選ばれなかった社員に、何を返すか。社内ビジコンの「挑戦のリターン」設計
この記事の結論
社内ビジコンでは、最終審査まで残る応募はごく一部です。重要なのは全員を採択することではなく、選ばれなかった社員にも、評価・学び・フィードバック・賞金・次の機会など、その制度の目的に合った「挑戦のリターン」を設計することです。
社内ビジコン(新規事業提案制度)は、多くの社員からアイデアを集め、その中から少数を選ぶ仕組みです。BIZCON AWARDS 2026のエントリー企業のうち、応募20件以上の14社を見ると、応募件数の中央値は88件でした。一方、最終審査まで残る割合は中央値で2.8%。一次審査の時点で、およそ87%が通過しません。数百件の応募に対して最終審査は2〜3件、という企業もあります。多くの人が選ばれないこと自体は、選考制度である以上、当然のことです。問題は、選ばれなかった人に何が残るのかが設計されていないことです。

エントリーは、思っている以上に重い
応募する社員は、通常業務とは別に、課題を考え、調べ、アイデアをまとめ、資料を書き、上司や周囲と調整します。夜や休日を使うこともあります。BIZCON AWARDS 2025のエントリー企業19社が挙げた課題を見ると、「ビジコン期間中の通常業務との兼ね合い」が10社(53%)で、「参加者数が充分ではない・減少傾向」と並んで最も多い課題でした。各社の記述にも、その重さが表れています。初年度に参加しなかった社員へヒアリングを行った企業では、「現業が忙しい」「追加業務になるのが不安」「他プロジェクトと重なりタイミングが悪い」という声が集まりました。参加者数が初年度をピークに減少した企業が、社員のべ29名にヒアリングしたところ、制度の周知不足に加えて、人員不足や業務多忙を背景に「参加を言い出しにくい雰囲気」があることが分かりました。社員の「挑戦したい」という気持ちだけに依存して制度を運営すると、結果として、社員の善意や意欲に追加業務を負わせる構造になりかねません。そのうえで、最終審査には約97%が到達しません。多くの応募者にとっての体験は「時間と労力を使ったが、何も返ってこなかった」になり得ます。こうした体験の蓄積は、翌年度以降の応募意欲を損なう要因になり得ます。
それでも、支援は選ばれた人に集中する
2025年のエントリー企業19社について、選考後の支援施策の実施状況を見ると、支援が通過者に偏っていることが分かります。
| 施策 | 実施企業 | 実施率 |
|---|---|---|
| 最終審査フェーズでの伴走メンタリング(通過者向け) | 18/19 | 95% |
| 落選者へのケア | 10/19 | 53% |
| コミュニティ形成 | 3/19 | 16% |

通過した人に伴走する企業は19社中18社。一方、選ばれなかった人に何かを返している企業は10社です。なお、この2つは異なる施策であり、単純な優劣として比較するものではありません。ただ、支援の重心が、選考を通過した人の側に置かれている可能性がうかがえます。そして、この53%という数字の読み方には注意が必要です。
※本分析の対象について
本分析の対象は、BIZCON AWARDS 2025のエントリー企業19社です。エントリー企業は、自社の社内ビジコン運営を外部評価の場に出そうとする企業であり、平均的な事務局とは性格が異なります。 あわせて、BIZCON AWARDS 2026の参加者アンケート(回答66名)では、参加目的として「他社事例の情報収集」49名、「社内ビジコン運営の参考」41名、「自社制度改善の参考」35名が上位に並び、来年は「自社でもエントリーを検討したい」が24名(約36%)にのぼりました。開催報告でも、回答者が当事者の中でも関心の高い層に寄っている可能性を前提としています。 したがって本データは、日本企業全体の社内ビジコンを代表するものではありません。むしろ、制度改善への関心が比較的高い企業群においても、落選者へのケアの実施率が53%にとどまったと捉える必要があります。一般的な社内ビジコン全体でどうかは、本調査からは判断できません。
「応募者が減った」は見えていても、その手前は見落とされる
同じ19社の課題認識を並べると、もう一つの偏りが見えます。
| 課題 | 挙げた企業 |
|---|---|
| 参加者数が充分ではない・減少傾向 | 10/19(53%) |
