フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』をダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「個人や小規模事業者等向けビジネスのマネタイズの考え方」です。
質問者:
IT業界 Fさん
相談の背景や理由:
社内でビジネス公募の事務局を担当しています。第一次産業や介護・保育業界のビジネス案が多く寄せられるのですが、主な顧客層が漁師・農家・介護士・保育士などの個人や小規模事業者のため、収益化が難しくビジネス規模も見込めません。一方で、国や地方自治体を顧客とするアプローチも検討しましたが、彼らは個人や小規模事業者の課題を十分に認識や重視していあにことから投資が見込めません。このような状況での、個人や小規模事業者向けビジネスのマネタイズについて相談したいです。
角:本日のご相談はIT業界Fさんから「地方でのビジネス展開のありかた」というご相談です。なんか難しいやつ来ましたけどね。まずは蛯原さんいかがでしょう?
蛯原:結構、アグリテックとかヘルスケア系の投資なんかもあるので、Fさんのお悩みは大変わかります。資金力のない対象から収益を上げるのは極めて困難です。そのため「お金のあるところから取る」というのが一つの正解だと考えています。たとえば一次産業においては、薄利で生産を行う個々の農家さんではなく、より市場規模の大きい「流通」に着目すべきです。日本の収穫物の流通は兆円単位の規模があるでしょう。そこを抑えるためには、自分たちでサプライチェーンを担うといったアプローチが考えられます。
もう1つはフィンテック、特に「レンディングテック(融資)」の分野です。資金不足のために拡大再生産の投資ができない中小零細の一次産業者に対して、ファイナンス機能を提供します。もともと日本では農協が担っていた、トラクター購入などのための割賦販売といった機能をデジタルで展開するスタートアップが世界中で登場しています。このように、生産現場に正面から向き合うのではなく、サプライチェーンやファイナンスといった切り口からビジネスを考えてみるのも良いかもしれません。
角:ありがとうございます。かなり具体的で参考になったんじゃないかなと思います。村上さんはいかがでしょうか?
村上:農業分野への事業アプローチは、基本的には「川上に食い込む」か、あるいはピーター・ティールが提唱するように「垂直に独占するか」の2点に集約されます。日本の農協は、本来サプライチェーンとファイナンスの両方を抑えていて、そこを通さなければ出荷できないという仕組みを構築していました。しかし最近では、ECであったり、独自の販路を開拓して海外へ輸出するなど、農協を介さない動きも出てきています。
したがって、ファイナンスと販路、そしてサプライチェーンをパッケージ化して提供することができれば、垂直独占的なスタープレイヤーが生まれる可能性があります。これは農作物に限らず、日本酒や、現在廃業が進んでいる茶畑などの「お茶」の分野でも、海外需要を見据えた新たな展開が考えられるはずです。一次産業だと、オペレーションのコストも担えないし人もいないからということで「タダでいいからもらってくれ」っていうような世界がたくさんあるわけです。
角:じゃあ、そういうのをまとめて譲渡してもらって生産規模を上げて効率的に運用していくみたいなことを考えるのもアリかもしれないですね。
村上:そういうのを集めていって効率を上げて規模を出さないと儲からないよね、みたいところから法人化解禁っていう流れが来たんだと思うんですよね。
FさんはIT業界の方ですので、ビジネスプランコンテストやハッカソンでは、同様のアイデアが山ほど出てくると思います。日本の課題として「少子高齢化」などを挙げ、そこから「こんな課題に困っていませんか」と始まるプレゼンテーションは非常によく見られます。「お金があるところから取る」という考えには大賛成です。そうでなければ、補助金が活用できる分野を狙うという回答になります。しかし、事業プランをそうした補助金頼みにしてしまうと、国の政策に依存することになります。太陽光発電の例のように、補助金がいきなり打ち切られるリスクも考慮しなければなりません。
角:全体的な雰囲気として、ご相談の内容は社会課題の解決という側面が強いと感じます。確かに社会課題は解決すべきですし、インパクトファンドなど資金が集まりやすい状況もあります。しかし、ビジネスとして考えた場合、誰がお金を払うのかという視点は不可欠です。それに対する答えとして、先ほど触れたサプライチェーンやフィンテックの視点、あるいは商流を垂直に切り取り、その流れ全体でマネタイズを考えるといった見方が必要になりますね。この視点を誤ってしまうと、行政を「打ち出の小槌」のように錯覚してしまうケースが世の中には多く存在します。「社会にとって良いことなのだから、行政がお金を出すはずだ」という考えは、はっきり言って間違いです。そんなに単純なものではなく、やはり行政もお金がありませんから、どこに補助金を出すべきかというのは行政もちゃんと考えています。なので、「これをビジネスとして成立をさせるためにどうすればいいのか」という知恵の絞り方も必死で考えなくてはいけないポイントなのかなと思います。IT業界のFさん、参考にしていただければと思います。
回答のまとめ
1,地方ビジネスは「誰がお金を払うか」を最初に設計する:
・社会課題の解決だけでは事業は成立せず、収益源の設計が不可欠になる
・資金力の乏しいプレイヤーから直接収益を得るモデルは成立しにくい
・地方ビジネスでは「資金のある主体」や「市場規模の大きい領域」に着目する必要がある
2,一次産業ではサプライチェーン全体を見てビジネスを構築する:
・ファイナンス・販路・流通を組み合わせる
・サプライチェーンを横断して設計することで垂直統合型のプレイヤーが成立する可能性がある
3,補助金依存ではなく持続可能な収益モデルを構築する:
・社会課題領域では補助金に依存したビジネスになりやすい
・政策変更によって市場が急激に縮小するリスクを考慮する
・補助金に頼らず市場の中で収益が回る構造を設計することが重要
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
