これまで多くの新規事業チームの伴走をしてきましたが、自分のアイデアを検証する「顧客インタビュー」に苦労しているシーンを数多く見てきました。

インタビューの落とし穴は実際にインタビューする場面だけでなく、インタビューの準備をする段階にもあります。また、前者の中でも、特に危険なのは自分が望む答えに顧客を無意識に誘導してしまう「確証バイアス」という落とし穴です。

今回は顧客インタビューを円滑に進めるための準備、そして顧客理解を深めるために必要な4つの視点を紹介したいと思います。

土岐 泰之(とき・やすゆき)
1977年に日本電気に入社。パソコン事業の創業メンバーとして、PC-8001の商品企画、マイクロソフトとのBASICの共同開発、アプリ開発会社のパートナーづくりを経験し、新規事業における仲間づくりの大切さを学ぶ。その後、米国向けモバイルPC事業、インターネットTVなどの新家電事業、パートナーロボットPaPeRo事業など、多くの新規事業創出を経験。その後はこの経験を活かし、新規事業創出プログラムの設計と実施、メンター活動などを手がけてきた。
独立後は新規事業創出プログラムの設計と改善のコンサルタントや事業創出チームへのアドバイザとして活動中。


1.課題が一般的、抽象的

以前工場の生産性を上げたいという課題を解決するアイデアを持っているチームの支援をしたのですが、このチームがいざ課題を検証するインタビューをしようとしたとき、「『生産性を上げたいですか?』と聞くのって当たり前すぎて『からかってるのか!』と怒られそうなんですが、どう聞けばいいんでしょう?」と、相談されたことがあります。

これは課題の解像度が低すぎるのが原因です。

課題の仮説は、だれに聞いてもYESというような一般的・抽象的なものではなく、ターゲットの顧客「だけ」が持つ仮説であることが大事です。

上の例であれば、生産性を上げるソリューションはすでに市場に山ほどあり、それで解決できている会社はターゲットになりません。既存のソリューションでは解決できない、その顧客特有の障害があって困っている顧客がターゲットです。

なので、解決すべき課題はその障害を取り除くことです。例えば、「どんどん多品種少量生産を求められるようになってきたが、従来の考え方で作業手順書を作っていてはコストと時間がかかって困る。作業手順書を作る時間とコストを4分の1にしたい、これが課題ではないか」というように、生産性向上という一般的な話をターゲット顧客だけが持つ課題に絞り込んでいきます。

ここまでくれば、インタビューで何を聞けばいいのか、どう話を切り出すのが良いのか、頭の中にイメージが湧いてきます。

インタビューを行う前に、ご自分の課題仮説が “ターゲットの顧客「だけ」 が持つ仮説になっているか” を振り返ってみましょう。


2.インタビューの詳しいシナリオを作ろうとする

さて、課題仮説ができて、「よーし!インタビューに行こう!」となったときに、多くのチームはインタビューのシナリオ(スクリプト)を作ろうとします。確かに聞くべき質問を最初に決めておくと安心なことはわかります。大事な質問を忘れない、どの顧客にも同じ質問をするので、比較や分析がしやすいというメリットがあります。

でも、一回でもインタビューを経験した方ならお分かりだと思いますが、インタビューが事前に作ったシナリオ通りに進むことはまずありません。

これは当たり前で、ほとんどの場合、仮説は間違っています。特に初期段階での仮説はそうです。なので、仮説が合っている前提で作ったシナリオは最初の質問の段階で破綻します。

インタビューの詳しいシナリオを作るのではなく、顧客を理解するための大事な視点は何かを考え、それを聞き出すための入口になる少数の基本的な質問だけをだけを決め、後は顧客の返事をベースに「なぜ」を掘り下げていくスタイルがお勧めです。

この「顧客を理解するための大事な視点」とは次の4つです。

①顧客の課題(実現したいこと)は何か?
②それが実現できない障害が何か?
③でも、本当に切実な課題であれば、実現できないでは済まないので、何とかして実現しようとしているはずです。どういう解決策を取っているか?
④それでは満足できていない理由は何か?

まず①を聞きます。これは「1.課題が一般的、抽象的」でご説明した、この顧客だけが持つ課題の仮説を話し、それが正しいかをまず検証します。

正しい場合には、それが課題である理由(上位の課題)を確認し、その上位の課題に対して、数ある解決の手段のなかで、なぜこの課題に注力しているのか、などを聞き出します。また、この課題の切実さやその理由を理解するために、発生頻度や発生することによるペインを聞き出します。

課題仮説が間違っていた場合には、皆さんが想定している上位の課題の仮説をぶつけ、それがあるか、あるならそれを解決するためにどんな課題に取り組んでいるかを聞き出し、同じように深掘りしていきます。

順に②、③、④の質問を繰り出し、それぞれなぜそうなっているかを深堀りしていきます。

こうして④まで行くと、本当の課題に高解像度で辿り着いたことになります。④で明らかになった、既存のソリューションでは満足できないことを解決しつつ、①で聞き出した課題を解決することが皆さんが提供すべきソリューションなのです。


3.相手のことを知らずにインタビューをしている

インタビューの前には事前のリサーチが大事です。B2Bであれば顧客の業務内容、提供している商品サービス、取引先、競合製品など、できるだけ調べておくようにしてください。Webでちょっと調べればわかることも知らないでピント外れな質問をしてしまうと、顧客はあなたの本気度を疑ってしまい、インタビューは失敗します。

また、事前のリサーチがしっかりしていれば、なぜ他ではなく、その顧客にこそインタビューをしたいのかを語れます。これができるとインタビューのアポ取りも成功率も上がるし、インタビューの場でも、そこまでしっかり自分を理解してくれているなら、自分の課題を解決してくれるかもしれないのでこちらもしっかり答えようと考えてくれます。

事前のリサーチはデスクトップリサーチで十分です。ただし、インタビュー先が自社の顧客である場合には、どんな取引をしているのかはちゃんと把握しておいてください。そんなことも知らずに来たのか!と不快に思われてインタビューがうまくいかないのはよくある失敗です。

なお、デスクトップリサーチは延々と続けてしまいがちな面もあるので、最初に10時間だけ、とか自分で決めてから始めましょう。


4.他社の製品を紹介するなんて言語道断と考えている

「インタビューの詳しいシナリオを作ろうとする」のところで紹介したインタビューの進め方のなかで、

③でも、本当に切実な課題であれば、実現できないでは済まないので、何とかして実現しようとしているはずです。どういう解決策を取っているか?
④それでは満足できていない理由は何か?

を聞き出すことを紹介しました。

このとき、競合製品がわかっているのであれば、それを紹介してしまい、なぜそれではダメなのかを聞き出すは良い手です。

通常の営業活動では競合製品を顧客に紹介するなんてことはありません。でも新規事業の顧客インタビューではこれはアリです。そもそも既存の商品で解決してしまうのであれば新たな製品を出す意味はありません。たまたま顧客がその商品の存在を知らなかった場合でも、皆さんがそれと正面からぶつかる商品を出せば、その競合会社は全力で立ち向かってきます。先行しているというのは凄い強みであり、マーケテイング、営業、顧客サポートの仕組みやノウハウにしても、生産のノウハウにしても、先行している会社は新規参入の会社に対して圧倒的な強みを持っています。

なので、この段階で競合製品では解決できない課題を見つけ出すことが大事で、そのためには競合製品のパンフレットとかWebサイトを見せて、これはどうですか?と聞いてしまうのはどんどんやってOKなのです。


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