| ビジコン期間中の通常業務との兼ね合い | 10/19(53%) |
| ビジコン発の新規事業創出 | 8/19(42%) |
| アイデアの質や方向性 | 7/19(37%) |
| 落選者の取り扱い、ケア | 4/19(21%) |
| 参加者のモチベーション維持 | 4/19(21%) |
応募者が減っていることを課題として認識している企業は53%。落選者の扱いを課題として認識している企業は21%です。事務局には「応募が減った」という結果は見えています。しかし、前年までの応募者がどんな経験をしたかは、課題として認識されにくいということです。翌年度の社員は、今年の募集要項だけを見て応募を判断しているわけではありません。前年までの挑戦者がどう扱われたかを見ています。
ある企業は、この構造を率直に記述しています。
前々年の反省点として、審査に落選した応募者が不当に否定的な印象を抱いて終わってしまうことが挙げられる。特に、新規事業の経験が乏しい役員が批評家的な立場で審査を行うことへの不満が顕著であった。
応募数の減少は、入口の問題としてだけでなく、出口の結果として現れることがあります。
→ 制度の成熟にともなう課題の移行と「支援の谷」については「新規事業提案制度『3〜5年目の壁』ガイド」で整理しています
開催回数で見ると、選ばれなかった人への支援にも「谷」が見える
落選者へのケアを開催回数で分けると、「支援の谷」と同じ形が現れます。
| 開催回数 | 落選者へのケア | 通過者への伴走メンタリング |
|---|---|---|
| 3回未満(n=5) | 3/5(60%) | 4/5 |
| 開催3〜5回(n=8) | 2/8(25%) | 8/8 |
| 6回以上(n=6) | 5/6(83%) | 6/6 |

開催3〜5回の企業では、通過者への伴走が全社で維持される一方、落選者へのケアが薄くなる傾向が見られました。開催3〜5回の時期に、支援の重心がどこに置かれているのか。この対比は示唆的です。ただし、これは同一企業を追跡したデータではなく、n=8のうち2社という小さな数字でもあるため、傾向として参照してください。
「応募が多いから全員に返せない」は本当か
落選者ケアの話をすると、「うちは応募が多いので全員には返せない」という反応が返ってくることがあります。しかし今回の対象では、逆の傾向が見られました。
| 応募規模 | 落選者へのケアを実施 |
|---|---|
| 応募100件以上(6社) | 5/6(83%) |
| 応募100件未満(9社) | 3/9(33%) |
今回の対象では、応募100件以上の企業のほうが落選者ケアの実施率が高い傾向が見られました。数百件規模の応募がある企業も実施しています。ただし、これは応募規模がケアの実施を促すという因果を示すものではありません。応募100件以上の企業には開催回数の多い企業も含まれているため、応募規模だけの影響とは言えません。n=6とn=9という小さな数字でもあるため、傾向として参照してください。いずれにせよ、応募数の多さが、リターンを返せない決定的な理由になるとは限らないことは言えそうです。もちろん、応募数が増えれば対応工数も増えます。数百件規模の応募があったある企業では、書類提出前のフィードバックを短期間で返す運用を設けていましたが、想定を上回る相談件数で工数が逼迫しました。そこで、初期のフィードバックの一部を自動化し、事業案が具体化してきた段階で個別面談に移すという段階設計に見直しています。問うべきは「全員に返すか、返さないか」ではありません。「どうすれば全員に、何らかのリターンを返せるか」です。
挑戦のリターンは、学びだけではない
ここでいう「リターン」は、賞金に限りません。学びにも限りません。挑戦したことによって本人に返る価値の全体を指します。エントリー企業の記述からは、実に多様なリターンが設計されていることが分かります。
フィードバックを返す
- 応募者全員に、外部専門家のコメントとアドバイスを返す
- 一次審査の落選者にレポートを作成し、希望者にはフォロー面談も実施。「起案の足りないところが明確になった」という声が多数寄せられ、ブラッシュアップして再挑戦する人も増加
- 事業案へのフィードバックだけでなく、最終審査の全体傾向、どういった議論がなされたか、メンタリング期間での本人の成長まで、伴走パートナーが返す
認知・表彰を返す
