フィラメント公式YouTubeチャンネルでは毎週水曜日に『新規事業お悩み相談室』を配信しています。この番組では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「新規事業創出に向けた人事戦略の見直しと社員の意識改革について」です。
質問者:
損害保険業界・Aさん
相談の背景や理由:
保険会社の人事戦略を担当しています。経営戦略の一環として、新しい事業をどんどん生み出すことを見据えた人事戦略を策定中です。従来の保険業界は安定志向が強く、新しいアイデアの創出に積極的ではありませんでした。現在、外部交流や社員のスキルアップ施策を進めていますが、短期的な成果は難しく、更に施策の幅を広げる必要があります。特に、社員の意識改革が課題です。社員は業務に関する話題には強いが、それ以外に関心が薄く、柔軟な発想が欠けています。新たなアイデアを生み出す具体的な施策についてアドバイスをいただければ幸いです。
角:本日のご質問は損害保険業界のAさんからですね。「新規事業創出に向けた人事戦略の見直しと社員の意識改革」についてです。この辺の話はやっぱり村上さんが強いかな。村上さん、いかがでしょうか?
村上:保険業界とか特定の専門性がある分野に特有だと思うんですが、オープンイノベーションと言った場合に、まずそのオープンイノベーションに関する外との付き合いがないんですよね。たとえば、損保業界ってぶっちゃけなんでも保険が作れるんですよね。最近、PayPayが熱中症保険やコロナ保険といった掛け捨ての保険をやってますけど、損保さんってこういったものをすぐ組み立てられるんですね。単純に、リスクとのバランス計算をして、どんなリスクに対しても保険商品が作れるのが損保のいいところでもあります。「猫の足に1億円の保険をかけました」みたいな話があるじゃないですか。
角:ありますね。
村上:そんなことできるんだって思うんですけど、できるんですよね。こういうのって普通のビジネスをやっているだけだと知らないですよね。なので、まずは自分たちは何ができるのかっていうのを噛み砕いて外に発信するだけでも、「そういうことができるんだったら、一緒にこんなことできませんか」みたいなお話があったりすると思うんです。マネタイズの機会としては非常にわかりやすいわけですから。
保険というのは赤字にならないように設計して販売しているわけだから、基本的にあんま赤字にならないわけですよ。どれだけ加入してもらえるかは別の話として、商品自体は基本的にはマネタイズできることが保証されているのであれば、ひょっとすると既存のビジネスにそれを足すとすぐにマネタイズできるかもってなったならば周りの人たちは真剣に考えますよね。なので、自分たちで柔軟性を持たせることは引き続きされたらいいと思うんですが、「どういうものが保険になって」「こういう業種とこんなことをやったことがありますよ」ということをを発信するだけでも、逆に外からいろんなアイデアが降ってくるんじゃないかと思います。
角:なるほど。それ面白いですね。
村上: たとえばそのカンファレンスイベントを開催しようとして台風で中止になった場合、そのカンファレンスの参加費の一部から100円の掛け捨て保険を作っておけばリカバリできるわけじゃないですか。そういった相談って全然来ていないと思うんですよ。
角: リスクがあるものだったらなんでも保険になるってことですよね。
村上:基本的になるはずです。それは損保業界であれば当たり前だと思うんですよね。
もしくはそういう視点でいろんなものを見て、最近だと天気、ちょっと前だとコロナで中止になっちゃうイベントとか、そういったリスクをカバーできますよというのを、ひたすら社員さんがあらゆる業界のイベントに営業するだけでも意味があると思います。そういった交流から始めるといいんじゃないかなと思いました。
角:面白いですね。たとえば日経新聞だったら、ビジネス系のイベントが山ほど載っていますし、「これ保険になるか」みたいなディスカッションから始めたらネタが出てきそうです。お悩みの中で、興味の幅が狭いみたいな感じのことをおっしゃっていましたけど、そういうことを色々ディスカッションしていたら興味の幅が広がっていくかもしれませんね。
蛯原さんはいかがでしょうか?
