フィラメント公式YouTubeチャンネル『新規事業お悩み相談室』では、実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリスト村上臣さん、グローバルなスタートアップ投資家として有名なリブライトパートナーズの蛯原健さん、そしてフィラメントCEOの角勝が相談員として回答しています。
本記事では、動画で配信している『新規事業お悩み相談室』を1分で読めるダイジェスト版としてお届けします。
今回いただいた相談は「遠慮なく本音で意見を述べ合えるチームワークの醸成とメンバーの引き出し方」です。
質問者:
IT業界 Bさん
相談の背景や理由:
新規事業チームのプロジェクトリーダーを担っていますが、コミュニケーションの課題に悩んでいます。特に、遠慮なく本音で話せる雰囲気が不足しているため、チーム内での深い信頼関係構築やアイデアの自由な発信が難しい状況です。(私の一方的な発言が空回りしている感じもあります。。。)チームでオープンなコミュニケーションを促し、各自の意見や能力を最大限引き出す方法についてアドバイスをお願いいたします。
角:本日のご相談はIT業界Bさんから「遠慮なく本音で意見を述べ合えるチームワークの醸成とメンバーの引き出し方」についてです。結構、現在進行形の生々しいお悩みでございます。これは心理的安全性方面として村上さんからお伺いしたいと思うんですけど、いかがでしょうか?
村上:心理的安全性って、特に日本では誤解されてる気がしていて、なんか「ワイワイして楽しくぬるくやろう」みたいな雰囲気が漂っていますけども、本当の心理的安全性のある職場というのはめちゃめちゃきついんですよ。なぜならば、忖度なく厳しい意見も言い合える環境なので、特にリーダーの人にとっては大変厳しい環境なんです。今は何を言っても否定されるメンバーからの意見も許容して、多様な意見を尊重し、いいゴールに向かって一緒に働こう。これが心理的安全性の定義です。
この相談者さんの話で気になるのは、「一方的な私の発言で空回りしています」という認識をされている点ですね。空回りしているかも、意見を引き出せていない、というギクシャクした状況を認識していることは、リーダーとして素晴らしいと思います。ただ、ちょっと問いたいのは、「メンバーの意見を本当にあなた求めてますか?」ということなんですよ。
おそらく発言量としては相談者の方が多くて、何か言っても何も意見が出てこないから「これはまずいぞ」となっているのだと思いますが、本当にメンバーの意見を求めているのか? ひょっとしたら、自分が思っている方向に早く進みたいと思って発言をされていませんか?つまり、メンバーからすると、多分何度か意見をしたことがあったんだと思うけど、ちゃんと聞いてくれなかった、みたいな経験があるんじゃないかと思うんです。だから、「もうこの人は結局自分のやりたいようにしかやらないから、言っても無駄なんじゃないか」みたいな空気が、チームに出ていませんか、というのを一度振り返っていただきたいんです。なので、僕の提案としては、全メンバーと1on1をしてください。そして、本当に耳を傾けてください。8割方、向こうに話させるために質問を投げてください。自分の意見はその場では絶対に言わないでください。
角:なるほど。
村上:聴くということをまず実行して、聴いた後に良いアイデアや参考にすべき意見が出た場合、これをチーム会などで共有します。まず、事前に「これから1on1を設定します。私は一切話さずに聞きますので、どんな厳しい意見でも遠慮なく言ってください」とメンバー全員に伝えます。もちろん、それだけでは難しいでしょうから、質問を投げかけながら本音を引き出していきます。その実行後、改めてチーム会を開き、皆が出してくれた意見を共有します。たとえば、「風通しが悪い」「指摘が厳しい」といった意見があったとします。これに対し、「私はすぐに改善します、アクションを取ります」と明確に宣言し、具体的にいつまでにこういう対応をしますと示してください。もしくは、「コミュニケーションを改善するために、週次でブレインストーム会やランチ会を実施します」といった具体的なアクションをすぐに実行します。そうすることで、「この人は変わるんだな」「意見を出したら本当に聞いてくれるんだ」とメンバーに思ってもらえれば、状況は一気に改善するはずです。
重要なのは、意見を出したら、それがイエスでもノーでも「ちゃんと聞いて、オープンにアクションをとっている」とメンバーに理解させることです。全員が自分の意見が通るとは思っていません。ただ、チームへの貢献が良いことにつながるという認識を作ることが、まずできることです。
次に、ゴールの共有ができていない可能性が高いです。短期、中期、長期の目標を設定し、「この3ヶ月、私たちはここに向かっています。これをみんなで達成したいので、意見を出してください」と投げかけます。特に長期ビジョンについては、「私はこんな世の中になると思っているが、正直自信がないので、みんなでしっかり考えて良いプランを作りたい」というように、リーダーが自信がないことを開示するのは、むしろ良いことです。強力に引っ張る「ストロングリーダー」よりも、みんなを巻き込んで大きな達成に向けて一つの方向に向かうリーダーシップが求められています。そこで長期ビジョンをみんなで作り上げ、完成したら、「これに向かってみんな頑張ろう。みんなの役割はこれです」と設定していく。僕からはこんな感じですかね。
角:今回の質問のみへの回答というよりは、チームビルドそのもののお話ですね。同時に、これからというか今のリーダーシップそのものの話でもあったように思います。
村上:私もこうやって偉そうに言っておきながら、ちゃんと自分でできてるかどうかわからないですけど、僕自身もいろいろな会社でやるにつれて毎回悩みながら現在進行形で
学んでいます。今時点でのベストプラクティスをお伝えするならこんな感じかなというところでお話をさせてもらいました。
角:ありがとうございます。質問者さんは「ゴールの共有ができてない」っていうこともおっしゃってましたけど、チームとしてのビジョンを作った方がいいみたいなことですかね?
