スペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「なぜ新規事業ビジコンに”イケてる人材”は集まらないのか?」です。
質問者:
大手メーカーCさん
相談の背景や理由:
社内で新規事業ビジコンを運営していますが、応募は日常業務に比較的余裕がある人や、本業以外で活躍の場を求めている人に偏り、事業性の高いアイデアが出にくい状況です。逆に、本来巻き込みたい次世代リーダー層や優秀人材は、上司承認や本業優先の壁、参加メリットの不明確さから応募が進みません。その結果「一部の人だけのイベント」と見られかねず、人材発掘の意義が薄れています。どうすれば優秀層が参加したくなる仕組みを設計できるか、ご意見を伺いたいです。
角:本日のご相談は大手メーカーCさんから「なぜ新規事業ビジコンに”イケてる人材”は集まらないのか?」についてのご相談です。フィラメントでは今年、新規事業ビジネスコンテストのアワードを開催しまして、「なるほどね」と感じる質問が来たなと感じているんですが、まずはお二人にご意見を聞いていきたいと思います。村上さんはヤフー時代にビジコンというかHack Dayとかもされていたので、いただいた質問のような部分でご苦労されたご経験もあるんじゃないでしょうか?
村上:そうですね。まさにあの当時はハッカソンとかも流行ってましたね。当時からハッカソンを伝統的にやっていて、一時下火だったのをまた盛り上げて、さらに社外まで広げて、Open Hack Dayという形で開催しているわけです。
Cさんご自身も気づいていらっしゃるように、変えなくちゃいけないこと、つまり「上長承認の壁」「本業優先の壁」「メリットの不明確さ」という3つの壁を、全部なくせばいいというのが単純な答えです。もちろん、「それができれば相談していない」と怒られそうですが、基本的にはそういうことなんだと思います。そのためには、まず社内ビジコンの位置づけを再確認された方がいいかと思います。このビジコンが、本当に新規事業の種を見つけるためのものなのか、あるいは単に良いピッチをした人をプロジェクトに投入するための人材発掘の場になっているのかによって、やるべきことが大きく異なります。その方向性は、今のスポンサーである役員など上層部の人たちがどう考えているかによります。
Cさんが挙げたこの「3つの壁」は、スポンサー(経営層)の力でしかほぼ解決できません。これらの壁は、本業がおろそかになるのを避けるためにできたのだと思いますが、これらを取っ払うということは、本業に影響が出る可能性があるということです。だからこそ、これを突破できるのは経営層だけです。Cさんは、そこに対して再び問いかけをするタイミングに来ていると思います。
角:なるほど。
村上: たとえば、ソフトバンクグループの例をお話しすると、ご存知の通り、トップに非常に勢いがある方がいらっしゃるのですが、熱いトピックが来ると社内はむちゃくちゃ盛り上がります。昔、iPadが出たとき、トップは「ペーパーレスだ!全グループで紙は許さん」と言い始めました。全社員にiPadを配り、まず自分たちがファーストカスタマーとしてメリットもデメリットも知った上で、お客様に売っていくプロセスにしたのです。ここからがすごいんですが、実際に経営会議で、全部門の「紙の使用枚数」を報告させるわけです。それをランキングにして、「お前んとこは何でこんなに紙を使っているんだ」と、口頭で厳しく言われるわけですよ(笑)。こういう経営層のコミットがあれば、Cさんが悩んでいる壁は全然なくなります。社員も「これで事業を作るんだ」という意識になるわけです。
また、ソフトバンクグループはコンテスト好きで、AIアイデアコンテストなどをグループでやります。そういう時も、経営会議レベルで「アイデアが何件出たのか」を報告させるわけです。アイデア出しの件数や、そこから特許申請に至った件数などをKPIとしてゴリゴリ動かします。つまり、本気でビジコンから事業を生み出そうとするなら、経営層がそこまで深く入り込んだ勢いが必要なんだと思います。
角:経営層にしかできないというか、もはや孫さんぐらいじゃないとできないみたいな感じがしますね(笑)。
村上:ただ、いわゆるそのイケてる人材、つまり社内の優秀層ってのは忙しいはずです。イケてるから忙しいわけじゃないですか。だから、「少なくとももうこの2日間は貸してください」という感じで、イケてる人の上司に許可を貰わないと動けないですよね。そのレベルがどこかにもよるんですけども、少なくともそういう枠組みは作らないと多分解決はしないのかなと感じましたね。
角:ちなみに村上さんがHack Dayのときに面白い人が参加しやすいようにするための工夫とかはありますか?