蛯原:私の方からは根本的なお話をしますね。「新しい事業をどんどん生み出すことを見据えた事業戦略、人事戦略」とのことですが、基本的に新しい事業をどんどん生み出すっていうのは保険会社さんに関係なくどの会社でもものすごく大変なことなんですよ。どんどん事業を生み出して、かつ、ちょいちょい成功するっていう会社はほぼないわけなので、そもそも相当難易度が高いというのがまず一点。もっと言うと、そういう状況を作り出すのは人事戦略だけではなくて、会社のあり方そのものというかDNAそのもの、創業者の資質や考え方ってことです。なので、相当難易度の高いことをまず考えておられるというところです。
次に、とはいえ先程の話だけだと始まらないんで、まずは「そういうことやっている会社はどこなのか」を考えて、そこは何やってるかをリサーチしてみる。たとえば日本の会社だったらリクルートさんとかサイバーエージェントさんが何をやってるのかを調べて、ちょっとでも真似できそうなところを見つけて型にしていく。
一方で、それはそれでやってはみるんだけどちょっと時間もかかりますよねということであれば、とりあえずすぐにできることとしては「スタートアップと連携する」「そこに出向する」ですね。結局、外部との交流をしていてもいまいちと感じる理由は、多分当事者意識があんまり醸成されてないからです。だとするならば、スタートアップに出向して、そこの名刺を持って常駐してちゃんとやればそれなりにはなるでしょう。あるいは、我々もよくあるんですけど、ベンチャーキャピタルに対してIP出資をして、VCに対して出向する。そういうこともご検討されたらいかがでしょうか。
角:なるほど。スタートアップに出向するパターンですと、今はそれを斡旋してくれる会社もあったりしますよね。スタートアップに出向すると、スタートアップ側にとってなかなかワークしないパターンと、ワークした場合にスタートアップに転職しちゃうパターンの両方を聞いたりしますが、そういうのって結構あるものなんですかね?
蛯原:あることはあると思うんですけど。でも、そういうこともあってもいいんじゃないですかね。それはそれで組織の活性化にも間接的に繋がるような気がしますし、その辺はあんまり気にしないで、バンバンやっていくと。
角:さきほどのスタートアップ出向は人事戦略として結構覚悟がいるみたいな話はたまに聞きますが、 ベンチャーキャピタルへの出向は「そのままベンチャーキャピタルに転職しました」ってあんまり聞かない気がするんですけど、その辺はどうなんですか?
蛯原:結構多いですけどね。あと、これは色々議論ありますけれども、1対1のベンチャーキャピタルって最近すごい流行ってるんですよね。CVC*代行みたいな感じで、プロのベンチャーキャピタル専門会社がGP*になります。で、ナントカ製作所なり、ナントカ商社さんでもいいんですけど、1対1でやるとお金は大企業さんの方が出しますっていう場合なんかは、出向も何も、もうほぼジョイントベンチャーみたいな形でそれぞれ人を出して…といったやり方もありますよ。
*CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)
CVCとは事業会社がベンチャー企業と相乗効果を生み出すことを目的に行う出資です。 一方、「ベンチャーキャピタル(Venture Capital)」の略語であるVCは、機関投資家や個人投資家、事業会社が資金を出し合ってファンドの組成、およびキャピタルゲインを得ることを目的としています。
https://hybrid-technologies.co.jp/blog/knowhow/20220804_02/
*GP(General Partner)
GP(General Partner)とは無限責任組合員のことで、ファンドの運営に責任を負う組合員のことである。
ファンド運営の対価として、組合から管理報酬と成功報酬を受領する。ファンドの出資約束金額の総額に対して1%以上の出資を行うことが一般的である。
個人がGPとなる場合もあるが、無限責任を回避するために株式会社や合同会社をGPとすることが多い。近年は、LLPをGPとするスキームも増加傾向にある。
https://hybrid-technologies.co.jp/blog/knowhow/20220804_02/
角:そのやり方だと、基本的にベンチャーキャピタル側としては、CVCの運営代行みたいなこともやりながら、向こうから出向されてきた方の結果的には人材育成のサポートみたいなことにも資するような動き方をするみたいな感じですかね?