村上:やっぱりアイデアの種はリーダーがいくつか出さないといけないと思うんですよね。ただ、それが結論ではないですし、そんなのを一人で考えられるのってスティーブジョブズか孫正義さんくらいだと思うんで(笑)。そういう天才みたいな人たちの個人芸は大体多くの人にとっては参考になりませんので、我々のような凡人ができることとしては、いかにチームを巻き込んでより良いアイデアにしていくかということですよね。そしてそれを仕組みとして組織にインストールすることがこの組織のリーダーの今の役割なんじゃないかなと思います。
角:ありがとうございます。蛯原さんはいかがでしょうか?
蛯原:はい。もう村上大先生にほとんどお話しいただいたので、その通りだ、まるで教科書を読んでいるようなアドバイスだと感心しました。僕は逆に、これは新規事業のお悩みというより、ビジネスパーソン全般のお悩みだと感じています。そして、スタートアップ、特にシードやアーリーステージでは、この種の問題はあまり聞きません。なぜなら、村上さんが言われたゴール設定と関係していると思うからです。明確なゴールがあり、「とにかくそれをやらなければならない」ということが明確だと、純粋に忙しいんですよね。来週のリリースのような切迫した期限があり、各種タスク管理ツールでやるべきことが明確な状況では、「これどうだったっけ?」と確認しながら進めざるを得ません。そうした中で、「疲れたから、みんなで飲みに行こうか」といった行為も自然に生まれやすいのではないでしょうか。
つまり、極端な話ですが、そこまで忙しくないと、こういった悩みは出てきやすいのです。これは、ビジネスだけでなく、家族や友人関係にも通じるものがあると思います。明確な目的があり、それに向かってみんなで一生懸命取り組んでいるとき、人は頑張るものです。
ご相談の中に「チーム内での深い信頼関係構築」とありますが、今の時代に深い信頼関係を築くのは非常に大変です。信頼関係を築く唯一の方法ではないかもしれませんが、一つは「ハードシングス(困難な状況)を共にくぐる」ことです。これを共に経験すると、「同じ釜の飯を食った」という一体感が生まれるため、一生懸命頑張ろうという気持ちになります。ですから、ゴールを設定し、「それに向かってみんなでやろうぜ」と、指示を出すリーダーではなく、一緒になって引っ張るというリーダー像になると良いのではないかと思いました。
角:お二人の話が深くて、僕も付け足すことはないと思っていたのですが、蛯原さんがおっしゃった「スタートアップだとこの問題を聞かない」という話から、このBさんのチームは、強い上下関係や先輩後輩の落差があるのかなと逆説的に思いました。つまり、リーダーが「先輩だから頼られている」という自分で感じる圧力を抱え込み、それが周りにも漏れているのではないか?その結果、リーダーが自分の不安や自信のなさを打ち明ける、自己開示ができる状態を自分で作れていない感覚があるのではないかという気がしました。
もしそうだとすれば、自分が不安であることをメンバーに正直に言うべきだと思います。やはり、村上さんがおっしゃったように、1on1をしっかり行い、相手の話を傾聴することが重要です。そして、聞いた意見に対し、アクションを起こす理由も含めて全て開示することで、腹を割った関係性をチーム全体で作っていくことが大切だと思います。この関係性の話は、外部の人間には断定できません。だからこそ、自分のチームをよく見て、聴くことが、唯一の解決策を示すものになるのだろうと考えます。ということで、IT業界のBさん、参考にしていただければと思います。
回答のまとめ
1,心理的安全性の確保:
・真の心理的安全性とは、厳しい意見も言い合える環境のこと
・リーダーは自分の意見を控え、多様な意見を尊重し、メンバーの話を8割以上聞く姿勢が重要
・メンバーの意見を本当に求めているかを自己反省し、全メンバーと1on1の対話を行う
2,ゴールの共有と実践的なアクション:
・短期、中期、長期のゴールを明確にし、チーム全体で共有
・メンバーの意見を反映した具体的なアクションを取り、オープンにフィードバックを行うことで信頼関係を築く
・リーダーが自信のない部分を開示し、チーム全体でビジョンを作り上げることで、より強いチームワークを形成する
今回ご紹介した内容は、以下のリンクから動画で視聴できます。
