社内ビジネスコンテスト(社内ビジコン)や新規事業提案制度で、「参加者が思うように集まらない」「エントリー数が伸びない」という悩みは珍しくありません。フィラメントが開催実績のある40社を対象に分析した調査でも、開催1〜2回の企業では、「エントリー数の確保」「応募者の熱量維持」「アイデアの質」といった入口側の課題が中心となっていました。
応募を増やそうとすると、社内告知の回数や景品、説明会といった「施策」に目が向きがちです。もちろん認知を広げることは必要ですが、それだけでは十分ではありません。社内で新しい取り組みが広がるときには、誰が最初に参加し、誰がその取り組みを支持し、その姿が周囲からどう見えるかが大きく影響します。
本記事では、経営層・中堅社員・若手社員のうち、社内ビジコンでまず誰を巻き込むべきかを、「職位」と「社内での信頼・影響力」という2つの軸から考えます。あわせて、巻き込みだけでは応募が増えない理由と、参加者を継続的に増やすための制度設計も整理します。
誰を巻き込むかの前に、参加したくなる前提を整える
キーパーソンを巻き込むことは重要ですが、制度そのものに「参加しても意味がない」と思われていれば、一時的に応募者を増やしても長続きしません。社内ビジコンの応募を増やすには、少なくとも次の前提を整えておく必要があります。
- 制度の目的を明確にする:新規事業創出なのか、人材育成なのか、会社として何を目指す制度なのかを経営層と共有する
- 応募のハードルを上げすぎない:最初から完成度の高い事業計画を求めず、簡易なエントリーや相談機会から参加できるようにする
- 通常業務との両立を考える:参加者が本業とは無関係な「追加業務」と感じないよう、活動時間や上司の理解を含めて環境を整える
- 応募後に何が起きるかを見せる:採択案件が検証・事業化へ進むことや、不採択者にもフィードバックがあることを可視化する
フィラメントの新規事業お悩み相談でも、応募件数が減る背景として、「提案しても何も起こらない」という過去の経験や制度目的の不明確さが考えられると整理しています。トップや役員のコミットメントだけでなく、提案後の継続プロセスと会社全体で支える体制を見せることが重要です。
組織構造と影響力に注目する ― 「職位 × 社内での信頼」で考える
参加者を増やすために、全社員へ同じメッセージを一斉に届けるだけでは、社内での受け止められ方をコントロールすることはできません。そこで、組織を「職位」と「社内での信頼・影響力」の2つの軸で見てみます。
縦軸は、経営層・管理職・中堅・若手といった「職位・階層」。横軸は、役職とは別に、その人が周囲からどれだけ信頼され、相談され、新しい取り組みに対して周囲を動かす力を持っているかという「社内での信頼・影響力」です。

本記事では、各階層の中でも、仕事の成果だけでなく、周囲から信頼され、「あの人がやるなら面白そう」「あの人が参加するなら自分も話を聞いてみたい」と思われる人を、便宜上「イケてる(人望がある)層」と呼びます。
ここで重要なのは、役職や人事評価だけでキーパーソンを決めないことです。実際に誰が周囲から相談されているか、誰の発言がチーム内で受け入れられやすいか、誰が部署を越えてつながりを持っているかを見ることで、社内ビジコンを広げる起点となる人物が見えやすくなります。
最初に巻き込みたいのは、各階層の「信頼されている人」
社内ビジコンを一部の新規事業好きだけの取り組みにせず、参加者の裾野を広げるには、最終的には「自分は新規事業タイプではない」と思っている社員にも関心を持ってもらう必要があります。そのためのきっかけになりやすいのが、普段から身近な職場で信頼されている人の参加です。
たとえば、各部門の中堅社員や若手のキーパーソンが実際にキックオフへ参加する、アイデア創出ワークショップに参加する、社内ビジコンでの学びを周囲に話す。こうした姿が見えると、制度は「新規事業部だけのもの」ではなく、自分たちにも関係する取り組みとして認識されやすくなります。
ただし、キーパーソンに単なる“宣伝役”になってもらうだけでは逆効果です。本人が制度を面白い、学びがある、挑戦する価値があると感じられる体験をつくり、その実感を自分の言葉で周囲に伝えてもらうことが重要です。
経営層・上位職のキーパーソンは「本気度」を示す役割
各階層のキーパーソンと並んで重要なのが、社長・役員・事業責任者など、意思決定に近い上位職のキーパーソンです。経営層が社内ビジコンの目的や期待を自分の言葉で語り、審査や採択後の支援にも関与することで、「会社として本気で取り組んでいる制度」であることが伝わります。