村上:Hack Dayの場合はモノを作らなくちゃいけない、つまりプログラミングしないといけないじゃないですか。なので、ビジネス部門の「アイデアはあるけどモノは作れません」という人たちを、エンジニアとマッチングできるようなプレイベントとかをやってましたね。まだテーマが決まってないエンジニアとかデザイナーとマッチングするように、事前に毎週こういった取り組みをやることでチームビルディングにつなげるみたいな。やっぱり面白いアイデアも出てきましたし、そのチームが次回のイベントにも出るようになったりしていましたね。
角:社内オープンイノベーション的な感じなんですね。Cさんのご相談を拝見して、すごく共感する反面、この社内ビジコンに内発的動機、つまり「この問題を本当に解決したいんだ」「こんなことを考えたらワクワクする」という気持ちで参加してくる人が増えてほしいという意図を強く感じました。ただ、そのワクワク感が、文章からはあまり読み取れなかったんです。もっと、「このビジコンに参加したらこんな面白いことがある」とか、「過去にはこんな面白い人たちが参加していた、こんな面白いアイデアが出たぞ」といった、ワクワク感を醸成する視点があっても良いのかな、と今の話を聞いて思いましたね。蛯原さんはいかがでしょうか?
蛯原:このご相談は、見た目よりもシンプルに解決できるかもしれません。「本来巻き込みたい次世代リーダー層や優秀人材が巻き込めない」ということは、バイネームで来てほしい人がもう決まっているということですよね。だったら、Cさんが一人ひとり、その人たちを情熱を持って口説けばいいのではないでしょうか。もちろん、上長が許可してくれないという壁はあります。エース級の人材は本業で忙しいからと、参加を渋るかもしれません。その場合は、経営レベルのコミットメントが必要です。「招集が来たら無条件で応じること」といった、経営陣からの明確な指示があれば、この問題は解決できるはずです。これをやれば、話はかなり単純化されるはずです。
ただ、より本質的な話をすると、これは組織文化の問題です。ビジネスコンテストのような「仕組み」(上部構造)だけを整えても、新規事業こそが花形であるという「文化」(下部構造)がなければ、うまくいきません。おそらく、Cさんの会社は新規事業とは真逆の文化を持っているんじゃないでしょうか。本来なら、新規事業が生まれる文化を醸成すべきですが、それは一朝一夕にはできませんし、担当者一人でできることではありません。ですから、手っ取り早い解決策としては、スカウトするというアプローチが有効ではないでしょうか。
角:なるほど。素晴らしいですね。
僕はいろんな会社のビジネスコンテストのサポートをしているんですが、ある金融系の会社のサポートをした時にその事務局の方が「いい人を集めるコツは、一本釣りでアタックしていくことだ」とおっしゃっていました。そして、アタックすべき人のイメージは「人気者」だと。人気者の人たちに参加してもらうと、それを見た社内の人たちは「あのイケてる人が参加しているなら、イケてるものに違いない」と思い、他の人たちも参加するようになる、という論理です。人気者を参加させるためには、もう誠心誠意お願いをしていくのだと。まさに、今蛯原さんがおっしゃったことそのものを実行されている方がいましたね。その方は、参加者とのコミュニケーションも上手で、「この人はこういう悩みを抱えている」といった見立てが非常に上手だったので、そういった能力がビジコンの運営側には求められているのかもしれません。
文化という下部構造の話を村上さんから、そして、とりあえずの突破口として、ジョブ(人材)の一本釣りでやっていくという話を蛯原さんからお話しいただきましたね。ということで、大手メーカーCさん、是非、ご参考にしていただけたらと思います。
・「上長承認の壁」「本業優先の壁」「メリット不明確の壁」という3つの構造的障壁は現場努力で解決できるものではなく、経営層の明確な意思と制度的後押しによってのみ突破可能
・(ソフトバンクの例のように)トップダウンの強いコミットがあれば、社内の熱量は一気に高まる
2,ワクワク感の設計と仕組みづくり:
・社員が「参加したい」と思える内発的動機を喚起するには、ビジコンの意義や楽しさを再設計する
・事前のプレイベントで異なる職種同士をマッチングし、チームビルディングを促すことで、多様な発想と関係性が育まれやすくなる
3,文化的課題と現実的な突破口:
・根本的には、新規事業を価値ある活動とみなす文化(土台構造)が社内に欠けており、仕組み(上部構造)だけでは機能しない
・この文化を変えるには時間がかかるため、短期的には「一本釣り」型のスカウトが有効
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
本記事では要約をお伝えしましたが、テキスト化できなかった部分もありますので、回答のフルバージョンをぜひ動画でご覧ください。
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