フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「オープンイノベーションにおける異企業間の合意形成とチームビルディング戦略」です。
質問者:
事務用品業界 Cさん
相談の背景や理由:
事務用品業界で新規事業担当として、異業種の他2社と共同でオープンイノベーション型の新規事業プロジェクトに取り組んでいます。プロジェクトは各社から3名ずつ、合計9名で進めており、費用も折半しています。しかし、企業文化や社内事情の違いからチームビルディングに難航しています。私は一つの目標に向けて全員の合意を形成しながら前に進めていきたいと考えていますが、なかなかうまくいきません。異企業間の協業を促進する実践的なアドバイスをいただけると幸いです。
角:本日のご相談は事務用品業界Cさんから「オープンイノベーションにおける異企業間の合意形成とチームビルディング戦略」についてです。まずは村上さん、いかがでしょうか?
村上:むしろこれはオープンイノベーション専門家の角さんに聞きたいですよね。
角:そうですね…。オープンイノベーション専門家としてのプロファイリングをさせていただくと、質問でまず気になったのは、各社から3名ずつ合計9名でチームビルディングに難航しているという状況における、根本的なコミュニケーションのあり方です。
これはよくあることなのですが、参加者が集まったものの、活動時間が各社の都合でバラバラになっている可能性があります。たとえば、人材育成目的で見ている会社は「業務時間外」の活動を奨励している一方で、事業目的で見ている会社は「業務外は認めない」としている、といった具合に、まず活動時間の認識にズレが生じている可能性があります。
また、情報共有のツールも気になります。チームがSlackを使っているのか、Zoomが主なのか、といった使用ツールの違いも、円滑なコミュニケーションを妨げる要因になり得ます。そして、直接会う頻度がどれくらいあるのかも重要です。リモートばかりだと、特に最初のチームビルディングは難航しがちです。なので、チームビルディングに難航している具体的な理由をもう少し詳しく知りたいというのが、私のプロファイリングからの最初の見立てですね。
村上:そうですね。まず、「1つの目標に向けて、全員の合意を形成しながら前に進めていきたいと考えてますが」というところが、おそらく合意できていないのでしょうね。だとすれば、参加者それぞれの熱量の差があるんじゃないかと読み取りました。「やれと言われたから来たけど、適当にやっていればいいか」と考えている人と、「熱意を持って何かを生み出そう」としている人。そして、「1つの目標が必要だと思っている人が全員ではない」というところに、課題があるなと読み解きました。
なので、このプロジェクトがどういう背景で生まれたのかというところをちょっと紐解いた方がいいと思うんですよね。オープンイノベーションで異業種から集まり、「掛け算で新しいものを生み出そうぜ」という良い話なので、おそらく各社の役員は盛り上がったんだと思いますが、その熱意の落とし込みが現場レベルでうまくいっていないように見えますね。
角:たしかに、この3社で3名ずつ出し合う時点で、かなり上の層の人たちが合意してる雰囲気ありますもんね。ボトムアップではこうはいかない気がします。
村上:これは多分ボトムアップではできないと思うので、何らかの上のセットアップのもとで始まっていると想像すると、自社の担当の上役に、もう一度確認しに行った方がいいでしょうね。「ぶっちゃけ、今こういう状況なんですけど、本来、会社として何を期待していたんですか?」というところを、確認できるなら確認すべきです。
そして、現場としてできることは、単純にもっと仲良くなることだと思います。この文章からは、チームが上手くいっているようには思えないですよね。例えば、WeWorkでも何でもいいですが、物理的に一箇所に集まって、みんなで一緒に働くというセットアップをするとか、もういっそ、みんなで踊ったりすればいいんじゃないですかね。なんか、チームビルディングで、フラフープをみんなで回すようなアクティビティとかあるじゃないですか。そういうので親睦を深めるのも手だと思います。
角:楽天大学の仲山さんが得意なやつですね。
村上:そうそう。あれのいいところは、要は言葉がいらないんですよね。言葉だけでアラインしようとすると、みんなが色々な意見を言い始めて、実は難易度が高いんですよ。それよりも、ノンバーバル(非言語)なコミュニケーションの方が共感が高まりやすいんです。一番簡単なのは、みんなで踊るとか、みんなで太鼓を叩くとかですね。僕は太鼓の人なので(笑)、ドラムサークルというやり方もあるんですが、阿吽の呼吸を取りながらリズムを作ったり、合唱をしたりするようなものは、共感力が強制的に高まるんです。この辺りを詳しく知りたければ、『共感革命: 社交する人類の進化と未来』という本がおすすめです。日本の代表的な霊長類学者の山極(やまぎわ)先生が書かれた本で、言葉よりも先に共感がある、という話がとても面白いです。
