フィラメント公式YouTubeチャンネルでは毎週水曜日に『新規事業お悩み相談室』を配信しています。この番組では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「起業とプライベート(主に家事育児)の時間配分の悩み」です。
質問者:
子育て支援、産前産後ケア業界 Eさん
相談の背景や理由:
「社会をよくしたい」、その想いで、4人の子育てをしながら起業したかけだしの起業家です。成功した女性起業家たちが仕事、家事育児、健康、美容全てを管理している様子に感銘を受けつつ、(母そして妻としても完璧。超人です!)自分もそのようなバランスをどう取れば良いのか苦戦中です。子どもたちの自立が進んでも、子どもに割く時間は変わらず、何を手放して時間を作るべきか悩んでいます。
角:本日のご相談は子育て支援・産前産後ケア業界Eさんから「起業とプライベート(主に家事育児)の時間配分の悩み」についてです。
これまでお送りいただいている相談もそれぞれ大変そうでしたけど、こちらもまたすごく大変そうなお悩みです。周りの女性起業家の方を見ると、母としても妻としても輝いていて、どうしたらいいのかみたいなお悩みですよね。
村上:経営者の方々がメディアで語るキラキラしているなと感じるストーリーは、基本的に「外れ値」、つまり超人の話なんですよね。超人だからこそ真似できないし、メディアに出てくるんです。そういった起業家ストーリーばかりがフィーチャーされて、相談者の方のようにプレッシャーを感じてしまうのは、あまり世の中のためになっていない気がたまにします。女性起業家の方を多く知っていますし、私自身もポピンズという保育サービス企業の社外取締役も務めています。ポピンズを創業した会長は元アナウンサーで、ご自身の「仕事をしながら子育てをするのが無理」という課題から、シッターサービスなどがなかった1980年代に「自分でやっちゃおう」と起業されたんです。
結論から言うと、「自分で全てをやるのは無理」ということを自分で認めることが重要です。そして、何を外部に頼めるのかを考えるべきです。家事代行サービスやシッターさんを頼む、あるいはパートナーがいるなら、頼めることはバッサリと頼むのが大事です。メディアで見かける「家事も育児もできている」と言っている方でも、実は実家であったり外部のサポートを徹底的に活用していたりします。
角:なるほどね。実家のサポートがあったりするということですね。
村上:そうですね。やっぱりメディアの情報はプロモーションでもあるので、全てを鵜呑みにして不安になってしまうというのは危険だと思うんですよ。もちろん、全てを自分で完璧にされている方も中にはいますけれど、それは本当に外れ値で、もう1パーセント未満だと思います。ですから、やはり、どこを自分で優先するのかを考えるべきです。お子さんが優先というのは当然ですが、その中でも「この部分は誰かに手伝ってもらう」といった、優先順位を自分の中で一度決めてみるといいのではないでしょうか。楽になるのではないかと思います。
蛯原:そうですね。私も「起業家としても母や妻としても完璧」というのはたぶん幻想だと思います。私は「完璧な母で妻で起業家」という人は知らないですが、「完璧だと見られているけれど、実は結構苦労している」という人はたくさん知っています。ですから、そういうものはそもそもロールモデルとして置かない方がいいでしょう。それはかなりミスリーディングされた偶像なんじゃないかと思います。
その上で、起業というものについては本来はもっと広い意味合いがあるのに、「VCから調達して、ものすごくレバレッジをかけるスタートアップ」というイメージが、特に日本では強い傾向にあると思います。しかしながら、長期で見るとたくさんの雇用や社会インパクトを生んでいて素晴らしい会社、つまり中小企業的な成功を収めている会社は世の中にたくさんあります。であれば、そんなにレバレッジをかけて無理をする必要は必ずしもありません。たとえば、村上さんがおっしゃっていたポピンズさんも、多分VCから調達などはしていないですよね。
村上:全くないですね。
蛯原:ですよね。何十年もかけてとんでもなく偉大な事業をつくられたと思っていて、本当に尊敬しています。親子でされていて、今は娘さんがされていると思いますが、こういった事例もあるわけですよね。だから、あんまり肩肘張らずに、「キラキラしたスタートアップ/資金調達/良き母で妻」みたいなのはもう「幻想だ」ぐらいに思ってですね、やれる範囲でやる。私の経験からすると、やっぱりどこかの時点ではある程度グッと集中して無理しないといけないので、その時は実家/義実家/夫に助けてもらうなりして、バランスを取りながらやっていくのが良いんじゃないかなと思います。
角:お二人ともめちゃくちゃ親身になってお答えいただいたので、相談をいただいたEさんも、ちょっとホッとされているんじゃないかなと思います。ご相談の背景に「社会を良くしたいという思いで起業した」と書かれていますよね。すごく想いが強い方だと思うんです。おそらく責任感も強くて、「子供たちのために」とか「どこから見られてもちゃんとできている」という完璧主義な部分があるのかもしれません。そのため、自分ができていないことに対する罪悪感がすごく強い方なんじゃないかなと思ったんです。けど、僕は罪悪感を感じる必要なんて一切ないと思っています。
たとえ、お風呂をためるのを忘れたとか、そういう日常的なことがあったとしても、いちいち自分を責めないで、自分を許可するというか、もう少し自分に優しくあってもいいんじゃないかなとこの文章を読みながら思いました。社会を良くするためには、たぶんご自身が健康で幸せでないと長続きできないんですよ。だから、ご自身を幸せにすることも含めて、「社会を良くしたい」を考えてもらうといいんじゃないかなと感じましたね。お二人のご意見と、私も最後に少し述べさせていただきましたが、参考になりましたでしょうか?ぜひ参考にしてこれからも頑張っていただければと思います。自分のことも大切にしながら、頑張ってくださいね。
1,「完璧な起業家像」を追わない:
・メディアで語られる「すべてを両立する理想像」は、現実ではごく一部の例外に過ぎない。そのような「外れ値」のストーリーを基準にすると、必要以上のプレッシャーや罪悪感を抱きやすくなる。
・他人と比較するのではなく、自分のペースと環境に合ったやり方を見つけることが、長期的な持続力につながる。
2,すべてを抱え込まず、頼れる仕組みをつくる:
・「自分で全部やるのは無理」と認め、家事・育児・仕事の中で外部に委ねられる部分を明確にする。
・家事代行やシッター、家族やパートナーなど、利用できるサポートを積極的に活用する。
・頼ることを「手抜き」ではなく「仕組み化」と捉え、時間とエネルギーを本当に注ぐべき領域に集中する。
3,自分を責めず、「幸せに続ける」ことを目的にする:
・「社会を良くしたい」という使命感も、自分自身が健康で幸せであることが前提にあってこそ実現できる。
・家族・仕事・自分自身の幸福を一体として考え、「自分を幸せにすることも社会貢献の一部」と捉える意識を持つ。
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