ただし、役職が高ければ誰でもよいわけではありません。社員から信頼されているか、新しい挑戦に対して前向きな姿勢を示せるか、採択後に予算・活動時間・事業部との接続など具体的な支援を動かせるかを見る必要があります。 トップのメッセージだけで応募を増やそうとするのではなく、経営層が制度の正統性と継続支援を担い、各部門のキーパーソンが現場側の参加のきっかけをつくる。この両方がそろうと、トップダウンとボトムアップの間をつなぎやすくなります。
参加者の裾野を広げるには、キーパーソンの「参加体験」を社内に見せる
キーパーソンを巻き込んだ後は、その人たちだけで盛り上がって終わらせず、参加していない社員が「自分もやってみようかな」と思える情報に変換することが必要です。
- キックオフや説明会で、経営層が制度の目的と採択後の支援方針を伝える
- 過去の参加者に、応募前の迷い・実際に得た学び・審査後の変化を率直に語ってもらう
- 完成した成功事例だけでなく、アイデアを考える過程や顧客インタビューの学びも社内で共有する
- アイデア相談会やワークショップなど、正式応募より手前の参加機会を用意する
- 不採択者にもフィードバックや再挑戦の機会をつくり、「落ちたら終わり」という印象を避ける
新規事業提案制度の担当者交流会でも、参加者募集は各社共通の課題として挙げられ、本業にも役立つことを感じてもらうこと、落選者への丁寧なフィードバック、人事部門やトップを巻き込んで全社的な取り組みとして見せることなどが共有されています。
社内ビジコンを単発で終わらせず、毎年「参加する意味」を更新する
社内ビジコンを継続すると、初年度とは違う課題が生まれます。2026年の40社調査でも、開催1〜2回ではエントリー数や熱量が中心課題だった一方、開催5回以上では事業化、事業規模の拡大、既存事業部門との連携など出口側の課題へ重心が移っています。
そのため、毎年同じ募集コピーやイベントを繰り返すのではなく、応募者・不採択者・審査員・上司・事務局からフィードバックを集め、その年のボトルネックに合わせて制度を改善します。
- 応募が少ないなら:参加ハードル、応募前支援、活動時間、上司の理解、制度の認知を見直す
- アイデアの質が課題なら:顧客課題の発見、アイデア創出、メンタリングの設計を見直す
- 事業化が進まないなら:採択後の予算、責任者、意思決定者、既存事業部門との接続を見直す
- リピーターしか集まらないなら:未応募者が参加しやすい入口や、部門ごとのキーパーソンを改めて探す
継続性とは、同じ企画を続けることではありません。制度の目的は維持しながら、社員が「今年も参加する意味がある」と感じられるよう、実際の課題に合わせて運営を更新していくことです。
実務で考える「社内の巻き込み順」
1. 経営層・スポンサーの本気度を確認する
制度の目的、採択後にどこまで支援するのか、参加者の活動時間をどう扱うのかを握ります。
2. 各部門・各階層のキーパーソンを見つける
役職や人事評価だけではなく、周囲からの信頼、部署を越えたつながり、新しい挑戦への姿勢を見ます。
3. キーパーソン自身に良い参加体験をつくる
講演、ワークショップ、相談会など、正式応募より前の段階から参加してもらい、制度の価値を実感してもらいます。
4. 参加者の体験を可視化して周囲へ広げる
成功事例だけでなく、迷い、学び、顧客の声、方向転換など、挑戦のプロセスも社内へ共有します。
5. 応募後の支援と結果を見せる
採択後の仮説検証や事業化、不採択者へのフィードバックまで行い、「応募しても何も起きない」という状態を避けます。
まとめ
社内ビジコンの参加者を増やすために、最初から全社員を動かそうとする必要はありません。まずは、会社として制度を本気で支える経営層・スポンサーと、各部門・各階層で周囲から信頼されているキーパーソンを巻き込みます。その人たちが実際に参加し、価値を感じ、その体験が周囲に見えることで、次の参加者が入りやすい状態をつくります。
ただし、「誰を巻き込むか」だけで応募が増えるわけではありません。制度目的の明確化、参加ハードル、通常業務との両立、応募後の支援、採択後の事業化、不採択者へのフィードバックまで含めて、「参加しても意味がある制度」にすることが前提です。
参加者が集まらない場合は、広報不足だけを疑うのではなく、「誰がこの制度を支持しているか」「誰が最初に参加しているか」「応募した人にその後何が起きているか」の3点から見直してみると、改善すべきポイントが見えやすくなります。
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