フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』をダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「電子部品以外の分野での新規事業展開について」です。
質問者:
電子部品業界 Aさん
相談の背景や理由:
当社は主にアジア地域で電子部品の商社として活動しており、現在の利益の大部分はこの事業からのものです。しかし、市場の変化や多様化するニーズに対応し、事業のリスク分散を図るために、今後は「電子部品以外」の分野で新規事業を開発し利益を上げることが求められています。特に、当社が持つリソースやネットワークを活かせる分野での事業展開を考えていますが、どの分野が最も適しているか模索中です。まずは初期段階の市場調査や立ち上げに向けた具体的なステップについてアドバイスやヒントをいただけると幸いです。
角:本日のご相談は電子部品業界 Aさんから「電子部品以外の分野での新規事業展開について」というご相談です。まずは蛯原さんいかがでしょう?
蛯原:「アジア地域に強い」と書かれているので、アジア地域に強い私からお話したほうが良さそうですね。電子部品商社としての新規事業構築について、どの分野が適しているかという問いに対しては、まずは自社のリソースやネットワークを整理したマトリックスを作成し、そこに「アジア地域で今後10年、20年と成長する分野」を掛け合わせるのが一般的な手法です。
問題はここからです。たとえば、現在は手がけていない素材や半導体といった新領域への進出を検討する場合、具体的なターゲットを特定する必要があります。バッテリーのセパレーターやパッケージング技術など、注目すべき分野において、インド、シンガポール、インドネシアなどの各国にどのようなスタートアップが存在し、どのような強みを持っているのかを具体的に探らなければなりません。こうしたソーシング(発掘)のプロセスにおいて、日本国内ならまだしも、海外のスタートアップへ独自にアクセスするのは困難です。そのため、現地に根を張っているベンチャーキャピタル(VC)を活用し、専門家の知見を借りるのが、現実的かつ一般的な手段の一つと言えるでしょう。
角:VCを活用するというのは、たとえば、「こういうところを探しているので、こういうことをやってくれませんか?」みたいなお願いをVCにするということですか?
蛯原:1番シンプルで直接的かつ具体的なのはソーシング代行ですね。たとえば、EVであったり半導体であったりという分野に強いVCに対して、たとえばインドネシアのそういったVCに「インドネシアで◯◯の分野を探しているので、ソーシングをお願いしたいです、そういった情報にアクセスしたいです」といった感じですね。
角:なるほど。今おっしゃっているソーシングと言うのは、情報の収集みたいなことですか?
蛯原:情報というよりは、具体的にパートナー候補とか、場合によっては買収も含めた出資先や提携先のスタートアップのソーシングですね。
角:だいぶ踏み込んだソーシングなんですね。
蛯原:ご質問にストレートにお答えするならば、初期の市場調査から立ち上げに向けた具体的なステップを検討することになります。まず、自社の強みと弱みを整理したマトリックスやSWOT分析を作成します。その上で、現地で事業展開を目指す各地域において優勢な分野と、自社のリソースを掛け合わせる作業を行います。もちろんこれらを着実に進めた後、次のステップへと移行していくことになります。
角:さすがアジアに強くて、実際にやってらっしゃるからアドバイスが具体的ですね。なるほどなと思いました。ありがとうございます。続いて、村上さんはいかがでしょうか?
