フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「技術起点での新規事業アイデアも検討したいが・・・」です。
質問者:
自動車関連業界 Fさん
相談の背景や理由:
自動車関連のメーカーで新規事業アイデアを検討しています。技術起点でのアイデアの発想ばかりではよくないようですが、自社の技術はユニークで価値あるものだと思っているので後ろ髪ひかれるような気持ちです。一度きっぱり技術起点のアイデアは忘れたほうが良いのでしょうか?
角:本日のご相談は自動車関連業界Fさんから「技術起点での新規事業アイデアも検討したいが・・・」というご相談です。蛯原さんと村上さん、どちらからお伺いしましょうか。
蛯原:私はよくファンド出資者であるこういったメーカーさんとやり取りをしていましたので、私からいきましょう。
角:お願いします。
蛯原:技術起点か市場起点かという議論において、どちらか一方を切り捨てる必要はなく、両方を追求すべきです。プロダクトアウトとマーケットインは、常にセットで考える必要があります。新規事業を立ち上げる際、自社の強みやリソース、技術を起点にすることは決して間違いではありません。自社に全く強みのない分野に手を出しても成功の確率は低いからです。一方で、世の中の大きな流れを捉えることも不可欠です。今後十年あるいは数十年で主流となるトレンドを見極める必要があります。自動車業界を例に挙げれば、日本国内の状況だけではなく、EV化が進むグローバル市場や、長期的には避けて通れない自動運転の動向など、各地域ごとのマーケットを詳細に観察し、自社の技術と市場のニーズが合致する点を探らなければなりません。
結論として、技術起点のアイデアを捨てる必要はありませんが、自社の技術と市場の変化の間を常に行ったり来たりしながら、最適な接点を見出すことが、新規事業開発における王道といえます。
角:なるほどですね。なんかものすごく小さい技術の話する人とかっていませんか?
蛯原:いますね。それはもちろんいます。「ですから、まずマーケットを見ましょう」ってことでまた行ったり来たりして。おっしゃることはすごくわかるんですけど、こういう場合って要は「抽象度を上げたり下げたりするのがお得意ではない」ということが多いと思います。技術起点だから良い悪いじゃなくて、事業として全体を見るというもので、これはセンスというか慣れの問題とかそういうところですよね。
角:ありがとうございます。ものすごく納得がいきましたね。続いて、村上さんはいかがでしょう?
村上:私も技術起点と市場起点の療法だと思っています。特に、技術者の視点から新規事業を考える場合、まずは自分たちが関わっている技術がどのように市場で売られているのかを、社内の営業や企画の担当者と深く議論すべきです。結局のところ、技術がプロダクトになり、エンドユーザーが対価を支払うことでビジネスは成立します。新規事業においても、その技術がどのような価値(バリュープロポジション)として世の中に流通し、ビジネスとして形になるのかを、技術者自身がしっかりと理解しておく必要があります。
まずは、既存の自社技術がなぜ今のお客さんに選ばれているのか、その理由を正しく把握できているかが重要です。それが理解できて初めて、新しい技術に対しても「この技術はクールだ」という主観的な評価だけでなく、市場における客観的な価値を見出すことができるようになります。技術者同士の会話では「これはすごい」と評価されていても、顧客からは全く見向きもされないという状況はよくあります。それは、何かが欠けているか、顧客がその技術に優位性を感じていないかのどちらかです。重要なのは、そのギャップをどう埋めるかという視点に尽きます。
だからこそ、顧客から見てその技術がどう見えるのかを徹底的に考える必要があります。たとえば、BtoBビジネスであれば、その技術を導入することで顧客の課題がどう解決されるのかを具体化することです。機械が10倍速く動く、あるいはコストが10倍下がるといった明確なメリットがあれば、商品は瞬時に売れます。
こうした考え方を組織的な仕組みとして極限まで突き詰めているのが、キーエンスのような企業です。彼らは膨大な数のアポをこなし、顧客の課題を深く理解します。社内にないものは技術部門と連携して特注品のような形で作って提案し、「あなたが欲しかったのはこれですよね」と提示して成約に繋げます。どのような事業であっても、本質的にはこうした顧客視点での価値提供に集約されるのだと思います。
