スペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「「課題仮説」リサーチフェーズにおけるインタビュー準備の悩み」です。
質問者:
情報通信業界 Eさん
相談の背景や理由:
私は現在、新規事業の初期段階で「課題仮説」のリサーチを行っています。デスクトップサーチは進めていますが、肝心の課題インタビューに進むことができていません。インタビュー相手の方々も忙しい中、お時間をいただくことになるため、十分な準備をしてから依頼したいと考えています。しかし、どの程度準備すれば良いか、何を持参すべきか、いつインタビューを始めるべきかの目安が不明です。効果的な課題インタビューのための準備方法、インタビューに適したタイミングのアドバイスをお願いいたします。
角:本日のご相談は情報通信業界Eさんから「「課題仮説」リサーチフェーズにおけるインタビュー準備の悩み」についてのご相談です。具体的な課題をイメージしていて、仮説ができたかできないかぐらいのタイミングで実際の想定顧客の方にインタビューをするタイミングでちょっと悩んでるということかなとお見受けしました。多分スタートアップでもよくあるお悩みかなと思いますが、蛯原さんからお伺いしてもよろしいでしょうか?
蛯原:おっしゃっていただいた通り、スタートアップはユーザーインタビューを必ずやります。たとえば、Yコンビネータのようなアクセラレーターでも、アイデア段階や仮説検証の初期段階から、ユーザーインタビューをプログラムに組み込んでいます。ですから、かなり早い段階で始めても良いでしょう。ただし解像度が荒すぎると、「当たり前だ」といった漠然とした答えしか得られないので、解像度は上げていった方が良いとは思います。
ご質問を詳しく読み解くと、「インタビュー相手にお忙しい中お時間いただくことになるため」とあるので、インタビューを受ける側のメリットがないことや、迷惑をかけることを心配されているのだと思います。そうだとすると、相手のメリットを考えるべきで、聞く側からすれば、「会社が考えている新規事業はどんなものか」という具体的な興味は必ずあるはずです。ですから、相手の興味をそそるレベルに事業の具体度を上げることが大切です。「この事業のポイントはここです」「新規性はここです」「売りはここです」といったことをしっかり訴えられれば、相手の興味関心には応えられるのではないかと思います。
あともう1つ。スタートアップにも同じアドバイスをすることが多いんですけど、「完成した暁にはお客さんになっていただけるように、もはや営業だと持っていけ」と言っています。インタビュー相手を半分口説くぐらいの勢いでいくんです。口説くために必要なアイテムって何かと言うと、差別化要因だったり、SWOT分析だったりです。そういうことを頑張っていくということなんじゃないかなと思います。
角:ありがとうございます。僕が思っているのは、Eさんの場合はまだ完全なソリューションができてない段階なのかなというところです。その場合だと、事業イメージがまだ明確に伝えられないかもしれないかもしれないと思うんですが、この場合はどうでしょうか?
蛯原:私も同じことを思いました。業界の「負の構造」を発見して「正の構造」に変えていくというのは、DXのような業態では典型的なアプローチです。ただ、これは通常、その業界に相当精通した創業者や共同創業者がやるパターンなんです。つまり、彼らはその業界の負の構造、すなわち課題を、非常に解像度高く自身で発見しているはずなんですよね。だとすれば、そもそもこうした仮説検証をやる必要がないものが多いはずではないでしょうか。逆に、この検証が必要だということは、失礼ながら、その業界に精通していない人が事業を考えているのかもしれません。もしそうなら、まずその業界に精通している人を見つけてきて、その人と一緒に事業を詰めてから、外部の人にインタビューをするべきではないかと思います。
角:なるほど。腹を割って喋れるようなパートナーシップがある相手に、まずはもうちょっと詳しく聞くみたいなところからのスタートがいいんじゃないかっていう感じですね。続いて村上さん、いかがでしょう?
