガイドが根拠とする40社の実態調査の詳細は、「社内ビジコン実態調査2026」で公開しています。

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初年度の準備から募集テーマ、応募者支援、審査の進め方、KPIの考え方、振り返りまで、制度設計と事務局運営のポイントを全12ページにまとめています。

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*外部媒体・記事への掲載時
出典:株式会社フィラメント『社内ビジコン設計ガイド』(2026年)

ガイド内の調査数値を引用する場合
出典:株式会社フィラメント『BIZCON AWARDS 2026 開催報告』(2026年)

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