応募者だけを育てない。事務局も、審査員も、制度も育てる社内ビジコン支援
社内ビジコン(新規事業提案制度)を運営していると、こうした課題に行き当たります。
「応募がなかなか集まらない」
「アイデアの質が上がらない」
「審査員によって評価がばらつく」
「採択後、事業化まで進まない」
こうした課題に対して、応募者向けの研修やメンタリングを充実させることは重要です。
一方で、フィラメントが2026年に実施した社内ビジコン実態調査では、これらの課題が制度の成熟度によって入れ替わっていく傾向が見えました。去年うまくいった打ち手が、今年も同じように効くとは限りません。
そして課題が変わるなら、支援すべき対象も変わります。
挑戦する社員を支える事務局。
その挑戦を評価する審査員。
採択後の意思決定を担う経営層や既存事業部門。
そして、毎年改善されていく制度そのもの。
これらが一緒に変わっていかなければ、社内ビジコンは毎年開催する「イベント」で終わってしまいます。
フィラメントが目指しているのは、ビジコンを代わりに運営することではありません。
応募者だけを育てない。事務局も、審査員も、制度も育てる。
企業の中に、「挑戦する→検証する→次へ進む→もう一度挑戦する」という循環をつくることです。
社内ビジコンの課題は、開催を重ねるほど変わっていく
フィラメントが2026年に実施した「社内ビジコン実態調査」では、開催実績のある40社について、制度の目的、事務局体制、運営課題などを分析しました。その結果、社内ビジコンの課題は開催回数によって変化する傾向が見えてきました。
開催1〜2回の黎明期では、
- エントリー数の確保
- 応募者の熱量維持
- アイデアの質
といった「入口」の課題が中心です。
一方、開催5回以上になると、
- 事業化
- 事業規模の拡大
- 既存事業部門との連携
といった「出口」側へ、課題の重心が移っていきます。
また、調査対象40社のうち、事務局を2〜3名で運営している企業が19社と最も多く、運営に直接関与する事務局担当者では、約9割が運営経験5年未満でした。つまり多くの企業では、少人数かつ必ずしも経験豊富ではない事務局が、応募促進から参加者支援、審査、事業化支援まで幅広い役割を担っています。制度を継続すれば、自然に運営がうまくなるわけではありません。 制度の成熟度に合わせて、事務局の役割や支援の仕組みそのものを更新していく必要があります。
社内ビジコンを継続的な新規事業創出につなげるために重要な3つのこと
こうした実態を踏まえると、社内ビジコンを一度きりのイベントで終わらせないために重要なのは、次の3つです。
- 応募者だけでなく、応募前の社員まで挑戦者として支援する
- 事業の成熟度に応じて審査基準を変え、審査員の目線もそろえる
- 事務局に運営ノウハウを残し、制度そのものを毎年更新する
以下、それぞれについて具体的に説明します。
1.「応募者」になる前の社員から支援する
社内ビジコンというと、
募集 → 応募 → 選考 → 採択者をメンタリング
という流れを想像しがちです。
しかし実際には、正式応募より前に大きな壁があります。
「新規事業には興味があるけれど、まだアイデアと呼べるほどではない」
「普段感じている課題はあるが、事業になるのか分からない」
「応募してみたいけれど、いきなり企画書を書くのはハードルが高い」
こうした社員は、完成した事業案の提出を待っているだけでは表に出てきません。
そこでフィラメントでは、
- 有識者による講演
- 新規事業マインドセットのワークショップ
- アイデア創出ワークショップ
- 応募前の相談会
- 簡易エントリー
- 正式応募前のテキストメンタリング
など、正式応募より前に複数の入口を設けることを重視しています。
2022年度(第3回)の商工中金ビジネスコンテストでは、約4か月の公募期間に100名近くの社員がエントリーしました。フィラメントは全応募アイデアにテキストチャットでメンタリングを実施。一次選考を通過した9チームは二次選考(本選考)に進み、約3か月にわたってワークショップとオンラインメンタリングを行いました。大切なのは、「応募数を増やす=社内告知を増やす」だけではないということです。「相談してもいい」「まだ完成していなくてもいい」と思える入口をつくることで、まだアイデアになっていない問題意識を持つ社員が、挑戦者に変わっていきます。
→ 社内ビジコンの参加者を増やすには?
