フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「“失敗して当たり前”のはずが…新規事業チームの立ち直り方が分かりません」です。
質問者:
流通業界 Dさん
相談の背景や理由:
新規事業部門に異動して2年目。物流プラットフォームの開発に1年取り組みましたが、実証実験で大きな課題が見つかり、プロジェクトは見直しに。予算も使い切り、経営陣の頼も揺らいでいます。「新規事業は失敗して当たり前」と頭では分かっていても、実際に失敗を経験すると立ち直るのは難しいです。今、チーム全体(私自身も)が萎縮してアイデアも出しづらくなり、判断も遅れがちです。このままでは本当の意味での失敗になってしまうのではと危機感があります。どうすれば前向きなマインドを取り戻せるでしょうか。
角:本日の相談員は村上さん、田中さん、そして角でお送りいたします。今回のご相談は流通業界Dさんから、「“失敗して当たり前”のはずが…新規事業チームの立ち直り方が分かりません」についてです。流通業界、物流プラットフォームとのことなので、物流のスペシャリストでもある田中さんからご意見頂戴できたらと思います。
田中:ちょうど「2024年問題」とかがあったので、昨年チャレンジしてあんまりうまくいかなかったっていうタイミングなのかなと想像しながらお聞きしました。失敗して、そこから立ち直るというところの難しさなんですけども、もしかしてこういう原因あるかなと考えまして、それは、このチームや部門のゴールの立て方がどういう風になってるのかなというところです。新規事業では、年間売上などアウトプットに対するゴールが設定されるのが一般的です。これは重要ですが、新規事業はそもそも成功確率が低く、失敗して当然とも言えます。成功だけをゴールにすると、失敗した時に非常に辛くなってしまいます。
たとえば、成功確率を上げて努力してもアイデアが失敗した場合、さらに確率の低いアイデアには挑戦しづらくなります。こうした状況を避けるためにも、会社としては、事業アイデアの承認プロセスを設け、年間で何件以上のアイデア検証を行う、といった行動自体をゴールにして評価する仕組みが必要です。成功・失敗に関わらず挑戦し続けることが大切であり、それを会社としても保証する仕組みが重要だと思います。
角:成果指標を売上などの最終的な数字ではなく、「いくつ仮説を検証したか」や「どのような学びや結果が得られたか」といったプロセスに置き換えるべきということですよね。最終的に儲かるまでには多くの検証が必要であり、その進捗や学びの蓄積こそが自分たちの役割であって、アウトプットやKPIを別のものに置き換えてみるというアプローチが必要ということでしょうかね。
田中:そうですね。新規事業は会社に新たな売上や利益をもたらすために行われますが、狙って成功させることは非常に困難です。しかし、完全な運任せでもなく、一定のロジックや事前検証が可能です。そのため、会社としては学びを得られる状態で継続的に投資することが、新規事業創出のための重要な指標となります。失敗による萎縮は個人やチームとして理解できますが、会社や経営層としては萎縮が続くと新規事業は生まれません。そのため、挑戦が止まらない仕組みづくりや、上司による積極的なモチベーション向上の働きかけが非常に重要になります。
角:学びを自分やチーム内で整理し、次に活かせるようなマインドが重要だと思いますよね。以前聞いた話を少し紹介させてください。あるテレビ局の方と話した際、アニメ制作で大きな失敗をし、会社に相当な損失をもたらしたというお話をしていただきました。しかし、その失敗によって成功するアニメの要素やフォーマットを深く理解できたとのことで、その後は、アニメ制作において「基本的に全部当てている」と話されていました。このように、失敗の原因から学びを抽出し、次に生かしていく発想の転換があると、状況が大きく変わることがあります。今の田中さんのお話を聞いて、その方の経験談を思い出しました。村上さんもそういった方をたくさんご覧になってると思いますが、いかがでしょうか?
