新規事業担当者の中には「プラットフォーム型のビジネスやってみたい!!」と思っている方がたくさんおられます。社内ビジネスコンテストを開くと会社にもよりますが、今だにそれなりの人数の方がプラットフォームビジネスでエントリーされてきます。

確かに、それで成功したスタートアップはたくさんいますし、GAFAMはいずれもその要素を持っています。

とはいえ、日本の既存事業会社の新規事業として安易にプラットフォームビジネスに手を出すのはお勧めできません。

その話を詳しくする前に、プラットフォーム型ビジネスの定義や類型について解説させていただきます。

角 勝(すみ・まさる)
株式会社フィラメント 代表取締役 CEO

1)プラットフォームビジネスとは?

プラットフォームビジネスとは、異なるユーザー群(供給者と消費者など)を結びつけ、価値を交換する場を提供するビジネスモデルで、以下のような類型があります(分類の仕方は下にあげるもの以外にも色々ありますので興味があれば調べてみてください)。

プラットフォームビジネスの類型

①取引型:買い手と売り手をつなげる(例:Amazon, eBay)

②コンテンツ型:コンテンツの制作者と消費者を結びつける(例:YouTube, Netflix)

ネットワーク型:人と人をつなげる(例:Facebook, LinkedIn)

④技術基盤型:第三者がサービスやアプリを開発できる土台を提供する(例:iOS, Android)

2)プラットフォームビジネスの特徴

これらのプラットフォームビジネスの特徴は大きく三つあります。

一つ目は、プラットフォームビジネスの魅力でもあるのですが、大規模設備の保有が必要ないことです。例えば宿泊業をやろうと思ったら普通はホテルや旅館などの不動産のほかそこで働く人たちを雇用したりと色々な設備とその運営に投資が必要となります。他にも顧客を誘導するための導線としてじゃらんや楽天などに情報を流したり、決済サービスと契約したりすることなども必要になるでしょう。ですが、プラットフォームビジネスではそうした準備が不要になります。そのため、駆け出しのスタートアップであってもアイデア一つで巨大なビジネスを立ち上げることが可能となります。例えばAirbnbなどは先ほどの宿泊業における最大のプラットフォームビジネスの成功事例といえるでしょう。

プラットフォームビジネスのもう一つの特徴は、ネットワーク効果です。ネットワーク効果とは、利用者が増えれば増えるほど、サービスの価値も上昇するという特性のことです。特に利用者の数がある閾値を超えた途端にサービス品質が劇的に改善します。逆に言えばその閾値を下回った状態、プラットフォーム参加者(利用者)が少ない状態だとマッチングの精度が低くなり、この時にうっかり利用してしまった人は二度と利用しないだけでなく悪評を広めます。サービスの価値が不安定な始めの期間をどうやって最短で乗り切れるかがプラットフォームビジネスの肝になります。

三つ目の特徴は「勝者総どり」であることです。これはネットワーク効果の派生効果と呼べるものなのですが、ネットワーク効果はそのプラットフォーム参加者が増えれば増えるほど利便性が高まり、コンペティターとの差を広げてしまう性質があるため、ほとんどの場合勝者は一社だけになります(winner takes it all)。例えばチャット&通話アプリであるLINEはその分野で日本での唯一の勝者となっていますが、それはcomm(NTT系)やカカオトーク(ソフトバンク系)などとの熾烈な競争に勝ち抜いた結果です。YouTubeなども類似事業者は存在しないですよね。

3)プラットフォームビジネスの難しさ

プラットフォームビジネスの難しさはいくらでもあるのですが、今回は以下の三点をご紹介します。

①お金がかかる

②知恵と工夫が必要

③椅子取りゲームは既に終了

順に詳しく説明しますね。

①お金がかかる

まず、先ほど述べた利用者数が少ない時期を最短で乗り切るためにはどうするかというところから説明します。答えは簡単で「圧倒的な投資を行う」が答えになります。

日本で直近に支配的なポジションを短期間で構築したプラットフォームはPayPayだと思いますが、まさに圧倒的な額のカネを投下してこのポジションを築きました。しかもプラットフォームビジネスの「マッチング」という基本性質上、マッチング対象の両サイドに対して投資していく必要があります。つまり二正面作戦であり、二倍のコストがかかります。PayPayの場合はユーザー側に対して「100億円山分けキャンペーン」などの大規模施策とテレビCMをヘビーローテーションしたうえに、大量の人員を投入して日本中の店舗に対しても営業攻勢をかけました。これはソフトバンクグループの得意な戦略であり、ここぞとばかりに大量のヒトとカネが二つの方向で投入されています(つまり大規模投資×二倍です)。