2.社内ビジコンの審査基準は、フェーズごとに変える

社内ビジコンで意外と見落とされやすいのが、審査する側です。役員や管理職は、既存事業において多くの経験を持っています。既存事業であれば、「リスクはないか」「本当に実現できるか」「投資対効果は十分か」と厳しく確認することは重要です。しかし、顧客課題や解決策をまだ検証している途中の0→1の新規事業に、既存事業と同じ物差しをそのまま当てはめるとどうなるでしょうか。「市場規模がまだ分からない」「収益モデルが固まっていない」「本当に顧客が買うか確認できていない」といった、初期の新規事業では当然残っている不確実性まで、「できない理由」として評価されてしまうことがあります。
評価項目を丁寧に作り込むことは、もちろん有効です。ただ、フィラメントが重視しているのはもう一段手前の設計です。新規事業は、成長段階によって「見るべきもの」が違います。同じ評価軸を初期審査から最終審査まで使い続けると、初期の提案には厳しすぎ、最終段階の提案には甘すぎる審査になりがちです。そこで、審査のフェーズごとに評価軸を入れ替えます。

初期審査では「課題を確かめる価値」を見る
- 顧客課題の重要性
- 仮説の筋
- 自社が取り組む意味
- 次の検証へ進める状態にあるか
この段階では、収益モデルの完成度や市場規模の精度を問いません。問うべきは「この課題は確かめる価値があるか」です。
中間審査では「検証の質」を見る
- 顧客から何を聞いたか
- どの仮説が確認されたか
- 何が否定されたか
- 仮説がどう変化したか
ここで評価するのは、事業案の完成度ではなく検証の質です。「仮説が外れた」ことは減点材料ではありません。外れたと分かったこと自体が前進です。
最終審査では「事業性と実行性」を見る
- 顧客検証の結果
- 事業モデル
- 実行体制
- 次の投資で何を確認するのか
この段階で初めて、事業性を正面から問います。目指しているのは、「良い案を選ぶ審査」から、「この案は次に何を検証すれば前に進むのかを判断する審査」への転換です。
審査員の見方をそろえる
評価軸を設計しても、審査員がそれをどう使うかが揃っていなければ、評価はばらつきます。
そのためフィラメントでは、評価項目や配点だけでなく、
- 審査員への事前レクチャー(各フェーズで何を見るのか、何を見ないのか)
- 質疑の進め方
- 審査会のファシリテーション
- 講評の組み立て
- 参加者へのフィードバック
までを一連のプロセスとして設計します。
審査は、優劣をつける作業ではなく、次に進む案と検証すべき論点を決める作業です。 審査員がその前提を共有できているかどうかで、同じ制度でも結果は変わります。
3.不採択者を「敗者」にしない
ビジコンには、必ず採択と不採択があります。しかし、多くの社員が挑戦する制度で、採択された数チームだけに価値が残る設計では、組織全体で見ると大きな学習機会を失っています。
そのため、不採択者にも、
- 何が良かったのか
- 今回なぜ次へ進まなかったのか
- 次に何を確認すればよいのか
を返すことが重要です。
結果だけを通知して終わるのではなく、良かった点や判断理由、次に検証すべきことをフィードバックする。前章の評価軸の設計は、ここにもつながります。フェーズごとに「何を見たか」が明確になっていれば、不採択の理由も「実現性が低い」といった漠然とした言葉ではなく、「この仮説がまだ確認されていない」という具体的な形で返せます。また、挑戦者が顧客インタビューで何を学んだのか、どんな仮説を捨てたのか、どんな失敗があったのかを社内で共有すれば、その学びは応募していない社員にも広がります。不採択者にも次の検証につながるフィードバックを返し、その学びを翌年度の再挑戦や制度改善へつなげる。社内ビジコンを「選ぶ制度」ではなく、「組織が学習する制度」にする。これも、フィラメントが社内ビジコンを支援するうえで大切にしている考え方です。
4.制度を動かしている「事務局」に運営資産を残す
社内ビジコンでは、どうしても応募者に注目が集まります。しかし、制度を毎年動かしているのは事務局です。フィラメントは、外部パートナーがすべてを代行することを前提としていません。制度の目的、採択後の予算や活動時間、継続・撤退の意思決定など、企業自身が握るべき部分は企業側が担う。そのうえで、他社の制度に関する知見、応募者へのメンタリング、外部有識者や顧客との接点、審査設計、事務局の壁打ちなど、社内だけでは不足しやすい部分を補完します。そして、その年に作ったものを使い捨てにしません。審査基準、評価シート、講評シート、審査員への説明資料、振り返りの論点。これらを翌年度の事務局が引き継げる形で残していきます。目指しているのは、外部支援会社がいなければ制度を運営できない状態ではなく、事務局自身が自社の制度を改善できる状態です。
5.参考にすべき企業は、同業他社とは限らない
社内ビジコンの制度を設計するとき、多くの企業はまず同業他社の事例を探します。一方、2026年の実態調査からは、課題の現れ方が業種だけでは説明しきれない可能性が見えてきました。たとえば、社員構成で40社を区分すると、課題の重心に違いが出ます。技術職中心の企業では「エントリー数の確保」、営業・販売中心の企業では「事業化」、製造・生産中心の企業では「アイデアの質向上」が課題として現れやすい傾向がありました。背景には、顧客との接点の持ち方、通常業務との距離、収益構造など、それぞれの事業構造が影響している可能性があります。ただし、これは調査から因果関係を確認したものではなく、傾向として読める範囲の話です。 また、制度の対象範囲によっても課題は変わります。グループ会社を含めて運用する企業では、既存事業部門との連携が課題として浮上し、自社単体で運用している企業との差が見られました。