村上:市場の変化や多様化するニーズというお話をされていて、ここを具体的に踏み込んで考えるっていうのをまずされているんだと思うんですけど、実際にどのような市場の変化を感じて新規事業が必要だと考えているのか、あるいはニーズのシフトや多様化をどう捉えているのかを、しっかりと言語化する必要があります。
アジア地域に強いネットワークや顧客基盤という強みがあるのは分かりますが、もし市場の変化の本質が「電子部品分野での競合過多」や「市場の成熟による利益率の低下」にあるのであれば、市場そのものを広げる、あるいは変えるという選択肢が出てきます。たとえば、アジアではなく中東やアフリカへ進出するといった案ですね。直面している脅威や市場の変化が何であるかによって、次に取るべきステップは変わります。まずは自分たちの現在の強みや資産、そして具体的にどのような脅威が迫っているのかを精査すべきです。その上で、アジア地域内で軸をずらせばまだ大きなチャンスがあると判断するなら、具体的なソーシングやパートナー開拓を進めることになります。
一方で、もしアジアでのオペレーション構築という「やり方のフレームワーク」自体が強みであるなら、それを他の地域へ展開する道もあります。その場合は、電子部品という扱うものは同じでも、現地のリーダー採用や取引先開拓など、全く異なるネットワーク構築のステップが必要になります。
角:なるほど。
村上:それによってストラテジーが全然変わってきますね。
角:そう言われると、なるほどなって思いました。電子部品業界のAさんの相談の中に「電子部品以外の分野で新規事業を開発し、利益を上げることが求められている」とありますよね。ここから推察されるのは、この方は電子部品商社に身を置きながらも、あえて「電子部品を取り扱わない部門」での新規事業を任されている立場ではないかということです。もし「電子部品以外の領域で成果を出せ」というオーダーが上層部から下されているのだとしたら、自社が持つ既存のアセットのうち、今の事業で活用が制限されていたり、NGとされていたりする部分が結構ありそうだなという印象がありますね。
村上:だとすると、地域は今のままで行きましょうってことですよね。なので、このアジア圏メインでやっているところで、電子部品のところはどなたかが他国への展開とか色々考えてらっしゃるんだとすると、やっぱり今の商社としての強みは何なのか?提案力なのか、部品のSKU*の多さなのかとか色々多分あると思います。
*SKU
ストックキーピングユニット(Stock Keeping Unit)。在庫管理上の最小の品目数を数える単位。
あとは、取引先がいいとかいうのもあるじゃないですか。そうすると、取引先のTOP50をどんどん分析していって、取引額からどこにヒットしているのか、その人たちが他に何を求めてるのかっていうところがニーズですよね。なので多分、取引先企業分析をひたすらやるっていうことになるんじゃないですかね。
角:多分そうですよね。アジアでたくさんのお客さんがいて、そのお客さんに色々聞けるっていうこと自体が財産の1つなのかなっていう気がしますよね。
村上:アジアですと、製造しているところも財閥系も多く、いわゆるコングロマリット系の一部みたいなところも多いです。多分、グループや取引先を見てみると、色々されていると思うんですよ。だとすると、その会社が今どこを伸ばそうとしてるのかっていうのをしっかり捉えることによって、そこに提案の余地が生まれます。だとしたら、商社としてネットワークのココとココを繋げてこういう提案ができるんじゃないかみたいなことを考える。で、実際に「これどうですか。興味ありますか」って会いに行けるわけですから、そこから「こういうの欲しいんだよ」っていうのが出てきたら、そこから始めるという手もあるわけです。
角:なるほどですね。やっぱり財閥系の会社だと決断が早かったり、良いものだったらすぐ買ってくれるみたいなところもあるんですかね。
蛯原:それは結構ありますね。オーナー経営者の中には若い方も結構いらっしゃいます。なので比較的そういうことはあるでしょう。ただ、質問を読み解くと、新事業というよりは新しい取り扱い分野みたいなことなのかな。財閥A社の中の中核企業であるX社のY部門の横にあるZ部門に対して、今まで取り扱っていた電子部品ではない別の素材のものもどうかと提案をするっての、ちょっとこれどうですかっていう提案をするみたいな。
角:すでにアクセス先との会社単位での信頼関係は構築されているので、買ってもらう時のハードルってすごく低くなってる状態なんじゃないかなと思いますよね。
蛯原:なので初期段階としては、市場調査や立ち上げに向けた具体的なステップを踏む必要があります。分析などを行うと同時に、その筋の専門家や現場のミクロな動向に精通した外部パートナーといかに連携できるかということだと思います。
角:顧客インタビューとかも多分すごくやりやすいと思います。ですので、一般的な新規事業の立ち上げ方として、まず、お客さんのことをよく知る。そしてそこから、インタビューなどでニーズを把握して、その解決に向けて提案をしていくっていうことになるかと思います。是非、ご自身の会社の財産であるお客さんとの関係性や信頼といった部分をベースにして考えていただけるといいのではないかなと思います。ということで、電子部品業界Aさん、参考にしていただければと思います。
回答のまとめ
1,新分野開拓は「自社の強み × 成長市場」の掛け合わせで考える:
・自社のリソース・ネットワークを整理し、成長分野とマトリックスで整理することが出発点
・アジアなど既存の強みがある地域で、今後伸びる領域を重ねることで勝ち筋が見えやすくなる
・分野選定後は、具体的な企業・技術・パートナー候補まで落とし込む必要がある
2,市場の変化を言語化しないと戦略は決まらない:
・「なぜ新規事業が必要か」という市場変化の本質を明確にすることが重要
・既存市場の成熟なのか、競争激化なのかで打ち手は大きく変わる
・地域を広げるのか、領域を広げるのかなど戦略の方向性はここで決まる
3,既存顧客ネットワークを起点にニーズを掘り起こす:
・既存の取引先は最も価値の高い情報源であり、新規事業の出発点になる
・顧客企業の事業戦略や新規投資領域を分析することで機会が見える
・インタビューや提案を通じて「次に欲しいもの」を引き出すことが初期ステップになる
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