- 全応募者へのフィードバックに加えて懇親会を実施し、通過の有無にかかわらず社内表彰を行う
次の挑戦の機会を返す
- 最終選考まで残った起案者に、翌年以降の一次審査免除を付与。あわせて新規事業関連の書籍を贈り、外部のセミナーや勉強会を紹介
- 最終審査の内容を踏まえ、次回応募を促すワークショップやセミナーを紹介
評価・キャリアを返す
- 兼業の割合に応じて、活動実績を人事評価に反映(人事部と連携)
- 次年度の人事が決まる前に受賞を発表することで、次年度の人事評価項目に反映できるようスケジュールを変更
- 落選者と対面で丁寧にコミュニケーションを行い、今後の希望を加味した人事配置を行う
そもそも落選を減らす設計にする
- 書類選考を廃止し、応募者全員が実証活動に参加する(=全員が実務経験を得る)
- 応募時のビジネスプラン提出を不要にし、活動の初期段階でプランを作る工程に置き換える
少額の謝礼やギフトのような金銭的リターンも、この中に含まれます。重要なのは豪華さではありません。本人が「エントリーしてよかった」と思える何かが返ることです。
なお、こうした対応は事務局にとって軽い仕事ではありません。ある企業は、こう記述しています。
事務局が個別の社員の顔を思い浮かべ、過去の経緯も把握して、丁寧な対応を心がける。感情労働だがやるしかない。効果がどのくらいあるのかは正直分からないが、まったく何もしないのとは大きな差があると思っている。
社内ビジコンの目的と「挑戦のリターン」は一致しているか
ここが、「参加賞を用意しましょう」との分かれ目です。BIZCON AWARDS 2026の参加者アンケートで、社内ビジコンを実施している55名を目的1位で分けると、次の差が出ました。
| 目的1位 | 「エントリー数の確保」が課題 |
|---|---|
| 新規事業創出(n=41) | 56% |
| 人材育成(n=10) | 70% |
※「新規事業創出」「人材育成」を目的1位とした回答者のみ掲載。実施企業55名のうち、この2区分に該当する51名が対象です。
人材育成を主目的に置く企業のほうが、エントリー確保に課題を感じている割合が高いという結果でした。ここから一つの仮説が考えられます。100人が応募して10人だけが研修やメンタリングを受けられる制度は、残る90人にとっては人材育成制度として機能していません。育成が目的なのに、育成されるのが審査通過者だけなら、制度の目的とリターン設計が一致しているとは言いにくいのです。逆に、応募前のメンタリング、全応募案への審査コメント、不採択者へのフィードバックが揃っていれば、採択されなくても、学びや成長という人材育成上のリターンを返すことができます。目的ごとに、相性のよいリターンは異なります。
| 制度の主目的 | 相性のよいリターン |
|---|---|
| 新規事業創出 | 顧客検証の機会、メンタリング、PoC予算、事業部接続、事業化の機会 |
| 人材育成 | 学習プログラム、全応募者への個別フィードバック、スキルの可視化、次の育成機会 |
| 風土醸成 | 表彰、社内での認知、参加者コミュニティ、再挑戦機会、経営からのメッセージ |
| 人材発掘 | 人事評価への反映、タレントプール登録、異動・抜擢、プロジェクトアサイン |
| アイデア収集 | 謝礼・賞金、採用時の追加報奨、フィードバック |
新規事業創出が主目的なら、全員に高額な賞金を出す必要はないかもしれません。応募時に仮説検証のフィードバックを返し、通過案件にはPoC予算や事業部接続を厚くするほうが、目的に合っています。問うべきは「応募者に何を返すか」ではなく、「この制度の目的に対して、応募者に何を返すべきか」です。
→ これから制度を設計する場合の論点は「社内ビジコン設計ガイド」で整理しています
「落選者」は、本当に落選者なのか
社内ビジコンには、必ず選ばれない人が生まれます。
しかし、事業案として今回は選ばれなかったとしても、その過程で顧客を調べ、仮説を立て、自分の会社の可能性を考えた社員は、会社にとって一人の挑戦者です。ある企業では、審査で落選した参加者が他チームの支援に回り、挑戦を助け合う文化が形成されています。別の企業では、二次審査で落選したテーマが、持ち帰った事業部内で検討され、PoCまで進んだ事例が生まれています。選考の結果は、その人と制度の関係の終わりではありません。
社内ビジコンの応募者支援に関する5つの疑問
社内ビジコンで応募者が減る原因は何ですか?