蛯原:そうですね。VCってやっぱりお作法があるので、基本的に許認可はいらないんですけど、申請だったり当局に出さなきゃいけないことがあったり、いろんなファンドレイズにも作法があったりします。あとは、ファンドマネジメント自体は非常にプロフェッショナルなものですから、そこはプロに任せると。ただ、「どういう技術や事業を探しているか」「既存の本流のビジネスとどうシナジーをつけます」みたいなことは会社ができるということで二人三脚でやっていく。その中で、自分たちでちゃんとCVCができるようになったら、2号目、3号目からは自分たちだけでやるとか、そういうやり方は結構やってますよね。
角:ありがとうございます。色々なアドバイス出ましたね。お二人が仰っていたアドバイスをまとめると、仕事の中でどうやって目先を変えていくのかというところを大事にすると視野が広がっていくっていうことがあるのかなと思いました。
あとはやっぱり、人事戦略だけでは難しいというところもたしかにその通りだなと思いましたね。たとえば、他社(リクルートやサイバーエージェントなど)を参考にしようとしたときにそもそも人事の採用戦略が違うと思うんですよね。採用したあとにどうするといった話ではなくて、自分たちの本業の中で新規事業を作り続けていくという部分がかなりウエイトを占めていて、それが会社全体としても認知されている。そして社会的にも認知されているので、採用戦略の一部に新規事業を作っていける人材の獲得がある。だからこそ、その組織の新しいものを作り出していくというDNAは常に強化され続けているし、機能しているということだと思うんですよね。そういった土台(新規事業が自分たちの会社のDNAとなっていること)が存在していないというビハインドを人材育成の部分だけで カバーしていくのは、多分難しいとは思います。
だからこそ、「仕事の中で新規事業をどうやって位置付けて、新規事業にどのような目を向けていくのか?」「アクションを習慣化させるためにどうしていくのか?」っていうことが、多分質問者であるAさんの考えていかれることの中心になるんじゃないかなと感じました。だとすると、たとえば、仕事の中あるいは仕事の関わりの中で新規事業に目を向けていく機会をどうやって増やすをまずは考えていかれるといいと思います。
フィラメント的におすすめなのは、社内ビジコンをやっていくとか、体系的に外部との接触機会を増やすような研修を作っていくことですね。フィラメントではそういうこともやっているので、ご興味あればですね、是非またコンタクトいただければなと思います。
ということでですね、損害保険業界のAさん、ぜひ参考にしていただければと思います。
回答のまとめ
1,損害保険会社の強みと新規事業創出の可能性:
・損害保険会社は、あらゆるリスクに対して保険商品を作ることができる
・自社の強みや提供できる価値を外部に発信することで、新たなアイデアや協業の機会が生まれる可能性がある
・様々な業界のイベントに営業し、リスクをカバーできる保険商品を提案することで、新規事業のヒントが得られる可能性がある
2,新規事業創出の難しさと外部との連携の重要性:
・どの会社でも新規事業を次々に生み出すことは非常に難しく、会社のDNAや創業者の考え方に依存する部分が大きい
・新規事業に積極的に取り組んでいる他社の事例を研究し、参考にできる部分を取り入れていくことが重要
・スタートアップへの出向やベンチャーキャピタルとの連携を通じて、新規事業創出のノウハウを学ぶ
3,人事戦略だけでは不十分な新規事業創出への取り組み:
・新規事業創出を促進するには、人事戦略だけでなく、会社全体の方針や風土づくりが必要
・仕事の中で新規事業に目を向ける機会を増やすことが重要であり、社内ビジネスコンテストや外部との接触機会を増やす研修などが有効
・新規事業創出に積極的な人材を採用し、組織のDNAを強化していくことも長期的な視点で必要
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
本記事では要約をお伝えしましたが、テキスト化できなかった部分もありますので、回答のフルバージョンをぜひ動画でご覧ください。
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