フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「新規事業担当になったのでたくさんのアイデア出しが必要」です。
質問者:
不動産業界 Cさん
相談の背景や理由:
新規事業における「多産多死」の原則に基づき、とにかくアイデアの「数」をたくさん出すことが不可欠だと理解しています。しかしながら、これまで営業畑が長く「0→1」の業務には携わってこなかったため、ゼロからアイデアを考えることに時間がかかってしまい、なかなか難しいと感じています。この難題を克服するために、アイデア生成のプロセスをより効率的かつ効果的にする正攻法について、コツや必要なインプットがあれば教えてください。
角:本日のご相談は不動産業界Cさんから「新規事業担当になったのでたくさんのアイデア出しが必要」というご相談です。まずは村上さんからいかがでしょうか?
村上:アイディエーションのフェーズでは、まず一人で、あるいはメンバー全員で黙々とポストイットに書き出し、壁に貼って可視化するのが基本です。そうして集まったアイデアを組み合わせたり掛け合わせたりすることで、より豊かな発想が生まれます。また、大きなアイデアを生むためには、制約条件を一度極端に振ってみることが非常に有効かなと思います。たとえば、既存のプロダクトに対して「量を極端に増やす/減らす」「サイズを巨大にする/極小にする」といった極端な想定を置くことで、面白いアイデアが顔を出します。スピードについても「10倍(10x)にする」あるいは「10分の1に短縮する」と考えてみることで、既存の枠組み(ボックス)にとらわれないクレイジーなアイデアが生まれます。そうした100個、200個と出したアイデアの中に、キラリと光るものが一つでもあれば、それをさらに分解して深掘りしていく。このプロセスを繰り返すことで、質の高い新規事業の種が見つかるはずです。
角:なるほど。企画の構成する要素のパラメーターをめちゃくちゃ大きくしたり、小さくしたりといったことを色々やってみるみたいな感じですかね。サーカスをめちゃくちゃ豪華にしてみたらシルクドソレイユになったみたいな。
村上:そうですね。DJみたいにつまみを調整するみたいな感じですね。Cさんが担当が不動産業界らしいので、既存の部屋を小さく咲いたらどうなるんだろう。カプセルホテルの新しいのができるかもしれない。じゃあめっちゃ広くしたらどうなるか、ものすごく地下深く掘ったらどうなるかみたいなね。
角:なるほどなるほど。逆方向へのアイデアもどんどん出してみるみたいな感じですね。蛯原さんはいかがでしょうか?
蛯原:正解はないのかなと思うんですよね。アイディエーションには正解がありません。「アイデアは一瞬、実行(エクセキューション)は10年」と言われるように、いかに優れたアイデアでも実行力が伴わなければ形になりませんし、時の運も大きく作用します。その前提の上で、具体的なアプローチとして有名なのが、デザインコンサルティングの世界的権威であるIDEO(アイデオ)などが提唱する「HMW(How Might We? / 我々はどうすれば〜できるか?)」というフレームワークです。これは、たとえば「どうすれば日本の不動産市場を10倍にできるか?」「どうすれば購入者が10倍ハッピーになれるか?」といった問いを立てる手法です。そこから「なぜ?」を繰り返して深掘りし、メンバー全員の脳内に同じイメージが浮かぶまで解像度を高めていくことで、進むべき方向が明確になります。Cさんが「とにかく大量にアイデアを出したい」のであれば、まずは徹底的なフィールドワークで市場や顧客の生の情報をインプットし、そこからブレインストーミングを行うのが王道です。今回ご紹介したHMWアプローチなどは数ある手法のごく一部に過ぎませんが、こうしたフレームワークを使い分けることで、質の高いアイデアを効率的に引き出せるようになります。
角:Cさんの相談の中には「新規事業における「多産多死」の原則に基づき、とにかくアイデアの「数」をたくさん出すことが不可欠だと理解しています」って書いてありますけど、これが本当にそうなのかなというところは僕ちょっと思うんですよね。多産多死って、その環境を俯瞰的に見ている側からしたら、結果的多産多死にはなってるはずなんですけど、本人だったとしたら、たくさん作るたくさんなくなるって、自分でそれを言わなくてもいいのになみたいな気もちょっとするんですよね。
蛯原:だから、スタートアップとか新規事業の多産多死って、そのアイデアが多産多死してるって意味じゃなくて、実際にちゃんと事業化して事業を営んで、エクスキューションして、でもダメだったっていうものであって、多けりゃいいってもんでもないです。
角:そういうことですよね。アイデアの数にこだわる必要はなく、極論すれば、たった1つの優れたアイデアがあれば十分だという考え方も非常に重要です。ただ、大企業において「ビジネスとして成立しないアイデア」ばかりが出てしまう背景には、基礎知識の不足があると感じます。自社の特定技術には詳しくても、世の中のお金の流れや社会の構造変化といった「ビジネスの基本原理」を知らなければ、通用するアイデアは生まれません。逆に、世の中の動向や収益構造の変化を敏感に捉えている人は、それらの知識を既存の技術と組み合わせることで、精度の高い一撃を放つことができます。アイデアとは、ゼロから生み出すものではなく、自分の中に蓄積された多方面の知識を組み合わせることで生まれるものだからです。普段から「この知識とあの技術を掛け合わせたらどうなるか」という思考実験を繰り返している人がチームに一人でもいると、新規事業の成功確率はぐっと高まるのではないでしょうか。お二人がおっしゃっていることに付け加えるものでもないのかもしれないんですけど。
蛯原:おっしゃる通りだと思います。大きくビジネスをスケールさせる経営者の中には、まさに「アーキテクト(設計者)」と呼ぶべきタイプが存在します。彼らは産業全体の構造を解像度高く理解しており、「どこに構造的な歪みや負債があるか」を瞬時に見抜きます。そして「ここをこう組み替えれば、巨大なビジネスチャンスになる」という青写真を描くのが非常に得意です。すべての成功者がそのタイプではありませんが、成功パターンの有力な一つとして間違いなく存在します。角さんが今おっしゃったお話は、まさにこうした「構造を捉える力」がアイデアの質を決定づけるという、本質的な部分を突いていると感じました。
角:ありがとうございます。ということで、良い質問だったので、色々みんなでエキサイトしながら、お話ができたと思います。良い質問、ありがとうございました。ということで、不動産業界のCさん、参考にしていただければと思います。
回答のまとめ
1,アイデアの量よりも「構造理解」が質を決める:
・多産多死とは「アイデア数」ではなく「実行された事業の淘汰」を指すものである
・付箋の数を増やすこと自体は目的ではなく、光る一撃を見つけるためのプロセスに過ぎない
・産業構造やお金の流れを理解していないと、事業として成立するアイデアにはなりにくい
2,発想を広げる鍵は“極端な仮説設定”にある:
・面積・価格・スピードなどの条件を10倍/10分の1に振ることで既存の枠を壊せる
・地上/地下、所有/非所有など前提条件を反転させることで新しい視点が生まれる
・100個出す目的は量産ではなく、常識の外側にある種を見つけることである
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
