社内ビジネスコンテスト(以下、ビジコン)を成功させるためには、制度設計や企画力といった仕組みそのもの以上に、「社内のどの層を最初に巻き込むか」で成否が大きく左右されます。実際、ビジコン参加者が思うように集まらない、エントリー数が伸びないといった課題を抱える企業も少なくありません。こうした課題を乗り越えるには、経営層・中堅社員・若手社員など、どの層から巻き込んでいくべきかを戦略的に見極めることが重要です。
この視点はビジコンや研修といった限定的な施策にとどまらず、経営改革、人事制度改定、新規事業推進など、あらゆる変革に共通します。
組織構造と影響力に注目する〜組織は「階層 × 評価」でできている〜
組織変革を成功させるためには、多くの人を巻き込むことが不可欠です。言い換えれば、変革を推進するうえで最も重要となるのは「影響力」です。ただし、単に社内のインフルエンサーを見つけるだけでは十分ではありません。より本質的な視点として、組織構造と影響力の関係に注目する必要があります。
組織を理解するために、2つの軸を使って整理してみましょう。
縦軸は「職位階層」軸として、上位職階(シニア)と下位職階(ジュニア)を両端に置きます。そして、横軸は「社内での影響力・人気度」を軸として、イケてる(人望がある)とイケてない(人望がない)を両端に置きます。図の右側がイケてる(人望がある)層、左側がイケてない(人望がない)層、その中間が普通層です。(多くの組織では、この分布はおおむね2:6:2で表されるのではないかと推測されます。)

この図で特に着目すべき存在が「イケてる(人望がある)層(図内右A1,A2,A3)」の人々です。
ここでいう「イケてる(人望がある)」とは単に業務能力が高いという意味にとどまらず、周囲から信頼されること、社内で高く評価されること、模範的な存在であること、中心人物として周囲を動かす力を持つこと──こうした多面的な優秀さと人気を備えた人物を指します。まず、どの階層にも、社内で「イケてる(人望がある)」とみなされる人たちが存在します。彼らは仕事ができるだけでなく、人望や信頼を集めている点で共通しており、文化や新しい取り組みは必ずそこから広がっていきます。
逆に、不評の人や周囲から信頼を得られていない人を起点にしても、変革は広がりません。まず巻き込むべきは、各階層の「イケてる(人望がある)」とされる人たちなのです。単に役職だけでなく「その階層で本当に信頼と成果を得ているか」を見極めることが、誰を巻き込むかを判断する上で重要になります。
ビジコンという挑戦は「イケてる層」から「普通層」へと広がる
ビジコンという挑戦的な取り組みが組織全体に根付くには、最終的に「普通層」に属する人たちが動き出すことが欠かせません。ただし、彼らを直接説得しても行動変容は起こりにくいのが現実です。人は「自分が信頼している誰か」が動くことで安心し、同じ行動を取ろうとします。つまり、普通層を動かすためには、まずイケてる(人望がある)層を味方につけ、その姿を見せることが必要なのです。
これは新しい制度やプロジェクトにおいても同じで、イケてる(人望がある)層が積極的に参加していることを「面白そう」「価値がある」と発信することで、普通層は安心して追随できます。この流れを設計することが取り組みの浸透度合いを左右します。
「上位職階 × イケてる(人望がある)層」をビジコンにどう巻き込むか
イケてる(人望がある)層の中でも特に重要なのは、上位職層かつイケてる(人望がある)層に分類される人たちです。健全な組織では、社長や役員クラスがここに位置づけられます。彼らが施策への本気度を示す姿勢を打ち出すことで、施策全体に正統性が与えられ、ミドルやジュニア層が安心して参加できるようになります。

ただし注意すべきは、「社外的に優秀と見られる人」と「社内的に優秀とされる人」は必ずしも一致しない点です。組織には独自の文化があり、その中で人望を得ている人物こそが本当のキーパーソンになります。したがって、形式的な役職だけをみて巻き込むのでなく「社内で信頼を集めているかどうか」も基準にして、誰を巻き込むべきかを見極める必要があります。
実際、ピーターの法則(*)が示すように、昇進を繰り返すことでその人の能力の限界を超える職位に至り、結果的に無能とされてしまう場合もあります。したがって、形式的に高い役職にあるからといって、自動的にイケてる(人望がある)層とみなすのではなく、その人が現在の職位で本当に信頼を得ているかどうかを見極めることが不可欠になります。
*ピーターの法則:
組織における昇進のメカニズムと、それに伴う組織の非効率性を説明する社会学の法則です。この法則では、有能な人材が最終的に自分の能力の限界に達するまで昇進し、そこで停滞し、その結果、各階層は無能な人間で埋め尽くされるという現象を指摘しています。
ビジコンを単発で終わらせないための継続性を意識した設計
イケてる(人望がある)層は自己成長や学びに貪欲で、幅広い情報を積極的に取り入れる姿勢を持っているため、新しいものを好む傾向が強く、同じ形式の施策や同じ切り口の改革を繰り返すと飽きられてしまうことがあります。したがって、毎年テーマや仕組みを3割程度刷新するなどして、新鮮さを保ちながら継続することが重要です。経営陣の支援を得るだけでなく、イケてる(人望がある)層全体に「また参加したい」と思わせる仕掛けを盛り込むことで、自然と普通層も巻き込み、組織全体へと波及していきます。
まとめ
組織変革を成功に導く鍵は、組織を客観的に観察し、誰から巻き込むかを見極めることにあります。文化は「イケてる(人望がある)層」から広がります。普通層を動かすためにも、まずはイケてる(人望がある)層を戦略的に味方につけることが不可欠です。さらに経営陣の支援を取り付け、継続性を意識した仕掛けを組み込むことで、一過性の施策に終わらず、組織文化を変える力を持つ取り組みへと成長していきます。
ビジコンを成功に導くための、社内キーパーソンの巻き込み戦略をはじめとしたビジネスコンテスト支援サービスについてはこちらをご覧ください。