村上:私もいろんな新規事業を大量に失敗してきた経験がありますが、まずですね、「失敗は自分で認めるまで失敗ではございません」。なので、失敗と言うのはまだ早いかなと思います。当事者はいつまでも、「いや、いけるんです!ここはうまくいってます!ここを見てください!」と言い続けるのがまず大事です。
角:なるほど。
村上:その上で、上層部から「これは求めていたものと違うから、悪いけど一旦仕切り直しする」「チームを解散しよう」と言われたとしても、「わかりました。ただ、これは失敗とは思っていません。良い学びがありましたし、次に生かします」と言い続けることがチームリーダーとして重要という大前提があります。
田中さんが指摘されたように、経営者側も全てが成功するわけではないことを理解しています。難しいことも承知の上で、未来のためには挑戦が必要だと考えています。だからこそ、良いアイデアを持つ人に任せて「やってみよう」というスタートだったはずです。Dさんのこの相談を見て気になるのは、「萎縮するがゆえに判断が遅れがち」と書かれている点なんですが、状況が悪化すればするほど、報告(ホウレンソウ)は細かくなりがちです。要は、「うまくいってるうちは自由にやってね」なんですけど、やばくなればなるほど状況が気になってくるじゃないですか。「良いところも悪いところも聞いておきたいな」となってくるので、これに対してはもっとハンズオンになってかなくちゃいけないタイミングなんですよね。そういう意味だと、より早く動いてより早く判断をするというフェーズに差し掛かってますので、これはちょっと危ないなと思います。
会社にとって新規事業とは「いかにコントロールできるリスクを取り続けるか」という問題です。投資できる余力の範囲内で、全てを失っても会社が潰れない程度のリスクを取っているわけです。経営者視点では、コントロール可能なリスクであるべきですが、実際にやってみたらリスクが予想以上に大きくなり、本業の収益にまで影響が出るということなら問題になりますよね。このフレームワークを理解した上で、個別のプロジェクトが失敗しても、「こういう学びがあった」といった知見をしっかり残すことが重要です。会社の業績悪化で一時的に新規事業が中止になることもありますが、確かな学びを会社に残しておけば、次の機会に「あの人はきちんと学びを残してくれたから、また任せてみよう」と思われます。なぜなら、一度失敗した経験のある人の方が成功確率が高いからです。
単体のプロジェクトだけに一喜一憂するのは担当者として自然な気持ちですが、より広い視点で会社のために何を残せるかを考え、「転んでもただでは起きない」というマインドで取り組むことが大切だと思います。
角:シリコンバレーの起業家とかだと1回失敗して会社潰しちゃった人の方が、次は投資を得やすいみたいな話を聞いたことありますね。
村上:そうですね。やっぱり撤退戦ってきついので、それをCEOとしてやりきった人にはすごい学びが残ってるわけです。次に挑戦する際には「明らかにまずかった点」が既に分かっているので、それを避けることができます。たとえば「この採用方法は効果がなかった」「このお金の使い方は非効率だった」「このマーケティング費用は使わない方がいい」といった具体的な教訓が得られているはずです。一度経験を積んだ人は、次の挑戦ではベースのレベルが上がっているので、より高度な「不確実性との戦い」に挑むことができるようになり、自然と成功確率が向上します。
角:1回目失敗したら、同じ失敗はしませんよね。痛かったことって絶対覚えてますもんね。うまくいかなくなった時って、人間ってやたらと内省するなって僕自身も思うんですよ。こういった時に内省する能力がすごい高まる気がしていて。内省ってくよくよ考えるみたいなことなんですけど、「なんで失敗したのか?あの時のあれが良くなかったんじゃないか?次やるんだったらどうすればいいか?」といったことをじっくり考えるということでもありますよね。もちろん、そのためには、会社に対しての信頼感をさらに高めていくことも重要です。ということで、相談者のDさん、ご自身の失敗をですね、より強く立ち上がるために生かしていただければなと思います。
回答のまとめ
1,新規事業の失敗からの立ち直り方と評価視点の転換:
・成功・失敗の判断基準を最終アウトプットから「学びの獲得」「仮説検証数」に転換する
・失敗と認めるのではなく「良い学びがあった」と前向きに解釈する姿勢を持つ
・失敗経験は次の挑戦での成功確率を高める貴重な資産として位置づける
・チームとして得られた知見を会社全体の財産として残す工夫をする
2,新規事業チームの萎縮を防ぐ組織的アプローチ:
・行動自体に対する評価の仕組みを設け、挑戦し続ける文化を醸成する
・失敗後こそ判断スピードを上げ、次のアクションへ素早く移行する
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