角:そうなんですよね。相談者の自動車関連業界FさんはおそらくR&Dの方なんじゃないかなと言う気がするんですよね。技術点でのアイデアにこだわってらっしゃるので、おそらくその点をこれまで評価されてきたということがあると思うんです。R&D部門の方々は、一生懸命ご自身の研究にフォーカスをされているからこそ、一方で生活者としての発想が希薄になってしまうという部分もあるのかもしれないなと思います。だからこそ、生活者あるいはビジネスマンとしての知識や視点を増やしてみるであったり、研究者視点から俯瞰的に全体を見て発想するといったことをしないといけない。蛯原さんがおっしゃっていた具体と抽象の行き来じゃないですけど、ビジネスとして売る場合に生活者の人が買うかどうかという生々しい部分まで繋げていかなくちゃいけないんですよね。そのつながりの部分が希薄になってしまうので、ではどうやったら解消できるのかなっていうことを先に考えてみると良いんじゃないかなと言う気がします。
蛯原:角さんのお話を聞いていてリチウムイオンバッテリーの話を思い出しました。リチウムイオンバッテリーは、ノーベル賞を受賞した吉野彰氏による素晴らしい技術ですが、実用化されてから売れるまでに20年もの歳月を要しました。吉野氏のような研究者であっても、技術の凄さだけではビジネスを成立させることは難しかったのだと推察されます。この技術が最終的に普及した決定的な要因は、携帯電話の登場でした。「軽くて持ち運びができ、充電が長持ちする」という具体的なニーズが世の中に生まれたことで、初めてリチウムイオンバッテリーでなければ実現できない世界が成立したのです。
結局のところ、営業を通じて顧客のニーズを探り、自社の技術が不可欠となる場面にどう巡り合うかという「総合力」が問われます。新規事業が離陸して売上が発生するためには、マーケティング、営業、そして技術のすべてが必要です。また、1つの技術だけで事業が成り立つことは稀で、通常は2つ、あるいは3つ以上の技術要素が組み合わさることで初めて事業として成立します。したがって、技術起点が良いか悪いかという議論ではなく、市場と技術の両方、あるいはそのすべてですというお話なのかなと思いました。
村上:本当に総合力ですよね。新規事業を担う人は、その領域におけるCEO、つまり社長の役割を果たすことになります。そのため、特定の技術ひとつに固執するのではなく、事業全体を俯瞰する視点を持つことが不可欠です。大企業の研究開発(R&D)部門にいると、ユニークな研究をして論文が採択されることで評価される世界に身を置きがちです。その結果、「商品化は企画やマーケティングの仕事である」というように、自らの役割を限定してしまう傾向があります。しかし、新規事業を成功させるためには、そうした既存の役割や枠組みを自ら飛び越えていく姿勢が極めて重要なのかなと思います。
角:ありがとうございます。蛯原さんからリチウムイオンの話も出ましたし、あと多分、ソニーのイメージセンサもそうだと思います。どちらが先かではなくて総合力を意識しましょうということで、参考になれば幸いでございます。
回答のまとめ
1,技術起点と市場起点の基本的な考え方:
・技術起点と市場起点は対立する概念ではなく、同時に行き来しながら検討するもの
・自社の強みや技術を起点にすること自体は合理的であり、成功確率を高める要素になる
・中長期的な社会変化やグローバルトレンドを踏まえ、市場側の動きも並行して捉える
2,技術を事業に転換するための視点:
・技術がどのような価値として顧客に認識され、対価が支払われるのかを明確にする
・既存技術が現在の顧客に選ばれている理由を正確に理解する
・技術者視点の「すごさ」と顧客視点の「必要性」のギャップを意識的に埋めていく
3,新規事業を推進する人材に求められる姿勢:
・技術・営業・マーケティングを含めて事業全体を俯瞰する意識を持つ
・研究や専門領域の枠を超え、生活者や顧客の視点を取り込む
・単一技術に固執せず、複数の要素を組み合わせて価値を構築する
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