→ 区分ごとの社数・比率などの詳細データは「社内ビジコン実態調査2026」
こうした見方を取ると、参考にする相手の選び方が変わります。参考企業を「同業かどうか」だけで選ばず、自社と似た社員構成・顧客接点・収益構造・制度成熟度で探す。受託開発を主とするIT企業とプラントエンジニアリング企業は、ITと建設という別業種ですが、技術者中心・顧客接点が限定的・プロジェクト型収益という構造を共有しています。一方、同じIT業界でも、営業主体のSaaS企業と受託型の企業では詰まる場所が違うかもしれません。フィラメントが制度を考える際に重視しているのは、業種だけではありません。制度がいま何回目で、社員構成がどうなっており、どこで詰まっているか。こうした構造を見ながら支援内容を考えます。
6.そして、制度そのものを育て続ける
一度うまくいった社内ビジコンの仕組みも、そのまま何年も使い続ければよいとは限りません。初年度には応募者不足が課題だった制度でも、数年後には十分な応募が集まり、「事業化」が課題になっているかもしれません。人材育成から始まった制度が、経営から新規事業創出を強く求められるようになる場合もあります。事業化案件が増えれば、今度は既存事業部門との接続や予算、事業責任者の設定がボトルネックになるかもしれません。フィラメントでは、社内ビジコンを固定された「型」ではなく、組織とともに更新していく制度として捉えています。
その考え方をさらに広げる取り組みが「BIZCON AWARDS」です。BIZCON AWARDSで評価するのは、ビジコンで提案する社員ではありません。社内ビジコンを設計・運営している事務局そのものです。各社の事務局が、「どんな制度をつくっているのか」「何に悩んでいるのか」「どんな工夫をしているのか」「どのように事業化へつないでいるのか」といった実践知を共有する場をつくっています。2026年には、その参加者から66名・45社の回答を得て、開催実績のある40社を対象に、制度の目的、事務局体制、成熟度別の課題などを分析しました。 一社の支援経験だけではなく、各社の社内ビジコン事務局から横断的に実践知を集め、それを再び制度設計や運営改善へ還元する。この循環も、フィラメントが大切にしているものです。
→ BIZCON AWARDS 2026 社内ビジコン実態調査を見る
社内ビジコンの外部支援は「運営を楽にするため」だけではない
外部パートナーを利用する目的は、事務局の作業を代わりに行ってもらうことだけではありません。社内だけで制度を運営していると、
- 過去の慣例から抜け出しにくい
- 他社の制度と比較できない
- 既存事業の評価軸に引っ張られる
- 応募者と事務局の距離が近すぎる
- 社外の顧客や有識者との接点をつくりにくい
といったことがあります。
外部の知見を活用することで、
- 他社事例との比較
- 制度設計の壁打ち
- 応募者への第三者メンタリング
- 審査基準の再設計
- 審査員へのレクチャー
- 社外の顧客・専門家との接点
などを補完できます。
一方で、制度の目的、予算、活動時間、採択後の意思決定など、企業自身が担うべき部分まで外部へ委ねるべきではないとフィラメントは考えています。外部へ丸投げするのではなく、社内に制度運営の能力を残しながら、不足している部分を補う。これが、フィラメントが考える社内ビジコンの伴走支援です。
社内ビジコンを、何の投資として見るか
社内ビジコンの目的は、コンテストを滞りなく開催することではありません。本来見るべきなのは、挑戦者が増えているか、顧客検証の質が上がっているか、採択案件が次の投資判断につながっているか、そしてその経験が組織に残っているかです。その意味で、社内ビジコンは単年度のイベント費ではなく、企業内に新規事業を生み出す能力を蓄積する仕組みとして捉える必要があります。制度を毎年ゼロから組み直すのではなく、前年の審査基準・講評・振り返りを土台に積み上げていく。そうして初めて、投じた費用が単年度で消えずに残ります。
社内ビジコンを見直すタイミングは、こんなとき
制度そのものを見直したほうがよいサインは、次のような形で現れます。
- 応募数が前年から伸びなくなった
- 「アイデアの質」という言葉だけが課題として残っている
- 一次審査から最終審査まで同じ評価軸を使っている
- 審査員によってコメントの方向性が大きく違う
- Demo Day後に案件が止まる
- 事務局の担当変更で、過去のノウハウが失われる
いずれも、応募者への支援を厚くするだけでは解決しにくい課題です。制度の設計、審査の設計、事務局に残る資産のどこかに原因があります。
社内ビジコンで育てたいのは、「良いアイデア」だけではない
社内ビジコンを実施すると、どうしても「何件の良い事業案が生まれたか」に目が向きます。もちろん、事業を生み出すことは重要です。しかし、企業の中から新しい事業が生まれ続ける状態をつくるためには、その周りにいる人や仕組みも一緒に変わる必要があります。
挑戦する人が増える。
挑戦者を支えられる事務局が育つ。
不確実な事業を、その段階に合った目で評価できる審査員が増える。
不採択になっても、学びを持ち帰り、もう一度挑戦できる。
そして、その経験をもとに制度自体が毎年改善される。
フィラメントが考える社内ビジコン支援は、この循環をつくることです。
応募者だけを育てない。事務局も、審査員も、制度も育てる。
