たたき台をつくるのは一般的にやりたくない仕事、貧乏くじ仕事になりがちだという話は以前の記事にも書いた通りです。

しかし、たたき台は新規事業や既存事業の改善提案など、チームにとって有益なアイデアの表明そのものであり、チームがより良い仕事をするためのきっかけです。

そのため、チームメンバーの誰もがリスクを感じない「たたき台をつくりたくなる環境」であることは、前向きな良い仕事をするために不可欠な要素と言えます。

そんなたたき台をつくりやすい環境について今回は説明したいと思います。


本当の「心理的安全性」は厳しさを伴う

たたき台をつくるという仕事がなぜ嫌がられるのかについて、前回の記事では

  • 重箱の隅つつきー粗さがしばかりで評価されないリスク
  • 自己不満足ー自尊心や自己肯定感の損耗リスク
  • 言い出しっぺ負けー自分の仕事を増やすリスク

の3つのリスクとともに、自己の能力全般に関する自己開示が伴うことも恐怖や躊躇につながっていることをお伝えしました。

逆に言えば、こうしたリスクが発生しないと確信できれば、たたき台をつくりやすくなるはずです。

では、どうすればたたき台をつくるリスクを減らせるのか、そのためのキーワードが「心理的安全性」です。

ハーバード大学のエイミー・エドモンソン教授は著書「恐れのない組織」(日本語版 野津智子訳 村瀬俊朗解説 英治出版)の中で、心理的安全性について「対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境」と定義づけています。

また心理的安全性が低い環境では以下の4つの不安が顕著なことが知られています。

  • 無知だと思われる不安
  • 無能だと思われる不安
  • 邪魔をしていると思われる不安
  • 後ろ向きだと思われる不安

つまり、無知、無能、邪魔、後ろ向き…などと思われないようにするために、本来行うべき発言の抑制、見て見ぬふり、アイデアの死蔵といった様々な生産性の損失が発生しているわけです。

こうした不安はほとんどの組織が抱える課題だと思いますが、こうした発言阻害要素を極小化していくことが心理的安全性の実現に近づくことともいえるでしょう。

ですが一方で、心理的安全性が実現できればそれだけで生産性が高まるのかというと、エドモンソン教授はそれをきっぱり否定しています。「自動車を動かすのが燃料でないのと同様、組織を動かすのは心理的安全性ではないのだ」と。

では組織を動かすのは何か?それは「目的」です。エドモンソン教授は「価値ある目的を共有し、明確にし、絶えず強調する」ことを心理的安全性の確保と並ぶリーダーの仕事だと指摘しています。

我々フィラメントではここから学んで、社内における心理的安全性を

「目的達成のためにフラットに何でも言い合える組織的態度」

であると定義しています。

心理的安全性についてこうやって掘り下げて考えると、字面から直感的に抱く「仲良しグループ」的な感覚とは真逆の、目的を何より優先するプロフェッショナル組織の姿が見えてきませんか?

実際にこう定義して仕事に取り組んでみると、目的達成とはどういう状態で、そのために何をするべきなのか・すべきでないのか、自分がやっている仕事は目的達成のためにどんな価値があるのか・ないのか、他のチームメンバーの仕事はどうなのか…そういったことを考えることがありたまえになってきます。身の入らない仕事ぶりだと他のメンバーから指摘をされることもあるでしょうし、緊張感のある職場になるわけです。 本当の意味での心理的安全性とは厳しさを伴うもの…僕たちはそう考えています。


雑談会に来たのは部長だけ ー 失敗事例から学ぶ心理的安全性のつくり方

こういう話をすると必ず話題になるのが心理的安全性はどうやったら作れるのか?というトピックです。 心理的安全性をつくる詳細なヒントは様々な書籍に詳しく書かれていますが、我々フィラメントは心理的安全性が低い組織で起こりがちな失敗事例を反面教師として、そうならないようにどうすればよいかを考えています。