告知不足だけが原因とは限りません。前年までの応募者がどのような体験をしたかが、翌年度の応募意欲に影響している可能性があります。エントリー企業の記述では、制度のマンネリ化、応募者層の一巡、業務多忙で参加を言い出しにくい雰囲気、といった要因が挙げられていました。応募数を増やす施策を考える前に、過去3年の応募者属性と、応募者が何を得て制度を離れたかを確認することを勧めています。
落選者にもフィードバックを返したほうがよいですか?
制度の目的によります。ただし今回の調査では、通過者への伴走を実施している企業が95%あるのに対し、落選者へのケアは53%にとどまりました。特に人材育成を主目的に置く制度では、育成の対象が通過者だけになっていないかを確認する価値があります。
応募者全員にフィードバックするのは現実的ですか?
今回の対象では、応募100件以上の企業のほうが落選者ケアの実施率が高い傾向が見られました。ただし工数は実在します。数百件規模の応募を集めた企業では、初期のフィードバックの一部を自動化し、事業案が具体化した段階で個別面談に移す段階設計に見直していました。「全員に同じ手厚さで返す」ではなく、段階に応じて返し方を変える設計が現実的です。
人材育成が目的の場合、どんなリターンが適していますか?
学習プログラム、全応募者への個別フィードバック、スキルの可視化、次の育成機会などです。共通するのは、採択の有無にかかわらず返せるという点です。育成が目的であれば、選考を通過しなくても目的に寄与できる設計にできます。
社内ビジコンへの参加を人事評価に反映してもよいですか?
実際に反映している企業があります。兼業の割合に応じて活動実績を人事評価に反映している企業、次年度の人事が決まる前に受賞を発表して評価項目に反映できるようスケジュールを変更した企業などです。ただし人事評価への接続は人事部門との調整が必要になるため、初年度から求めるより、制度の目的が固まってから段階的に整えるほうが現実的です。
何を選ぶかと同じくらい、何を返すかを設計する
社内ビジコンで設計すべきなのは、誰を選ぶかだけではありません。挑戦した社員に、何を返すかです。賞金でもかまいません。評価でも、認知でも、学びでも、フィードバックでも、次の機会でもかまいません。大切なのは2つです。その制度の目的に合ったリターンであること。そして、応募した本人が「挑戦してよかった」と思えること。それが、次の挑戦者を生む制度につながります。あなたの会社の社内ビジコンは、エントリーした社員に何を返しているでしょうか。
応募者支援の設計についてご相談いただけます
フィラメントでは、応募数を増やす施策だけでなく、応募前支援、審査基準、全応募者へのフィードバック、通過後の伴走、事業部への接続まで、社内ビジコン全体を一つの制度として設計・見直しています。
- 応募者が固定化している
- 応募数が落ちてきた
- 落選者へのフォローまで手が回らない
- 人材育成を目的にしているが、通過者しか育成できていない
といった場合は、現在の制度を整理するところからご相談いただけます。
調査概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査主体 | 株式会社フィラメント(ビジコンAWARDS事務局) |
| データ1 | BIZCON AWARDS 2025 エントリーシート(19社)。落選者ケア・伴走メンタリング等の実施状況、課題認識、応募規模 |
| データ2 | BIZCON AWARDS 2026 エントリーシート(20社)。各フェーズの件数、前回課題と改善施策 |
| データ3 | BIZCON AWARDS 2026 参加者アンケート(回答66名・45社/うち実施企業55名)。参加目的、制度の目的、現在の課題 |
| 集計・分析 | 株式会社フィラメント |
| 公開 | 2026年8月 |
本記事の数字の見方
データ1・2・3はそれぞれ別の母集団です。最終審査到達率はデータ2(応募20件以上の14社)、落選者ケアと課題認識はデータ1(19社)、目的別の課題はデータ3(実施企業55名)から算出しています。年次比較ではなく、それぞれの断面として参照してください。
各区分は少数サンプルを含むため、統計的な一般化ではなく、参加企業に見られた傾向として参照してください。個別企業の記述は、企業が特定されない形に加工したうえで引用しています。
