古里 圭史
慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任准教授
飛騨信用組合 非常勤監事

1979年生まれ。早稲田大学卒業。株式会社スクウェア・エニックスを経てデロイトトーマツグループの監査法人に入所。2012年10月に地元、岐阜県飛騨・高山にUターンし、地域密着のコミュニティバンクである飛騨信用組合に入組。同組合において「育てる金融構想」を掲げ、クラウドファンディングや地域キャピタル会社の設立など、新しい金融手法を活用した資金供給の仕組み構築に注力。2017年には電子地域通貨「さるぼぼコイン」を手掛け、ローンチから4年でユーザー数、加盟店数ともに地域シェア40%超のサービスに。

「企業版ふるさと納税」とは

ふるさと納税。2008(平成20)年4月から始まったこちらの制度ですが、既に認知が広がっており、皆さんもご利用になったことがあるのではないでしょうか。総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和2年度実施)を参考にすれば、400万人超が利用している制度です。

実はこのふるさと納税には、「企業版ふるさと納税」という制度があることをご存じでしょうか。

この制度、寄附を受け入れる自治体にとっては勿論のこと、寄附を行う企業にとっても大いにメリットのある制度なのです。

3つのメリット

その1つ目は、経済的なメリットです。
これはこの制度モデルの根幹をなしており、自治体が行う地方創生の取組に対して企業から寄付を行った場合、税制上の優遇を得られるというものです。下記、内閣官房作成の概要資料にある通り、寄付をしたことによる寄付金の損金算入分と合わせて法人関係税(法人住民税、法人税、法人事業税)の税額控除を受けられることで、最大約9割の税負担軽減が図れます。

つまり、1,000万円寄附した場合、最大でその約9割、900万円の税負担が軽減されるのです(下の資料の例示参照)。

(引用:https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/portal/pdf/R030820gaiyou.pdfより抜粋)

課税所得が多く発生することが見込まれる企業にとっては、この制度を有効に活用することで税負担の軽減を図ることが可能です。近年の税制改正の流れの中で利用できる節税策が減っている今、ややこしくリスクのある策を弄さずとも、シンプルに堂々と節税ができる企業版ふるさと納税は企業側にとってもとても魅力的な制度だと思います。

また、2つ目のメリットは見栄えがいいということ。自治体の取り組む公益性のある事業に対しての寄付となるため、CSR的な位置づけや地元への貢献というアピールもできます。また、SDGsの文脈にも沿ったアクションとして建付けることもでき、企業ブランディングに繋げることが可能です。

そして3つ目のメリットは自治体とのリレーション強化に繋がるという点です。寄附先の自治体とは、当該寄附実施までのプロセスや、その後の寄附対象事業の稼働後に至るまで継続的なコミュニケーションが続きます。これ迄の自治体との接点チャネルとは異なる新しい接点チャネルを創出することが可能でしょう。

そしてこのようにリレーションを深めていった先には、その地域の社会課題解決のために当該自治体と連携した具体的な事業が生まれる可能性もあるはずです。

岐阜県飛騨市の先進事例

実際にどのような事業にこの仕組みが利用されているのか見てみましょう。例えば岐阜県飛騨市の場合、この制度を活用し、「飛騨神岡宇宙最先端化学パーク」という事業を実施し、総事業費2億9646万円のうち、約半分の1億4860万円を企業からの寄附で調達しました。


展示施設の竣工時には、寄附を行った企業関係者が式典に招かれ、メディアにも大きく取り上げられました。それらの企業は飛騨市の応援企業・サポーター企業として市民からも認知され、その後、自治体だけではなく、市民とも連携した取り組みや事業が大小問わず生まれています。

この企業版ふるさと納税には、今回ご紹介したような金銭の寄付ではなく、人材派遣型というスタイルもあります。

こちらについては次回、解説させて頂きたいと思います。

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