実際に僕が耳にしたことがある事例は以下のようなものです

  • チーム内で雑談会を開いても参加者が部長だけだった
  • 1on1で部下が話をしてくれない
  • 社内のSNSやチャットツールで書き込みする人がいない

これらが発生している組織の内情を詳しく聞いてみると、ある共通点がありました。それはチームのコミュニケーション量が少ないということです。

コロナ禍以降、テレワークのリテラシーが向上し、それに伴ってリモートコミュニケーションに必要なコストは激減しました。特に非同期コミュニケーションを可能にするチャットツールが導入されていれば、スタンプなどの活用も含めちょっと誰かと触れ合うこと、誰かを褒めたり、和ませたりすることなどは一瞬で済みます。 コミュニケーションコストが減っているのにコミュニケーションが増えないとすると、それはコミュニケーションを増やす理由がない、必要以上のコミュニケーションをするメリットが感じられないからだと思います。

ここを起点に、コミュニケーションを増やすためには「チーム内でコミュニケーションをすることのインセンティブ」を意識してつくることが大切なんじゃないかと考えました。

コミュニケーションのインセンティブとはなにか? それはコミュニケーションすることが楽しいという実感が得られることだと思います。 そうした実感が得やすい環境を組織として作っていくことができれば、心理的安全性が高い状態に近づけるのではないかと思います。


ユーモアは心理的安全性の厳しさを和らげ、コミュニケーションを増やす

コミュニケーションが楽しいという実感が得られる環境。 もしそんな環境をつくることができれば、もう一つの課題である「心的安全性の厳しさ」を和らげることもできそうです。

そうした点を意識してフィラメントでは自社で大事にしたい社内文化を6つ、以下のように明文化しています。

フィラメントで掲げているCulture
①キュリオシティ(収集と発見)
②ユーモア(和みと励み)
③クリエイティビティ(発想と展開)
④コラボレーション(俯瞰と循環)
⑤オーナーシップ(熱意と決意)

このうちの②ユーモア(和みと励み)がコミュニケーションを楽しむ文化の醸成を意図した項目です。

ユーモアという単語自体は皆さんご存じだと思いますが、その正確な定義をご存じですか?

実際に辞書を引いてみても定義しにくい言葉らしいのですが、フィラメントではこう定義しています。

ユーモアとは「ある行動や事象に対して本来の意味・目的とは異なる視点から別の意味や見解を生成し、それ(そのギャップ)を楽しむ感覚」

わかりにくいと思うので、実際のお笑いコンテンツを例に挙げると、漫才やコントなどでも多くの場合はこういう構造で展開していきますよね。

ある状況の説明

❷それに対するボケ(❶の状況には似つかわしくない別な視点・意味の創出)

❸それに対するツッコミ(❶と❷のギャップの指摘とそれを楽しむ感覚の誘発)

ほかにも様々なユーモアのコンテンツがありますが、この「意図的に作り出される視点の違い」と「それに気づくきっかけの提供」の二つは多くの場合において共通していると思います。

ある物事に対して、違う目線でみる、違う目線で評価できるようにする、そしてその違いを楽しめる感覚を養う。この「違いを楽しめる感覚」があれば、仕事上でなんらかのミスがあったとしてもそれを指摘し受け入れつつ、笑いに変えつつサッと水に流すこともできるようになると思います。

もう一つ、ユーモアの重要な性質があります。それはユーモアは一人では成立しないということです。

ユーモアは「別な視点での意味の創出とその表現」と「それを観測した別の誰かからの指摘」がセットになっているため、複数人で息を合わせることでスムーズに成立していきます。こうした特性はチームメンバーのクセ=考え方の特徴を知り、チームワークを皮膚感覚レベルで浸透させていくために大きな意味を持ちます。

ユーモアを通じてお互いの理解を深める中で失敗からは学ぶが人を責めたりはしない、あるできごとに対する感情と、それに関係した人に対する感情を一緒くたにせず、ちゃんと分離できる感覚はまさにユーモアによって培われるものだと思っています。


