フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「開発を伴う大型テーマの撤退基準はどう設計すべきか?」です。
※番組スタートから100回目を記念し、『新規事業お悩み相談室』の公開収録を行いました。2025年6月9日、虎ノ門ヒルズ ステーションアトリウムで開催された「ビジコンAWARDS2025」にて公開収録された特別編です。
質問者:
積水化学工業株式会社 吉田圭佑さん
相談の背景や理由:
ディープテックなど、開発を伴う大型テーマの場合、PoCを実施するまでに相当な費用と時間がかかり、また仕込みも多くできないことから撤退したくない心理が働きやすいと感じています。現実的に撤退基準はどのように設けるべきでしょうか?
角:フィラメント新規事業お悩み相談室 公開収録お二人目の方をお呼びしたいと思います。積水化学工業株式会社、吉田圭佑さん、どうぞお越しください!質問は「開発を伴う撤退基準はどう設計すべきか?」ですね。
吉田:私たちはビジコンもそうなんですが、製造業のメーカーなので、新規事業のネタを仕込んでいく上で、もちろんサンクコストなども色々考えることはあるにせよ、やっぱり心理的に撤退したくないという気持ちがすごく強く働きます。
一方で、大企業と言っても、どうしても予算やリソースの配分というものがあるので、「どこまでこの事業を優先すべきか」「新しい仕組みに回すべきか」という議論は、もう永遠に尽きない課題というか、永遠のテーマのように議論されています。特に最近「ディープテック」と言われるようになってきた中で、こういった撤退の考え方や基準を今後どう考えていくべきか、ぜひお伺いしたいです。
蛯原:先日もインドやシンガポールでもディープテックの流れを感じましたが、世界的にソフトウェアからディープテックへとシフトしており、これは大企業の新規事業開発にとっても重要な文脈です。
ディープテックには三つの特徴があります。1つはGカーブ(成長曲線)が深いこと、2つ目は時間軸が長いこと。そして最も重要な3つ目は、ボラティリティ(変動性)が大きい、つまり失敗確率が高いことです。最初の二つは「儲かるまでやる」と決めれば対応できますが、失敗確率が高いとなると話は別です。サイコロで滅多に出ない目を狙うようなもので、どこかで撤退基準を設けなければなりません。
撤退基準には大きく2つのタイプがあります。1つは事前決定型、もう1つは状況判断型です。大規模開発では事前決定型が一般的ですが、ソフトウェアやサービス系では何も決めない状況判断型が多い傾向にあります。しかしディープテックの場合、かかる費用が桁違いなので、状況判断型は難しい。そこで一般的に有効なのがマイルストーン型です。これは、各開発フェーズごとに最大予算を決めておく方式です。例えば、非臨床で数千万円、フェーズ1で数億円と上限を設け、それを超えたら即撤退とします。これは、想定以上に困難度が高いと判断し、さらなる巨額の費用がかかる可能性を考慮するためです。つまり、それまでの累積費用(サンクコスト)をマイルストーンごとに許容範囲として設定するのが一般的です。
他にも、競合増加による有効性判断や、市場規模の小ささによる経済合理性判断、あるいは中期経営計画の変更による戦略判断など、いくつかの撤退類型がありますが、ディープテックにおいてはマイルストーンごとのサンクコストフレームワークが最も一般的だと考えられます。
角:結構ドライな感じでやった方がいいよっていう感じですかね。
蛯原:そうですね。誰も決めれないので、最初からルールを決めるというかたちでドライに行かないとまずいということですね。
角:吉田さん、いかがでしょうか。
吉田:実際、ある程度マイルストーンを決めて事業を進めるのですが、「この絞りカスの中に何か光るものはないのか」、「ここまでやってきた積み上げの中に、まだ何か活かせるものがあるんじゃないか」という、粘りたい気持ちが強く働きます。これは経営層も含めて同じで、簡単に撤退できない、あるいはさせてもらえないという難しさがあります。「まだ何かあるはずだ、探せ」といった、ある意味永遠に終わらないクロージングのような状態が、実際のところよくあるように思います。一度決めた撤退基準であっても、それをなかなか押し通せない。特に大企業の場合、体力もリソースもあるので、余計にそうなりがちです。今まで費やしたものを無駄にしたくないという根性が働いてしまうのかなと感じています。
蛯原:その場合、「一旦この事業はやめるけど、IPや技術を活用して別のものを新たにゼロで立ち上げる」っていう方法はあると思うんですけど、どうですかね。
村上:ドライな言い方になりますが、私の経験上、「絞りカス」の中に何もないことがほとんどです。
ただ、見方を変えれば、続けられる体力があるならやればいいという考え方もできます。特に、権限と予算を持つ経営層が「何かあるんじゃないか」と言えば、「何かありますね」と乗っかって、予算を引っ張り続けるサラリーマン的なテクニックも存在するわけです。自分では何も見込みがないと思っていても、「何かあると思います」と伝え、「この年間1億円の予算は削らない方がいいですよ」と進言する。そして、その予算の中で自分の好きなことをサイドワークとして進める。これは、事務局レベルから見れば、戦略的に予算を確保する技術でもあります。少し「悪い知恵」のようですが、これが実践的な話かもしれませんね。
僕もソフトバンクグループというところに長らくいて、孫正義さんのような勢いのあるトップがいると、新規事業が撤退する時って、結局本人が飽きるんです。本人が飽きてしまって、現場だけが「お前まだそれやってんの?」と取り残された状態になると、「もういいかな、閉じても」という感じで、そこから事業を畳んでいくことになるんですよね。だから、そこまでは、大企業に体力と余力があるのなら、なんとなく事業を生かし続けるというのも一つの手かもしれません。100に1つくらい、何か確変が起こる可能性もゼロではないですからね。
吉田:ありがとうございます。すごくいい気づきをいただきました。
角:よかったです。最後は孫さんのお話まで飛び出して、面白いお話になったかなと思います。皆さん、ありがとうございました!
回答のまとめ
1,ディープテック新規事業の特性:
・高い不確実性: 成長曲線が深く、時間軸が長く、失敗確率が高いという特徴を持つ。
・巨額な投資: 他の新規事業に比べ、開発コストが桁違いに大きい。
2,撤退基準の考え方:
・事前決定型マイルストーン方式: 各開発フェーズごとに最大予算(サンクコスト)を設定し、それを超えた場合は撤退する。
・具体的な指標: 非臨床で数千万円、フェーズ1で数億円といった上限を設定する。
3,撤退を阻む心理的要因と対処:
・サンクコストへの固執: 費やしたコストや労力から「粘りたい」という心理が強く働く。
・経営層の期待: 大企業では、体力とリソースがあるため、経営層も撤退に踏み切れないケースが多い。
・「事業は一旦終了し、IP(知的財産)や技術を活用して別の新規事業を立ち上げる」という選択肢を検討する。
・体力がある場合は、予算を確保し続け、小さな可能性を追求する「サラリーマン的テクニック」も存在しうる。
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
※番組スタートから100回目を記念し、『新規事業お悩み相談室』の公開収録を行いました。2025年6月9日、虎ノ門ヒルズ ステーションアトリウムで開催された「ビジコンAWARDS2025」にて公開収録された特別編です。