角:なるほど、すごく面白いですね。最近、ロビン・ダンバーの『宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』を読んだんですけど、こちらの書籍でも、「身体的なアクティビティをすることによって周りの共感が高まってチームの一体感が増す」って書いてありましたね。
村上:「認知革命というのは、言葉が生まれたことによって起きて、それによって文明が発展し、大都市化が進んだ」という話があるじゃないですか。しかし、山極先生が言っているのは、その前に共感革命があったということです。なぜかというと、人間の脳の大きさって、言葉によって増えていないんですよ。それよりも前に、脳の大きさはオラウータンの頃からずっと一定の大きさで来ていて、ネアンデルタール人でもホモサピエンスでも、脳の大きさはあまり変わっていない。つまり、言葉によって脳の容量が大きくなったのではない、という話をしていて、なるほどな、と思いました。
角:なるほど、面白いですね。面白くてちょっと話がズレちゃいましたかね。
蛯原:そんなにズレてないんじゃないですか?結構、本質的な素晴らしいところにたどり着いている気がします。
共感力アップのソリューションは素晴らしいですが、別の観点も見てみましょう。「企業文化や社内事情の違いから難航している」のであれば、文化はすぐに変えられないため、社内事情に焦点を当てます。このプロジェクトを決めた上層部に戻り、「そもそも何を期待していたのか?」という目的を再確認し、制度の変更などで折り合いをつける必要があります。例えば、人事研修目的の人と、ガチで事業成功を目指す人では熱量が全く違います。この目的のズレを解消するためにも、上層部への確認は必要です。
そしてもう一点、仮にガチで新規事業を成功させたいのであれば、「1つの目標に向けて全員の合意を形成する」というアプローチがベストなのか、というのも問いかけたいです。新規事業には強いリーダーシップが不可欠で、リーダーが決めたことにフォロワーが役割を果たす形で進むものです。そもそも全員の合意は本当に必要ですか?というところですね。
角:おっしゃる通りですね。この合意形成についてですが、みんなで話し合って全部決めようとなるのはあまり良くないと思うんですよね。みんなそれが良いと思っちゃってるけど、よく考えてくださいと。話し合いというのは、妥協点を探るために時間と労力を消費するということなんです。それを消費するだけの価値があるようなことを、今やっていますか、ということも問われてしまいます。もうね、誰かが率先してリードして、「これでやろう」と一度決めてしまうのも大事かもしれないし、それにうまくフォローしていくのも大事かもしれません。
そして、人材の育成という意味においては、全く異なる文化や目的意識の人たちが、どこかでそれを決めていかなくてはいけない、その経験を積むということ自体に、ある種の価値があると思うんです。ここでCさんがやってらっしゃる活動が、どこに価値を見出すのかということを、ご自身や参加者みんなが意識していく、というのも一つ大事なことかなと思います。もちろん、このプロジェクトのゴーサインを出した上の人の目的意識を知りながら、自分たちでもやっぱり目的意識を強く持っていく。そして、そのプロセスの中で腹を割る。腹を割るにはどうしたらいいか? そこでドラムを叩くなんてこともやりながら、仲良くなっていっていただけたらどうかなという風に思いました。事務用品業界のCさん、参考にしていただければと思います。
回答のまとめ
1,「目的の再確認」と「期待値のすり合わせ」から始める:
・上層部が定義した目的を改めて確認する
・参加者の熱量・関与目的が異なる(人材育成目的/事業創出目的など)ことがチームの停滞を招いている可能性が高いため、上役に「本来このプロジェクトは何を期待して始まったのか?」を直接確認して、条件・目的・成果指標を言語化して進める
2,活動設計(時間・ツール・コミュニケーション)のズレを正す:
・活動時間の扱いが会社によって「業務時間内/外」で異なると、参加姿勢やコミット度に格差が生まれるため、まずは共通ルールを明確化する
・チームビルディングがオンライン主体だと関係構築が進みにくいため、初期段階で物理的に集まる機会をつくることが効果的
3,合意形成は「全員一致」をゴールにせず、共感醸成+リーダーシップで進める:
・オープンイノベーションでは全員の完全合意を目指すと時間だけが溶けるため、主体的に“方向性を決めるリーダー”が必要
・合意形成が難しいときは、まずはノンバーバルなアクティビティ(ドラムサークル、身体を使うワーク、合奏など)で共感基盤をつくる
・異文化・異目的のメンバー同士が「どこで価値を生むプロジェクトなのか」を共有し、自分たちなりの意味づけを再設定することで自発的な推進力を生み出す
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