②知恵と工夫が必要

プラットフォームビジネスの難しいところの一つは単にヒトとカネを投入したからといってうまくいくわけではないところです。今、我々が目にするプラットフォームビジネスは全て儲かっているように見えますが、それらは知恵と工夫で生き残ったごくごくわずかなサバイバーに過ぎません。どのカテゴリーでも競争がありますし、レースの最中では「どうやったらユーザーが伸びるのか、どうやったらユーザーが離脱しないようにできるのか」というシンプルな問いの答えが出せません。この問いが解けなければ仮に大資本を持っていたとしても宝の持ち腐れです。効果的な営業の仕方やユーザーのつなぎ止め方がわからないからです。「知恵と工夫」の例として、あるマーケットプレイス型のプラットフォームビジネスの逸話を紹介します。そのサービスでは自分たちが実現すべき価値は「速く売れること」であると考えて、投資で得た資金を使ってサービス内で売りに出された商品を自分たちで買っていたそうです。そうすれば「速く売れる」という顧客体験を快く感じたユーザーは離脱しませんし、さらには「このサービスに出したら1日で売れた」という噂を立ててくれます。その口コミを知った人たちの多くはユーザーとして参入し、プラットフォームの成長は加速します(この逸話は業界内での「伝説」なので真偽不明ですが生々しさを感じます)。ほかにもX(旧Twitter)において「7回連続してツイートした人は離脱率が劇的に下がる」ことがサービス開始初期に発見され、7回つぶやかせるためのインセンティブ設計を考えて成長を果たした…など、知恵と工夫の逸話はプラットフォームビジネスには事欠きません。

③椅子取りゲームは既に終了

ここでいう「完全に終了している椅子取りゲーム」というのはスマホアプリとしての話です。

そもそもスマホというデバイス自体(より正確に言うとスマホのOSとアプリストア)がプラットフォームです。デバイスという大きなプラットフォームの上にアプリという小さなプラットフォームがたくさん乗っかっているという入れ子構造になっており、一つのビジネス生態系(エコシステム)となっているのです。そして、スマホの上での縄張り争いには数年前に決着がつきました。生物学の世界では「ニッチ」という言葉があります。それは特定の生物が活動できる生息域のことですが、スマホというエコシステム上のニッチは既にすべて埋まっていて、なんらかの変動要因がなければ新しいプラットフォームが入り込む余地がないのです。先ほど例に出したPayPayは経産省のキャッシュレス促進施策がその変動要因でしたし、その後のコロナ禍がそれをさらに加速させたといえます。ちなみにFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOがVRとメタバースにこだわるのは、Facebookが小さなプラットフォームしか取れなかったことから、スマホに変わる新しいエコシステムをつくって大きなプラットフォーマーになるためだと目されています。

4) 伝統的日本企業のボトムアップ型企業内新規事業として成立するカテゴリーではない

プラットフォームビジネスの難しさについては前章でお伝えしたとおりですが、さらにクリティカルな要因が「プラットフォームビジネスの特徴は伝統的日本企業の組織実情に絶望的にフィットしない」ことです。

基本的に日本の大企業は既に利益の源泉たる事業を保有しており、その中で効率性と持続性を両立させています。ここでいう効率性は利益率とは違います。自分たちの事業を洗練させることで過去の自分たちと比べて効率的に事業が行えるようにしてきたという意味での効率性であり、利益率という観点では高い企業もいれば低い企業もいます。

ですが、利益率の高低に関わらず、時間をかけて洗練させてきた自分たちの本業で得られる利益に対して誇りを持っていますし、その利益を尊いものだと思っています。

一方で、プラットフォームビジネスはそうしたメンタリティとは絶望的に相いれないものです。初期に莫大な投資が必要で、しかも勝てる企業は一社のみですからほとんどギャンブルに近いビジネス特性です。

また、知恵と工夫が必要で、現場で獲得した知恵と工夫を瞬時に生かさなければ競争に勝ち残れないというルールも、意思決定スピードが遅い大企業との相性は最悪です。

また、ボトムアップ型の新規事業には成果の大きさよりスピードが求められがちで、一般的には三年で結果を出さなければならない場合が多いのも相性の悪さを助長しています。

さらに人事異動サイクルが速いのもプラットフォームビジネスとは相性が悪いです。知恵と工夫とその成果は人の頭の中に暗黙知のまま蓄積されていく部分が多くなりますが、人事異動はそれを断ち切り、ゼロリセットしてしまうからです。

5)まとめ

さて、まとめです。

日本企業の中で、プラットフォームビジネスを成功させることができるのは、圧倒的な大規模投資ができる意思決定構造と戦略構築能力、それに戦略が機能しなかったとしても機敏に方向転換できるアジリティをもったわずかな企業しかないのではないか…というのが私の見立てです。その場合でも孫さん(ソフトバンク)や藤田さん(サイバーエージェント)のポジションでなければ難しいと思います。


フィラメントでは多くの企業の社内ビジネスコンテストをサポートしていますが、特徴は大きく二つあります。
一つ目はビジネスについての学習コンテンツを提供すること、二つ目はアイデア創出の段階から伴走メンタリングを行うことです。
これにより、参加者全員のビジネス能力の底上げを図りつつ、筋の悪いアイデアにならないように誘導していきます。今回のプラットフォームビジネスについてのトピックも社内ビジコン参加者向けに話す解説を切り出して編集したものです。

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