フィラメントで実践・心理的安全性を具体化するユーモアの魔法3選

組織内でユーモアを浸透させるためにどうすればよいか、我々フィラメントが実際に行っている内容を厳選して3つ、お伝えします。

「キムタク」は最高の誉め言葉ーslackで変なスタンプをつくる
slackなどのチームチャットツールでよくある機能のひとつがコメントに対してクイックに反応を返すためのスタンプ機能です。Facebookなどでもある「いいね」ボタンのバリエーションを増やしたものといえばわかりやすいでしょうか。このスタンプは自分達で作成することもできるのですが、フィラメントでは社内でユーモアあふれるメンバーがどんどん自作してくれます。 例えばこの「キムタク」スタンプはユーモアのあるスタンプとして社内で名高い作品です。 作成者に「どういう意味のスタンプなの?」と聞いたところ「日本一のオトコマエって意味の誉め言葉です」という答えが返ってきました。 社内では「キムタク」スタンプを上回るようなユーモアのあるスタンプを日夜みんなで考えています。

豪華ゲストもたびたび降臨ー雑談会(フィーカ)の開催
コロナ禍以降、リモートワークが広まる中で雑談の機会が激減したことは一時話題になりました。そこから、意識的に雑談の機会をつくる会社も出てきましたが、フィラメントもそうした会社の一つです。 雑談会といってもリモートでやると盛り上げるのが大変ですし、みんな忙しいので、だんだんと開催されなくなる傾向がありますが、フィラメントでは今でも出席率ほぼ100%のフィーカ(スウェーデン語でコーヒータイムの意味)という雑談会を開催しています。

フィラメントのフィーカでは雑談会といいつつもテーマを設定(過去には「投資」とか「カメラ」とかありました)してみたり、社外からゲスト(著名人が多い)を招いて普段聞けない話を教えてもらったりと「面白がりながら自分達の世界を広げる」機会となるよう意識しています。

上位役職者がボケを実践 - 若手のツッコミを誘引してフラットな空気をつくる
若手メンバーだと、上位役職者に指摘をすることは緊張を伴うものだと思います。なのでシニアメンバーほど普段からどんどんツッコミをいれてもらうことを意識しています。ツッコミというアクションは誰にでも「フラットに指摘する」練習にもってこいだからです。そのため上位役職者ほど、日常から様々な意味を汲み取り、普通の人が気づきかないことに気づける「視点の豊かさ」が求められます。新聞や漫画を読む、テレビやYouTubeを見る、そういった日常的なインプット活動の中で「これはどう見たら面白くなるか?」を常に考えるようになるため、発想力のトレーニングにもなります。


ユーモアとコミュニケーションで話題を転がして大きな輪をつくる

ユーモアはコミュニケーションをしやすい文化をつくるために役に立ちます。でも文化をつくるだけではコミュニケーションは増えません。

コミュニケーションにはきっかけが必要なんです。それは例えば「複数のメンバーが興味を持つ話題」です。

複数のメンバーがちょっと話をしたくなる共通の話題を誰かが投げ込むと、その話題に関して、対話が生まれます。

対話が進行していくと、その話題を知らないメンバーは、詳しいメンバーに色々な質問をしていきます。彼らはその質問に答え、その答えから次の質問が生まれ、そうする中で話題が展開・拡散していきます。 先日のフィーカではサッカーに詳しいメンバーと詳しくないメンバーとの間でユーモアを含んだ質問や回答が繰り広げられ、古今のサッカー漫画からバスケットボール、果てはアニメや音楽にまで話題が広がっていきました。

一つの話題を投げ込むと、それが芯になってどんどん転がり、気が付くと巨大なコミュニケーションの輪ができあがっている…そんな光景を何度も目にしました。

こんな風にコミュニケーションがひとりでひろがっていくような環境があれば、新しいアイデアを披露することも楽しめそうだと感じられるのではないでしょうか。

たたき台を作りたくなる環境、それはコミュニケーションが豊富で心理的安全性が豊かなチームの関係性であり、そうした関係性を支え育む栄養源がユーモアなのです。


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