フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「新規事業プログラムにおける多様な参加者の確保について」です。
質問者:
建材業界 Dさん
相談の背景や理由:
私は新規事業プログラムの事務局を担当しており、ビジコンの実施を通じて新規事業の発掘に取り組んでいます。現在、エントリーする人々の多くが30~40代の男性です。多忙な業務の中で、特に育児を行っている女性社員はほとんどエントリーしていません。また、育児中でなくても、女性社員が積極的に前に出ることは少ないように思えます。新規事業の検討や取り組みには、性別や年齢が異なる多様なメンバーの参加が望ましいですが、運営側として、このような状況を改善するためにできることはありますか?
角:本日のご相談は建材業界Dさんから「新規事業プログラムにおける多様な参加者の確保について」です。新規事業のビジコンを運営されているとのことですが、質問文から大変真面目な方なんだろうなとお見受けします。まずは蛯原さんからお伺いしてもよろしいでしょうか?
蛯原:発言の仕方に注意が必要ですが、まずそもそも、育児を女性社員の方ばかりがやっているという状況について、男性が育児休暇を取れる仕組みが整っているか、あるいは仕組みがあっても利用を奨励する活動をしているか、というところを確認する必要があるかもしれません。また、忙しければ忙しいほど、このビジコンにエントリーするインセンティブがちゃんとあるのかも重要です。現業の評価とは別で、やる気がある人だけがエントリーしているだけで、特にインセンティブがないのであれば、育児で忙しい方はなかなか出られないでしょう。まず、そういった環境面を整えることが大切だと感じました。
その上で、前提としてですが、最近日本でも東京都や国などが女性起業家支援をすごく頑張っていますよね。私もそのメンターや支援活動に携わっています。そこで感じる女性起業家さんの特徴としては、男性的なマッチョな「規模を追いかけるぞ」「ユニコーンだ」という方はそんなに多くなく、「社会の役に立つ」あるいは「自分が経験したペイン(課題)を解決したい」という動機で起業されている方が多い印象です。分かりやすいのは、子育て支援などのビジネスですね。質問文を読んで思ったのは、「年齢、性別が異なるメンバーにトライしてほしい」ということであれば、手っ取り早いのは、お題を出してあげることだと思うんです。
角:なるほど。
蛯原:会社として、新規事業といえば「次世代の我が社の柱となる大きな収益を生むような」という雰囲気が強く出ているのではないでしょうか。それだと、先ほど申し上げたような文脈の女性起業家さんなどは、なかなかトライしづらいかもしれません。ですから、「じゃあ次のお題は社会インパクトです」と切り替えるのです。「社会の人々の役立ち、ポジティブなインパクトを与える、我が社のCSRに役立つようなことをテーマにします」と打ち出すと、もしかしたらそういった文脈のアイデアが出てくるかもしれません。あるいは、「シニア向けビジネス」といったテーマを設定すれば、もうちょっと年齢層が上の方も出てくるかもしれないですし、そういう形でテーマで誘導するというのも一つの手かなと思いました。
角:テーマで誘導するという方法は、新しいコストをかけずに実行できるため、最初の一歩として非常にやりやすいアプローチだと思います。特に、女性社員の方がアイデアを出しやすいテーマにすることで、確かにエントリーを誘導できそうな気がします。非常に建設的で、クイックに実行できるなと感じるご意見でしたね。続きまして、村上さんはいかがでしょうか?
村上:ちょっと言うことがなくなってしまったなと思っております(笑)。なので、テーマ設定とはちょっと違うポイントでお話しします。このプログラムが「偉い審査員の人たちに、自分自身のことを覚えて欲しい人たちが出てくる」という構造になっているのではという点が気になります。つまり、何か良いネタを考えるというよりも、「やる気を役員にアピールしたい」というモチベーションで参加者がやってくる状態になってしまっているということです。であれば、やっぱり「会社として多様な人材や育児中の女性が働きやすい環境が本当にあるのかな?なかなか難しい課題が多いのかもしれないな」と受け取りました。なので、どうやってインセンティブ設計をするかはとても大事ですし、やっぱりこのビジコンのアイデアから本当に次の柱を作る、みたいになってくると、本気であればあるほどそれをぶつけに行く勇気が必要ですよね。
一般的に、やっぱり女性の方が自信度が高くないと声を上げないという傾向があるんです。シェリル・サンドバーグさんの本などにも書いてありますが、男性は昇進のタイミングで50%の自信があれば応募するけれども、女性は80%以上の自信度がないと応募もしない、という話があります。つまり、適切な後押しが必要だということですね。となると、その部署のマネージャーの方たちがメンバーの方をよく知ってらっしゃると思うので、そういった働きかけも多分大事なのかなと思います。適切なインセンティブがあって、「これは会社として重要で、次の我が社を担う多様な人材のための機会としてやってるんだ」と示すことが大切です。
角:なるほど。
村上:例えば、育児中の女性社員の方に、「あなたは良いアイデアを持っている。もっと活躍できるはずだ」と働きかけます。そして、「プライベートとのバランスなどで今足りない環境があれば言ってほしい。会社も環境整備に力を入れるつもりだから、それも含めてここで提案するのはどうか」と持ちかけます。これによって、「時短制度の中でこういうことがあれば良い」「こういうチームが必要だ」といった具体的なやり方や必要な支援(環境整備を含む)を盛り込んだ提案が引き出せます。「これができれば、自分も活躍できる機会がこの会社にある」と感じさせることができるという提案は、上層部にも響くでしょう。こういう提案をビジコンの機会にすることも有効だと思います。
角:本当にそうですね。実際に質問文に「エントリーする人々の多くが30〜40代の男性です」って書いてありますもんね。これは、20代あるいは50代の男性も同様に少ないっていうことかと思います。若手は「そんなことやってる場合じゃなくて、まずは自分の任された仕事をちゃんとやれ」って言われちゃうような雰囲気がもしかしたらあるのかもしれません。だとすると、どんどんエントリーできるような環境作りの部分が非常に大事な気がします。昇進のために自分を印象付けるためではなく、「エントリーしてこういう学びがあった」「こういう点が良くてこういう成長できた」といった人材育成としての魅力や面白さを実感してもらえるための環境整備をやっていただくといいのかなと思いましたね。ということで、建材業界Dさん、ぜひ参考にしていただければと思います。
回答のまとめ
1,参加者層が偏っている背景にある環境要因:
・育児負担が特定の層(主に女性)に集中しており、制度の利用促進や風土づくりが不足していないか
・多忙な社員にとってビジコン参加のインセンティブが乏しく、参加が後回しになっていないか
・「役員へのアピール目的で参加する場」という構造が生まれ、多様な層が手を挙げづらくなっていないか
2,テーマ設定による多様な参加の誘導:
・社会課題やCSR領域など、幅広い価値観を持つ社員が参加しやすいテーマを設定する
・女性社員や育児中社員が日頃感じる課題に取り組めるテーマにすることで、参加ハードルを下げる
・「大規模・高収益」以外の文脈を提示し、年齢・性別を問わず発想を出しやすい土壌をつくる
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