村上:ユーザーリサーチには、今、非常に多くの手法があるので、フェーズごとに何を使うかという定石に従って進めるのが良いと思います。今の段階ではまだ仮説がふわっとしているように見受けられるので、このままでは人に聞くのはまだ早い感じがします。まずは、もっとリサーチを進めて、自分たちで仮説をしっかり固めるべきです。「ここが本当にペインポイント(根本的な課題)だ」という確信を持ち、「本当にそうなのか」の部分を確認したいという段階になって初めて、その業界の深い知識のある人に一対一で聞くべきです。こういうエキスパートを使ったインタビューは非常に有効です。その上で、ソリューションの案がある程度仮説として出てきたら、次はユーザーインタビューです。グループインタビューでもいいですが、その際は、ソリューションの考えを頭に入れながら、「実際にその領域でどういう行動をしているのか」を行動観察なども含めて聞くのが良いと思います。
たとえば、「経費精算が面倒だからDXしよう」という話だとすると、「今どうやっているのか」「紙はどう処理されているのか」といった実際のフローを順番に確認して、自分たちのソリューションがそれを本当に解決するのかどうかをしっかり確認していく必要があります。プロダクトができてくれば、エキスパートレビューなど色々な手法が出てきますが、それはまた別の話です。今一番必要なのは、自分たちでの課題設定です。この仮説が「これだ」という段階まで、もう一段階深く掘り下げられないと、人に聞いてもあまり意味のあるインサイト(洞察)は出てこないのではないかと思います。あるいは、インタビュー相手の意見に過度に振り回される可能性もあります。「これはすごく面倒なんだよ」と強く言われたら、「そうか、じゃあそれをやろう」となってしまい、プロダクトの方針がブレブレになる恐れがあります。ですから、まずはそこを自分たちで頑張って詰めるのが、現在のフェーズではないかとお見受けました。
角:なるほど。お二人の話を聞いていて、ごもっともだと感じました。この質問の難しいところは、今リサーチしようとしている業界の知識をどれぐらい持っているのかが、読み取れない点ですよね。持っている知識から精度を高めていけば、「ここに課題があるはずだ」という仮説が立てられるようになるわけですが、現時点でそもそも課題の仮説を立てられている状態なのか、それとも、そこに至る前の基礎的な知識を獲得しなくてはいけない状態なのかがわからない。本人も今自分がどこにいるのかが分からず迷子になってらっしゃる印象を受けました。だとすると、まず、インタビューのターゲットになっている業界の方と対等に、あるいはある程度突っ込んで話しても、「それってこういうことですよね」と理解が示せるような状態になっているかというところからスタートされるといいかもしれません。その上で、お二人がおっしゃったようなアドバイスをどんどん活かしていっていただけると、良いのではないかとちょっと思いました。
蛯原:そうですね。壁打ちをできるようなお仲間を1人でも2人でも見つけて、そこで徹底的にやられるのがいいような気がします。
角:ありがとうございます。まずは情報収集をもう少しいろいろな方法で進めていくのもよいかもしれませんね。情報通信業界Eさん、ぜひ参考にしていただければと思います。
1,インタビューを行う前に、事業仮説の具体度と業界理解を高める必要がある:
・仮説が曖昧なままでは、インタビューしても「当たり前の回答」しか得られない
・まずは自社内で課題構造を解像度高く整理し、「この課題を確かめたい」というレベルまで詰めることが重要
2,インタビューは“相手のメリット”を設計し、半分営業のつもりで臨む:
・相手にとっての関心軸(新規事業の具体的なポイント・独自性・価値)を提示する
・「将来の顧客候補を口説く」くらいの熱量で臨むと、良質なフィードバックが得られる
・差別化要因やSWOT分析を整理し、興味を持ってもらえるよう準備する
3,仮説の成熟度に応じて、リサーチ手法を段階的に変える:
・初期段階では、まずはエキスパートインタビューで課題の妥当性を確認する
・ソリューション仮説が出てきたら、ユーザーインタビューや行動観察で検証を進める
・いずれの段階でも、外部の意見に振り回されず、自分たちの仮説軸を明確に保つことが重要
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。